三が日も過ぎあわただしく日常が始まりました。正月気分もまだまだ抜けないのではないでしょうか。暦の上では今日から「小寒」。いよいよ寒さ深まる時となります。続く「大寒」とともにこの30日間を「寒中」といいます。寒中見舞いを出す時期として私たちの生活にも馴染みがありますね。年があらたまると不思議なことに、何故か心も新たに何かに踏みだそう、チャレンジしてみようという気持ちになりませんか。寒い時こそチャンスかもしれません。充分な暖房もなかった昔の人々はどのように乗り越えてきたのでしょうか。学べるところを探してみましょう。
何といっても鍛錬の時! 寒い冬こそ頑張ってます
お正月明けから行われるのが寒修行や寒稽古です。習い事をなさっている方には大事な緊張する時期かもしれません。
その始まりは仏教で行われている寒修行からきているようです。寒30日間に水を浴びて身を清める水垢離や誦経、座禅、托鉢など寒さを堪え忍んで修行を行います。これにならって武芸やスポーツ、音曲などの習い事も特別な稽古が行われることがあります。仕事が始まる前の早朝または夜間に仲間で集まって互いに高め合う寒稽古は、1年の始まりに気を引き締めて新たに精進を誓う絶好の時かもしれませんね。
小つづみの血に染まりゆく寒稽古 武原はん
寒いゆえに厳しさはまし、辛くもうやめたいと何度も思うのですが、歯を食いしばってやり遂げた時の清々しい気持ちは言いようもなく嬉しく感じます。のちのちになると懐かしい大切な思い出になるものです。冬の厳しさをステップアップのチャンスとしたいですね。
寒に降る雨は恵みの雨ってホント?
「気仙よいとこ寒九の雨に赤い椿の花が咲く」
岩手県の気仙地方に伝わる気仙甚句です。唄われる「寒九の雨(かんくのあめ)」とは寒に入って9日目に降る雨のこと。寒さも冷たさも厳しいのに、この日に雨が降ると豊作だと言い伝えられています。冬の時期日本列島の気圧配置は西高東低の冬型です。太平洋側では晴天が続きほとんど雨が降りませんからかなりの水不足になっているのです。畑の土が乾いているこの時に降る雨は恵みの雨、慈雨となるのです。気象情報などなくとも昔の人はちゃんと空と大地を見つめていたのですね。青森県の八戸地方にも「かんぐのあめはよながえだ」「寒九の雨は豊作だ」といって喜ぶそうです。
うつほどに藁の匂ふや寒の雨 金尾梅の門
前の年に収穫した稲藁を打つのは冬の仕事。藁うつ中に聞く雨音は今年の稔りを期待させます。雨の湿気で藁もより匂いたちます。寒さの中での喜びが感じられる一句です。
参考:『雨のことば辞典』倉橋厚・原田稔共著 講談社学術文庫
寒い今だからこそできることはたくさんありました!
ふだん食べている食品の中には寒さを利用して作られるものがたくさんあるのはお気づきでしょうか? パリパリとした歯ごたえの沢庵やガッコ漬け、出汁がしみた高野豆腐は寒中に作る保存食品として定番といえますね。寒風に大根や豆腐を晒して水分を抜き、味をしみこませたりそのまま保存したりとこの時期の寒さを利用しています。
ほかにも味噌や醤油といった発酵食品もあります。もちろん日本酒も忘れてはいけません。「寒仕込み」ということばを聞いたことがあると思います。発酵させる時の温度がとても大切なのです。温度が高ければ発酵は速く進みうま味は出ずにカビが生えたりします。この寒さこそじっくりと発酵させる最適な温度といえるのです。またこの時期の水は「寒の水」といわれ腐りにくいとされています。寒中に寒の水で仕込み暖かくなる頃まで発酵に時間をかけるというのは自然を生かした知恵を感じませんか。
月に吊り日に外しけり凍豆腐 高浜虚子
沢庵を漬けたるあとも風荒るる 市村究一郎
佇めばつぶやく醪(もろみ)寒造 岸 風三楼
寒さが厳しくなるこの時期、惜しみなく身体を動かし鍛錬して食べ物をこしらえ、少しでも豊かな生活をと努力している姿を知ることができました。暖かい部屋の中でぬくぬくとしている私たちも、安楽な生活に甘んじることなく寒さに向かってしっかりと我身を鍛えていきたい、そんな気持ちにさせられませんか? 寒さの中に豊かさを見つけてこそ春が楽しいかもしれませんよ。