寒さが増すこの頃、頭から足先まですっかり重装備のかたもいれば、しまい込んでいた分厚い手袋や襟巻を、取り出しはじめる地域もあるかと思います。季語にファッションアイテムがずらりと揃うのは、冬の時期ならでは。レトロ感覚漂う装いも現代人の日常も、ともに交差する俳句群をご紹介します。
外套の裏は緋なりき明治の雪
ねんねこ、ちゃんちゃんこ、褞袍(どてら)、股引、雪合羽(がっぱ)、頭巾‥冬の季語の衣類には、若い人には馴染みがなかったり、あるいはデザインや機能性が高まり、横文字の呼び名のファッションアイテムに変わったものも少なくありません。
しかしノスタルジックなアイテムのみならず、一連にはセーター、ジャケツ、ショール、マスクのように、カタカナの季語も含まれます。また襟巻、膝掛、外套、冬帽子など、カタカナの呼び名と併用されて、今もポピュラーな季語が多くあります。
そんな中から、まずは季語が「外套」の俳句をあげてみます。オーバーやコートも同義ですが、外套と呼ぶと荘重な雰囲気となりますね。外套といえば、ともにソフト帽を連想する人も多いでしょう。
・外套と帽子と掛けて我のごと 高浜虚子
・外套の裏は緋なりき明治の雪 山口青邨
・外套の襟立てて世に容れられず 加藤楸邨
・外套のなかに子を負い牛を避く 金子兜太
・ルオーの絵見しよりオーバー重たしや 石谷秀子
・外套の胸の底まで荒野かな 草間時彦
・修道士黒き外套着て若き 大塚千舟
冬帽子幾たび人と別れけむ
次はその外套と相性の良い、「冬帽子」の句です。欧化主義が進んだ明治時代には、帽子が大流行。大正から昭和にかけては、冬帽子といえば男性の中折帽を指すほどだったようです。今もますます帽子を取り入れたファッションは大人気で、ベレー帽、ニット帽、フェルトハットなど、冬帽子のバリエーションは広がるばかり。ちなみに夏の帽子は、「夏帽子」として季語では区別されます。次にご紹介する冬帽子の俳句群は、まるでひとつひとつが物語の如くです。
・癆咳(らうがい)の頬美しや冬帽子 芥川龍之介
・別れ路や虚実かたみに冬帽子 石塚友二
・冬帽子幾たび人と別れけむ 西村和子
・父が来てくらがりへ置く冬帽子 星野昌彦
・旅の荷の冬帽を出すときが来し 八木沢高原
・冬帽を真深かにこの世遠ざける 中村明子
・通過駅挙手駅長の毛皮帽 大津希水
神学生手袋黒くカミュ読む
そして季語「手袋」の句です。手袋といえば指と同位置にあるからか、五感に近い、触感が強い句が多いようです。遠い風景や行事を詠んだ俳句とは、また別の空気感が漂いますね。装いやファッションアイテムを編み込んだ句には、ストレートな身体感覚が満載。コンテンポラリーモードな俳句鑑賞が楽しめます。
・月光が革手袋に来て触るる 山口青邨
・手袋とるや指環の玉のうすぐもり 竹下しづの女
・漂へる手袋のある運河かな 高野素十
・手袋の十本の指を深く組めり 山口誓子
・手袋に五指を分かちて意を決す 桂信子
・神学生手袋黒くカミュ読む 高島茂
・手袋のままに握手をして父子 村瀬 晋
<俳句の引用と参考文献>
『新日本大歳時記 カラー版 冬』(講談社)
『読んでわかる俳句 日本の歳時記冬・新年 』(小学館)
『角川俳句大歳時記「冬」』(角川学芸出版)
『第三版 俳句歳時記〈冬の部〉』(角川書店)