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桜の花をちぎり取ったのは誰!? 七十二候「雀始巣(すずめはじめてすくう)」


3月20日から春分の初候「雀始巣(すずめはじめてすくう)」となりました。宣明暦での春分初候「玄鳥至(げんちょういたる)」が、貞享暦を編纂した渋川春海により本朝七十二候でこのように改変され、そのまま現代の暦でも採用されています。人間にとってもっとも身近な野鳥であるスズメは、春を迎えるこの頃より繁殖をはじめ、年に2~3回子育てのサイクルを繰り返します。近年では彼らの子育て事情も人間社会と同様厳しくて、少子化が加速しているようです。


まるでサスペンス!? スズメたちの子育て

人間社会の形成する村落や都市に依存して生息する野生動物をシナントロープ(synanthrope/ギリシャ語が語源でsyn=共に+anthrop=人間)といい、スズメ(Passer montanus)はその典型。

有力な説では、遠い昔、アフリカで進化した人類が全世界に散らばるのに伴って、アフリカからユーラシア大陸全域に生息を広げた、といわれています。

アフリカにいるオオスズメは羽に鮮やかなレモン色が目立ちますが、人間のすぐそばで暮らすために、現在のスズメのような茶とグレーの目立たない羽色に適応変化したと考えられます。

スズメが人間の近くで巣作りするのは、言うまでもなく他の天敵、カラス、ヘビ、野良猫、ネズミ、いたち、モズなどが近づきにくいため。人間の町に暮らさず森に住むスズメは、タカやフクロウなどの巣のすぐそばに寄生するように巣がけて、ちゃっかり彼らを用心棒に使います。

スズメは木の洞や空になった蜂の巣のほか、瓦屋根の隙間などが大好きで、かつては盛んに人家の屋根にイネ科の草を運び込んで巣を作りましたが、近年瓦屋根も木造の隙間の多い構造もなくなり、巣作りの場所さがしに苦労しているよう。よく見られるようになった場所として電柱のトランス(変圧器)を固定する器具や、看板の金属枠のポールの中、信号機の隙間など。都市部のスズメの巣の調査では、ほとんどが電柱などの器具の穴、隙間に作られていたそうです。

母鳥は5個前後の卵を毎朝早朝に一個ずつ産み、「止め卵」と呼ばれるちょっと殻の色が白かったり斑が変わっている卵を産むと、抱卵をはじめます。

ところでスズメはつがいごとに広範囲の縄張りを作る他の野鳥と異なり、一定の集団で高密度に固まって巣作りをする習性があります。ごく狭い範囲にスズメの巣が数十個あることも普通。こうして集団をなすことで身を守る知恵なのでしょうが、逆に集団内でのトラブルも起きることになります。たとえば仲間の巣の卵やヒナを外に捨てて乗っ取ってしまうなんてこともおきます。

また、実はスズメは一夫多妻で、オスは2~3羽の「妻」をかけもちして、それぞれのメスの巣の卵も抱卵して回るのですが、これなども集団性から来る習性でしょう。

抱卵期間は約2週間ほど。同じ巣の卵は同時に孵化しますが、別の巣とは同じ日とは限りませんよね。オスは抱卵までは全ての妻に協力しますが、どれかの巣の卵が孵化すると、先に生まれた巣の雛の世話しかしなくなります。

給餌というのは労力がかかるわけで、全てを面倒見ることは不可能だからでしょう。しかしそうなると、孵化が遅れた巣のメスは、母鳥だけで給餌を行わなくてはならず、雛が餓死してしまう確率が高まります。

そこで、なんと遅れた側のメスは、先に生まれたメスの巣を隙を見て襲撃し、雛を殺してしまうという暴挙に出るこことも!そうすれば、父鳥が自分のところの雛の世話をしてくれるようになるからです。

何とも痛ましいというかドロドロしていて、昼ドラかサスペンスを見るようですが、それくらい子育てというのはメスにとってもオスにとっても、必死なものだということでしょう。

スズメのつがい関係は冬が近づいて繁殖期が終わるとリセットされ、翌年はまた別の異性とつがいになるといわれています。

ちなみに、スズメは生まれた場所にとどまるのはオスで、メスは生まれ故郷から別の場所に移動します。そして別の場所のオスとつがい、子育てをするようになるのです。


一番身近ゆえに一番「憎らしい鳥」に?

スズメは稲などの食害をもたらす印象が強く雑穀食と思われがちですが雑食性で、特に子育て期間は盛んに昆虫を食べ、また雛の餌にも高たんぱくの昆虫類や節足動物を与えます。

中国では文化大革命の大躍進政策の時代に、ハエ、カ、ネズミとあわせてスズメを四害虫のひとつとして徹底的に駆除する作戦「除四害運動」に出ました。スズメを大量に駆除したことから、「打麻雀運動」「消滅麻雀運動」(中国ではスズメを麻雀と表記します)ともいわれました。

けれども害虫をせっせと食べていたスズメの駆除は、かえって害虫の大量発生を招き、農業生産に壊滅的な被害が生じ、大凶作に見舞われたといいます。

作物を食べるからとスズメを駆除してかえって害虫が発生してひどい目にあった、というような戒めの昔話は世界の各地にあるのに、知らなかったのでしょうか。

もっとも、日本でもスズメは実は大いに嫌われていました。東日本、特に新潟県を中心とした地域で小正月(1月14、15日)の頃に行われている「鳥追い」行事では、「鳥追い歌」が歌われますが、そこで追い立てる「憎らしい鳥」の代表として、必ず登場するのはスズメなのです。

おらがいっち(一番)にっくい鳥は

ドウ(トキ)とサンギ(サギ)とコスズメと

柴を抜いて追ってった

どこからどこまで追ってった

佐渡が島まで追ってった (北魚沼郡堀之内町)

おらが浦の早稲田の稲を

なあにどり (何鳥) がまくろうた

すずめ鳥がまくろうた

すずめ諏訪鳥

飛立(たち)やがれホーイホーイ

ホンヤラホンヤラホーイホーイ (佐渡)

農作物を食べる害鳥としてカラスでもムクドリでもなく、スズメがくりかえし登場しています。

そして、スズメと同様の立場に立たされているのが意外なことに特別天然記念物に指定され、保護繁殖活動が続けられているトキ(朱鷺、鴇、Nipponia nippon)であること。

トキは江戸時代までは全国に数多く繁殖し、典型的な田を荒らす野鳥であった、といわれています。

それが明治の狩猟解禁と肉食解禁によりいっせいに大量に捕獲され、瞬く間に数を減らして1934年の天然記念物指定もむなしく、戦後の水田の農薬使用や乾田化により餌が減少し、日本国内のトキは絶滅してしまいました。トキは目立つ上に悠長な動きの鳥で狩猟されやすかったからということもありますが、その背景には「害鳥」という固定観念があったからこそ、ためらいなく狩りつくされたのではないでしょうか。


桜の花をちぎり取るのも、スズメたちは人を見て覚えた?

花の蜜を吸うのに特化した蜜食生物というと、昆虫のミツバチや蝶、スズメガなどが代表的です。長い吻を花に差し込み、あるいは体ごともぐりこんで花の蜜を吸います。鳥の中でも花の蜜が好物のメジロは、細長いくちばしを持っていて、容易にくちばしを突っ込んで花の蜜を吸います。

実はスズメも甘い花の蜜が大好きなのですが、ご存知の通り彼らの嘴は木の実をつついたりするのに適した太く短いペンチのような嘴。うまく花の蜜をすえないスズメは、花の付け根をくわえて根元からちぎり取り、裏側の萼筒(がくとう:花と枝をつなぐ茎のような部分)から蜜を吸い取ります。このやり方、私たちも子どもの頃つつじの花をちぎって根元の蜜を吸ったことがありせんか。ちょうどあれと同じです。

普通は、生物がある餌を食べられるようになるには、世代交代を経て形状を変化させるのが普通です。スズメにはそうした変化は見られません。花をちぎって蜜を吸う鳥は、まずスズメ以外にはありません(もしかしたらカラスもやるかもしれませんが、体の大きいカラスには、面倒で実入りが少ないためにあえてやりはしないのかも)。

さらに花をちぎって蜜を吸うのはたいてい桜。人間の品種改良で大量に大きな花をつけるようになった桜を知能の高いスズメは、人間がそうして花をちぎって蜜を吸っていたのを見ていたのではないでしょうか。そしてまねるようになったのかもしれません。お花見で浮かれている樹下の人間たちに樹上からこっそり参加して、花の蜜でイッパイやってるつもりかもしれません。



人間社会の都市化に苦戦し、かつてと比べて個体数が減っていることが、ほぼはっきりしてきたスズメ。それでもまだまだ、もっともよく見かける野鳥であることに変わりはありません。

ありふれているからとぞんざいにせず、私たちの身近で精一杯生きているかわいらしい姿の隣人を見守ってあげたいものです。

(参考)

都市の鳥-その謎にせまる-(保育社)

身近な鳥の生活図鑑 (三上修・ちくま新書)

イラスト図説「あっ!」と驚く動物の子育て―厳しい自然で生き抜く知恵 (長澤 信城・ブルーバックス)

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