桜の開花が待ちどおしいこの時期、気温がグッと下がることがありますが、その状況を「寒の戻り」「冴え返る」などと言います。衣更えまであと2週間と少しですが、これからは着るものにも悩まされますね。
さて3月17日は、イタリアの映画監督ルキノ・ヴィスコンティの命日(1906-1976)です。
おりしも代表作のひとつ『家族の肖像』のリマスター版が「岩波ホール」にて公開中(3月24日まで)です。そこで今回は、彼の映画をざっとおさらいしておきましょう。
「赤い貴族」と呼ばれたヴィスコンティ
ヴィスコンティは、1906年、イタリア・ミラノ生まれ。
実家は13世紀まで遡るイタリアの貴族で、ヴィスコンティ少年は14世紀に建てられた城で育ったといいます。1936年に巨匠ジャン・ルノワールと出会い、アシスタントとして映画の世界に入りましたが、オペラや舞台の演出家としても活動しました。一方、第2次大戦中には共産党に入党、「赤い貴族」と呼ばれました。
映画監督としては1960年代初頭までは、人間の生きざまを虚飾なく描く、いわゆるイタリアン・レアリスモの作風でした。初期の映画で有名なのは、
★『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(1942)
デビュー作。アメリカの小説家ジェームズ・ケイン原作。何度かリメイクされています。
★『若者のすべて』(1960)
*主な出演:アラン・ドロン、クラウディア・カルディナーレ
運命に翻弄される貧しい若者たちを緊張感あふれるタッチで描きます。
ゴージャスなセット、巨額な制作費、そして滅びの美学
これ以降、ヴィスコンティのテーマは、貴族が没落していく様子や退廃的なエロティシズムが色濃く描かれるようになります。豪華な美術や巨額の制作費も話題になりました。
★『山猫』(1963)
*主な出演:バート・ランカスター、アラン・ドロン、クラウディア・カルディナーレ
イタリアの作家ランペドゥーサ原作。シチリア島を舞台に、時代の移り変わりを見つめる老貴族が主人公。後半の舞踏会の美しいシーンは、映画史の語り草です。カンヌ映画祭グランプリ受賞。
★『ベニスに死す』(1971)
*主な出演:ダーク・ボガート、ビヨルン・アンドルセン
トーマス・マン原作。ビヨルン・アンドルセンの美少年ぶりが話題になりました。効果的に使われるマーラーの音楽「アダージェット(第5交響曲第4楽章)」でも有名です。
★『ルードウィヒ』(1972)
*主な出演:ヘルムート・バーガー、ロミー・シュナイダー
バイエルンの「狂王ルードウィヒ」が主人公。イタリア語が話されるのはちょっと不思議ですが、ヘルムート・バーガーの演技は、何かに取り憑かれたようです。ゴージャスで美しく、しかも悲劇的な映画です。ワーグナーの音楽が効果的に使われます。
★『家族の肖像』(1974)
ヘルムート・バーガー、バート・ランカスター、シルヴァーナ・マンガーノ、ドミニク・サンダ
公開当時日本でも大ヒットしました。主人公の老教授はヴィスコンティ自身を投影しているとも言われます。
豪華な出演陣の中でもヴィスコンティ映画に欠かせないのは、ヘルムート・バーガーでしょう。1976年に監督が亡くなった後、「私はヴィスコンティの未亡人だ」とまで発言しています。ヨーロッパの貴族にアメリカ人のバート・ランカスターが抜擢されるのも異例でしたが、実生活でも深い友情で結ばれていたということです。
── ゴージャスさや華やかさが話題になりますが、その深い人間への洞察を感じさせるヴィスコンティの映画は、現代でもその輝きを失っていません。
重厚なヨーロッパ映画は、この頃日本ではあまり見られなくなりましたが、その世界を劇場で体験してください。