厳しい寒さが続いていますが、日本よりずっと寒いロシアをはじめ、ウクライナやベラルーシ、ポーランド、スロヴァキア、チェコなどで古くから使われている「ペチカ(ペーチ、ペーチカ)」。
煉瓦でできた暖炉兼オーブンのことで、日本には1880年代、開拓使によって北海道に伝えられました。
住宅事情などで日本では普及には至りませんでしたが、有名な童謡「ペチカ」などによって多くの日本人にその名が知られるようになっています。
今回は、ロシアの生活に欠かせないペチカの物語をお届けします。
暖房に、調理に……ペチカが大活躍
寒冷な気候で知られるロシア。効率よく暖房を行うために、考え出されたのがペチカでした。
伝統的なロシアの農家では、なんと家の4分の1をペチカが占めていたと言われます。それほど、ペチカは生活に欠かせないものだったのです。
ペチカは暖房に使われたほか、煮炊きするかまどとしても使われました。キャベツの漬け物をつぼに入れて、ペチカの中の灰をかぶせ、ことこと煮る「シチー(ロシア風スープ)」や「カーシャ(お粥)」。もちろん、パンやピロシキを焼くのにもペチカは大活躍しました。
そんな伝統的な暮らしを物語るのが、「ペーチにあるものは全部出せ」という、ロシアのことわざ。お客さまが家を訪れたら、わが家にあるものはすべて出してもてなすものだ、という心意気を表しているのだそうです。
寝床にも、お風呂にもなった?
かつてロシアでは、冬になると家族みんながペチカのまわりに集まったそう。そうして、おしゃべりをしたり、昔話に耳を傾けたりしたのです。また、大きなペチカのまわりはとても温かいため、お年寄りや子どもの寝床としても使われたといわれます。
さらにもうひとつ、ペチカが果たした役割。それは「蒸し風呂」です。寒い季節、人びとは大きなペチカの中に入って蒸気浴をしていたというのです。
ペチカで蒸気浴をすると「病気を防ぐ(癒す)」と、多くの人が考えていたようです。私たちが「お風呂で温まろう」と考えるのと通じている気がしますね。
ペチカに、ネコを入れる理由とは?
これほど人びとの暮らしに密着したペチカですから、それにまつわる言い伝えやことわざも数多く生まれました。
たとえば「子どもをペチカに入れると、元気になる」……。これは、パン生地をペチカに入れるとふっくら焼きあがることから、「変化させる」ものとしてペチカをとらえたことに由来しているようです。
「新しくペチカを造った時には、まずネコを蒸気浴させる」……こんな習慣もありました。縁起をかついでのことなのですが、なぜネコなのか? 面白いですね。
いかがでしたか? ペチカの役割の幅広さに、驚いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ホテルのロビーなどに備えつけられていたり、レストランの名前になっていたりもするペチカ。次に見かけたら、ロシアの人びととペチカのつながりについて思いを馳せてみてくださいね。
参考:リピンスカヤ編(齋藤君子訳)「風呂とペチカ ロシアの民衆文化」(群像社)、荻野恭子・沼野恭子著「家庭で作れるロシア料理 ダーチャの菜園の恵みがいっぱい!」