先日、関東では記録的に早い初雪を迎えました。北日本ではとうに雪の季節ですが、今後更に広いエリアからの初雪の便りが届くことでしょう。寒さはこたえますが、「初雪」は季節の風物詩。古今の初雪を詠む俳句をご紹介します。
「初もの」の本来の意味は?「初雪」に込められた余白
日本の古代には、田から収穫された初穂や山野河海の獲物の初物を、共同体の神や首長に捧げる儀礼が存在していました。そんな由来からも「初もの」には、「はしりもの」のほかに、「珍しい」「縁起が良い」「ありがたい」といった、ある種の信仰心も込められています。俳句の「初雪」にも、単に「初めての雪」以上の意味が込められたケースもありそうです。
初雪や幸ひ庵にまかりある 松尾芭蕉
初雪や水仙の葉のたはむまで 松尾芭蕉
初雪は盆にもるべき詠(ながめ)哉(かな) 宝井其角
初雪や上京(かみぎょう)は人のよかりけり 与謝蕪村
初雪や実は降(ふり)のこす薮柑子 松岡青羅
何と読む?初雪や一二三四五六人
次の五つの句は小林一茶。ほかにもたくさんの「初雪」の句をつくりました。雪国の北信濃に生まれ、歴遊の末に故郷に戻った一茶。初雪は、美しいばかりではなかったことでしょう。それでも、冬のさなかながら、ほっこりした人の営みを感じさせる余韻は一茶ならではです。
初雪をいまいましいと夕(ゆうべ)哉
初雪を降らせておくや鉢の松
初雪や俵の上の小行灯(こあんどん)
初雪に白湯すゝりても我家哉
初雪や一二三四五六人
最後の句は諸説ありますが、読み方はそのまま「はつゆきや いちにさんしごろくにん」で良いようです。人々や子供たちの行き交う様子が眼に浮かびますね。
太宰の初雪の句は?近代は視点が人の軸へ
明治以降近代の「初雪」の句は、江戸の俳諧の世界観よりも、いっそう人の軸へと視点が移動していくようです。それでも初雪を喜び、自然の移ろいに心を留めて思いにふける。そんな時の過ごし方を知っている日本人は、やっぱり幸せですね。
誰かある初雪の深さ見て参れ 正岡子規
初雪や俥とめある金閣寺 野村泊月
うしろより初雪降れり夜の町 前田普羅
山初雪やどりぎの毬白くしぬ 山口青邨
今朝は初雪あゝ誰もゐないのだ 太宰 治
水枕替ふ初雪の夜なりけり 高橋千草
初雪へ園丁鶴を先ず放つ 金田きみ子
いかがでしたでしょうか?先人の作品を味わうのみならず、今度の初雪や積雪に、一句ひねってみませんか?季語と遊ぶ冬も風流なものですよ。
引用及び参考文献:
カラー版 新日本大歳時記 冬(講談社)
第三版 俳句歳時記〈冬の部〉(角川書店)