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令和3年8月の大雨 「記録的な雨量」だったが被害が限定的だった理由


8月11日から21日頃にかけて日本列島周辺に停滞した前線の影響で、西日本から東日本の広い範囲で大雨となりました。27日、日本気象協会は今回の大雨(令和3年8月の大雨)の降雨特性と人的被害の発生について分析したレポートを発表しています。

●令和3年8月の大雨における総降水量

今回の一連の大雨で、一部報道では「平成30年7月豪雨に匹敵する雨量となるおそれ」と報じられていました。実際にどうだったのでしょうか。雨量と被害について検証しています。
国土交通省解析雨量(1kmメッシュ)を用いて、令和3年8月の大雨の期間中である8月11日から21日の11日間における期間降水量の分布図を作成したものが図1(左)になります。大雨特別警報が発表された長崎県、佐賀県、福岡県のほか、高知県でも期間降水量が1,000mmを超えました。図1(右)のように平成30年7月豪雨(期間は2018年6月28日~7月8日の11日間)でも、九州地方、四国地方、中国地方、近畿地方、東海地方の広い範囲で期間降水量が500mm以上となり、特に高知県では1,000mmを超える雨量となりました。
表1は、令和3年8月の大雨と平成30年7月豪雨のそれぞれの期間における日別の総降水量(日本全国の1kmメッシュ雨量の総和)とそれの11日間合計を算出したものです。平成30年7月豪雨では11日間合計で991億㎥の雨が降り、連続11日間の総降水量としては観測史上最大(解析雨量が1kmメッシュ化された2006年5月以降)となりました。
令和3年8月の大雨では11日間合計で約942億㎥の雨が降りました。2つの大雨の11日間合計の総降水量を比較すると、令和3年8月の大雨での総降水量は、平成30年7月豪雨の95%に相当し、総降水量としては匹敵する規模になっていました。

●令和3年8月の大雨における72時間雨量の記録更新状況

図2(左)は令和3年8月の大雨の期間中(8月11日から21日)における72時間雨量の最大値を算出したものです。九州地方や中国地方西部、高知県、和歌山県、岐阜県、長野県、静岡県等で72時間雨量最大値が300mmを超えていることがわかります。
総降水量が匹敵する規模であった、平成30年7月豪雨(図2右)でも72時間雨量最大値が300mm以上となった地点が西日本の広い範囲で拡がっていました。両者を比較すると、令和3年8月の大雨よりも、平成30年7月豪雨の方が72時間雨量最大値は大きかったことがわかります。

図3(左)は、令和3年8月の大雨における72時間雨量の過去最大値の比を示したものです。九州地方北部や中国地方西部、岐阜県や長野県において、72時間雨量が過去最大を超えていたことがわかります。そして、これらの地域で、大雨特別警報が発表され、河川からの氾濫が発生、また、土砂災害による犠牲者が発生していました。
図3(右)は、平成30年7月豪雨での72時間雨量の過去最大値との比を示したものです。高知県では72時間雨量の値そのものが大きかったですが、この地域はこれまでにも多くの大雨が発生しており、72時間雨量の過去最大値との比はそれほど大きくなっていないことがわかります。一方で、普段雨の多くない瀬戸内地方である、広島県、岡山県、愛媛県では72時間雨量が過去最大値を超えており、その比率が150%を超えたところを中心に犠牲者が多数発生していることがわかります。
つまり、雨量そのものの値よりもその地点における過去最大雨量との比の方が被害発生との関係性が高いことがわかります。

●犠牲者発生数

平成30年7月豪雨における犠牲者数は232名(関連死を除く)でした。一方で、令和3年8月の大雨では総務省消防庁のまとめでは、11名の犠牲者が発生しました。犠牲者が発生してしまったことは極めて残念ではありますが、令和3年8月の大雨による犠牲者数は平成30年7月豪雨に比べてかなり少ない人数でした。
災害をもたらし得る雨量という点で見ると、今回の大雨では72時間雨量などで過去の記録を大きく超える雨量となった地域は、平成30年7月豪雨ほど拡がってはいませんでした。今回の8月11日から21日の11日間に全国で降った雨の量は平成30年7月豪雨に匹敵する雨量でしたが、72時間雨量の過去最大値との比率など、被害発生との関連性の高い指標でみると、そこまでの被害にはなりにくい雨であったとも言うことができます。

●今後に向けて

今回の大雨で被害に遭わなかった、あるいは被害が限定的だったからといって、この次の大雨でも被害が発生しないとは全く言えないと考える必要があります。
令和3年8月の大雨では、8月11日から21日の11日間に全国で降った雨の総量は、甚大な被害をもたらした平成30年7月豪雨に匹敵する規模であったことを示しました。一方で、単純に期間や範囲を広くとって雨量を集計し、それが「記録的な量」だったとしてもそれが必ずしも災害発生の危険性が極めて高いことを示すわけではありません。大雨から被害の発生可能性を予見し、命を守るためには、その地域においてこれまでに観測された雨量、その地域にとって危険な雨量をあらかじめ把握しておき、それに比べてどれくらいの雨が予測されているのかを見ることが極めて重要です。
この記事は本間予報士執筆の「(防災レポートVol.15)令和3年8月の大雨における降水量と被害発生の特徴 ~「記録的な雨量」だったが被害が限定的だった理由は?~」から一部を抜粋して作成しています。詳しくはこちらのレポートをご覧ください。

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