
<天皇杯:鳥取0(3-4)0東京V>◇7日◇3回戦
東京ヴェルディが、J3ガイナーレ鳥取をPK戦の末に退け、16強に勝ち上がった。
今季J1未勝利の中、2日前に城福浩監督が電撃解任。チームは動揺があった中、苦しみながら何とか次のラウンドへの切符を手にした。
森下仁志監督代行は「立ち上がりはほんとに選手が気合入ってて、少し硬い感じで。とはいえ、20分より45分、45分より60分、60分より90分、90分より105分、105分より120分。少しずつ僕が本来持ってた景色になってきたなっていうのがまだまだ最後のところで。そこはなかなか本当に昨日ほぼ1日の準備だったので、それ言い訳になりますけど」と振り返った。
城福監督が手塩にかけて22年6月から育ててきたチーム。その下で支えてきた森下監督代行にとって、精神的に厳しいものだった。
「とても衝撃的なというか、それは隠しようもない事実でした」
そう言うと、自身が東京Vにコーチとして加入した経緯について明かした。
「僕は2023年に自分の未熟さでガンバ大阪のたくさんの方にもご迷惑、ご心配かけて、半年高知ユナイテッドでお世話になって、高知から帰ってきたら12月に、確か12月24日だと思いますけども、全てこれ真実なので、今協会にいらっしゃる僕と同じ大阪で育った小倉さんを介して、紹介というか、推薦していただいたみたいで」
江尻篤彦強化部長から声がかかり、中村考昭社長も受け入れてくれたという。
そして「1番現場のボスである城福さんが受け入れてくれなければ、今の僕はないと思ってます。あのままの状況だと、おそらくこの世界でやっていけない状況でした。でも、それを手を差し伸べてくれたのも城福さんであって」
G大阪ユース監督だった23年2月、「指導の適正範囲を超えた不適切な言動があった」として同年3月に退任した。パワハラによって一度は職を失った。
研修期間を経て、24年から東京Vでコーチとして出直しを図った。以来、一緒に過ごした2年半はかけがえのないものだった。だからこう言う。
「城福さんもおっしゃってたように、自分の監督人生を第4コーナーを回ったってよく言っていたので、最後いい監督人生だったなって思ってもらえるように、できる限りの力を尽くしたいなと思ってました。その志半ばだったので、とても責任を感じてました。とはいえ、大切なクラブの財産になる選手がいるので、自分も逃げるわけにいかないので、なんとか自分を奮い立たせた」
言葉に詰まり、涙声になっていた。
解任が発表されたのは、日本代表がニュージーランド代表と戦った5日だった。城福監督は選手たちに別れのあいさつをしたという。プロの世界では結果が出なければ去るのは当たり前。それでも衝撃は大きかった。
「この3日間はもう、ものすごく選手と話をしました。やっぱりうちの選手たちはとても気概があって根性があるので、本当に今日難しかったと思うんですけど、なんとか今までの状況を変えるきっかけに、これから明るい未来になるきっかけに、今日の試合やろうっていう形でスタートして。本当にこれもPKでしたけど、カテゴリー関係なく、相手もね、たくさんのJチームを破ってきてて、簡単ではなかったですけど、最後に彼らの思いが勝利を持ってきてくれたから。何を伝えたかっていうより、本当に僕が東京ヴェルディ、それから城福さんに対しての感謝の気持ちを、まず思いを伝えて、みんな一緒だと思うんで、だからそこに共感してくれたっていう形ですかね」
再び解任発表された5日に時を戻すと、森下監督代行は監督室で城福前監督と2人切りで話をした。
「城福さんは素晴らしい人格者なので、僕に感謝しか言いませんでした。僕もそうですけど、1回しっかり体を休めてもらって、エネルギーためてもらって、またやりましょうっていう形で、いつでも呼んでもらったら駆けつけますんでって(言いました)。なんとかもう1回チャレンジしてもらって、いい監督人生だったなって終わってもらえるように、それまで僕も力つけたいと思います」
あらためて思う。勝負に生きる男たちの世界は厳しいものだと。いつ職を失うか、それは誰にも分からない。プロとしての矜持(きょうじ)が強ければ見失いがちになるが、ごく当たり前の感性、日常の喜びを再認識する機会ともなる。
「今回の城福さんと同じで、僕も何回かこの日常、当たり前のようにグラウンドに行ってた日常をなくした時間があります。だからこそ、今日もヴェルディで最後のつもりでやりましたし、1日1日、僕はもう最後のつもりで、やっぱり何不自由なくサッカーができるっていうことが当たり前じゃないと思うので。やっぱりやりたくてもやれない人もいるし、もう極端に言ったらこの世界行きたくても行けなかった人もたくさんいるし、僕らはただ好きで始めたサッカーをこれだけの人に応援してもらって、だから少ししんどいぐらいで頭を下げてたらそういう方たちに申し訳ない。何をやりたいって言われたら難しいんですけど、1日1日を本当に今日もサッカーをやれてありがたいなって思って、1日1日やりながら、その先何かが見えてくるんじゃないかな。なんでかっていうと、そのコーチに半年って自分に向き合って、そういう時に手を差し伸べてくれたのが東京ヴェルディであり、城福さんなので。やっぱり見てくれてる人は見てくれてんな、神様捨てたもんじゃないなって思ったんで、そう思って1日、また明日を大切に積み重ねたいなと思います」
人にとって大事なものとは何か。それは居る場所や立場、状況が変われば異なるものだろう。ただ誰しも同じように日常がある。そのありがたさをかみしめていた。
中3日の11日、すぐにJ1リーグのサンフレッチェ広島戦が控える。城福監督の魂を引き継ぎ、今を生きていく覚悟だ。【佐藤隆志】
