
2025年夏の移籍ウインドーは真っただ中。例えばイングランド・プレミアリーグは9月1日まで、移籍市場が開いている。欧州に目を向ければ、さまざまな情報が連日のように飛び交っている。サッカーファンにとっては大きな関心事だ。
そんな多忙な時期にあって7月末、東京都内でスポーツエージェント会社主催のパーティーが開催された。日本代表MF遠藤航(リバプール)や同DF伊藤洋輝(バイエルン・ミュンヘン)らが所属するユニバーサルスポーツジャパン(USJ)。遠藤のリバプール電撃移籍など、世界を相手に数々のビッグディールをまとめてきた遠藤貴さん(53)が代表取締役社長を務めている。
■パーティー通じて経済界との交流図る
「USJ Night」と呼ばれるパーティーは、所属選手と経済界のネットワークの構築を目的に2022年から実施され、今回で4度目だという。従来の年末から時期を夏季開催へと移行し、初めてその中身がメディア公開された。その狙いは「マネジメント・エージェントの役割や価値を世の中に発信していくことが業界の発展に資すると判断した」からだという。
約150人が集まったパーティーには、東アジアE-1選手権日本代表入りした柏FW垣田裕暉ら複数名のJリーガーに指導者も参加した中、さまざまな企業経営者やスポンサー企業の関係者が顔をそろえ、和やかなムードの中で交流していた。新たなビジネスチャンスや選手のキャリア支援に向けた可能性を探る場となっていた。
遠藤さんは「選手が大人の世界というか、経済界の方々と接する機会っていうのは普段すごく少ない。それだけに、こういう接点はとても大きい」と強調した。
そんな中、改めて日本人選手が海外へ移籍していく上で重要になるのが語学力だ。近年は英会話アプリの企業が多くあり、海外挑戦する選手をサポートしている。
移籍交渉の最前線に立つ遠藤さんは経験談を交え、語学にまつわるエピソードを教えてくれた。
「今日は(元日本代表MFの小林)大悟も来ていましたけど、昔移籍した時は英語ができなくて勉強していましたけど、今ほどサッカー英語ってなかった。今は割とサッカー用語とか、サッカー英語を教えているところがある。そういうのがなかった時代はサッカー用語を紙に書いてまとめて、飛行機の中で教えながら一緒に飛んだ。向こうに行くと面接が必ずあるので、そこでまるでしゃべれるように、流ちょうに話せるかのようにさせるのに必死だった」
■川崎颯太にマインツ監督「すごいな」
今夏には京都MF川崎颯太がブンデスリーガ1部マインツへ移籍が決まったが、そこでも英語が大きなポイントになったという。
「最初スポーティングディレクターと(ビデオ通話の)ZOOMをやっていたんですけど、監督が話したいと言ってきた。そこで彼(川崎)が流ちょうな英語をしゃべったら、これはすごいなって監督が喜んだ」
まだオファーを出そうとしているタイミングであり、その1次面接のような中での驚きの出来事だった。川崎は海外移籍に向けて英語の勉強に励んでおり、その成果が生かされた形。とんとん拍子でマインツへの移籍が決まった。
「大悟の時代は実際に向こうに行って、その場で強化部長と僕が横に座ってドキドキしながらしゃべらせるみたいな。大悟は(ノルウェー1部の)スターベクで10番を背負ってスターになって、そこで英語ができるようになって、その後はカナダのバンクーバー、アメリカのMLSにも行ったけど、英語ができるから取ってくれた。生活に支障がないというところで。今でもバンクーバーを行ったり来たりしながら国際的な仕事もしている。英語ができることによって、世界を広げることができた」
こう話す遠藤さん自身も1997年(平9)に脱サラして単身渡英し、現地で英語を学びながら名門アーセナルでの勤務を経て、猛勉強の末にイングランドサッカー協会認定選手代理人のライセンスを取得。サッカーエージェントの事業を始め、05年3月にUSJを創設した。そこは自身の著書「代理人は眠らない」(徳間書店)に詳しいが、語学の重要性を誰よりも痛感するからこそ力説する。
■昔はカフェで指導、今はオンライン
リバプールの遠藤も欧州移籍を目指し、Jリーガー時代から熱心に英語を勉強していた。当時はオンライン英会話がなく、オーストラリア人の先生からホテルのカフェで教わっていたのだという。
「やっぱり時間が拘束されるし、その場所に行くっていうのはやっぱり大変だった。昔はオーストラリア人選手の方が英語ができる分、ヨーロッパで活躍している選手が多かったんですね。だけどITの力によって、日本人もすぐに英語を学べる環境ができてきたので、それで(欧州へ)行けているというのはすごく感じています」
もちろん先述した川崎は語学力以前にサッカー選手としての質の高さがあってのものだ。ただ選手としてのクオリティーはあっても「環境が合わなかった」という理由で、日本に戻ってくるケースは今でも多い。そこは語学力が障壁となり、戦術が理解できないことからのコミュニケーションギャップが大きく横たわっている。チームスポーツゆえになおさら語学力はクローズアップされてくる。
「サッカーに言葉はいらないみたいなこと言いますけど、そうじゃないと思うんですね。実際はやっぱりコミュニケーションを取れることによって、普段の生活だとかもすぐにブレンドイン(溶け込む、なじむ)みたいなところがあります」
ちょうどリバプールが来日して話題となったが、遠藤はアジアツアーの顔としてクラブの公式インスタグラム上で日本の観光スポットを流ちょうな英語で紹介していた。サッカーのキャリアアップとともに語学力にも磨きをかけ、一流アスリートというだけでなく、世界をまたに活躍する「国際人」としての魅力も手にしている。
■選手の人生までサポートする黒子たち
USJは22年3月にオーセンス法律事務所と資本提携し、法的な観点から選手を守るだけでなく、付加価値も付けている。米国発のグローバルスタンダードとも言うべき総合スポーツエージェントとしての視座の高さから、選手の人生まで見守っている。
スポーツ選手は自らの力で世界と戦っている。ただ、その力を最大化するためには周囲のサポートが不可欠となる。黒子として普段は表には出てこない「代理人」だが、今回の「USJ Night」でその一端に触れることができた。
その代理人たちが活躍する「ウィンドウ(window)」とは、「窓」だけでなく「機会」や「好機」といった意味が含まれるのだという。その好機を逃さぬよう“眠らない日々”は続く。【佐藤隆志】