
川崎フロンターレとフロンターレOB達で結成された(FOB会)が5月15日に発足から1周年を迎えた。クラブ創設から28年が経過し、多くの選手が巣立っていった。「川崎Fらしさ」を継承するために、OBたちが立ち上がり、結成された会。このほど、実務を担う副会長の井川祐輔氏(42)と理事の吉原慎也氏(47)が取材に応じ、この1年の取り組みと今後の展望を語った。(取材・構成=佐藤成)
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Jリーグ開幕の5月15日と同じ日に合わせたFOB会の誕生から1年。手探り状態ながら、規約作成や会員名簿の整理、イベント実施、クラブとの協力など土台作りに取り組んだ。
発起人である吉原理事はこう振り返った。
「月1回はクラブと打ち合わせをしました。自分も普段は仕事をしているので、その合間を縫っての活動でした。設立当初はOBたちの反応が薄くてどうなるかと思いましたが(笑い)、最近では少しずつではありますがイベントなどへ参加してくれるようになり、1年続けてきてよかったです」
会長はクラブの特命大使を務める中西哲生氏。強化部の伊藤宏樹氏と中村憲剛FROが理事に名を連ねる。現在は改修工事や解体工事を展開する「グローバル・エージェンシー・コーポレーション」代表取締役社長の吉原氏と不動産会社「鈴幸ハウス」で働く井川副会長が実務を担い、FOB会を運営してきた。
FOB会誕生の契機は、23年の冬までさかのぼる。吉原理事が元監督の関塚隆氏(現J3福島ユナイテッドFCテクニカルディレクター)とご飯を食べたことをきっかけに、直後に数人のOBを交えて食事会が開かれた。
23年は、クラブに大きな変化が訪れた年だった。長年GMを務めた庄子春男氏(現J2仙台GM)が退任し、事業方面でプロモーション部の名物仕掛け人だった天野春果氏(現Two Wheel Sports)も退社。さらに広報として20年以上クラブを支えた熊谷直人氏(富士通株式会社、企業スポーツ推進室)も去ったことで、川崎Fの伝統を受け継ぐためにOB会の結成が必要だと話がまとまった。
日々不動産マンとして多忙な井川は言う。
「他の理事たちはまだクラブと関わりもあってサッカー界にいるけど、ぼくら2人は一般社会で働いているのでいろいろと実務的な部分が分かる。『らしさ』を失わないように活動しています」
資料をまとめ、クラブの吉田明宏社長の元にあいさつに。快諾され、正式に会の発足が決まった。規約作りに始まり、口座開設、約130人の名簿作成などやるべき業務は多岐にわたったが、地道に進めた。
昨年10月には11人制OBマッチを開催した。Ankerフロンタウン生田で30人超のOBが集まり、プレー。サポーターも500人の集結した。吉原理事は「我々はファンに喜んでもらうためにやっている」。往年の名選手たちの共演に、ファンは歓喜した。
今年もOBが集まってサッカーをする場を設けることを計画している。OB同士ではなく、他クラブのOB会と試合をすることを目指しており、交渉を続けている。吉原理事は「他のクラブは歴史がうちより長いところはあるので、情報共有も含めていろいろ連絡は取り合いますね。いずれ何クラブか合わせてカップ戦とかできたら面白そうですよね」と笑顔で話した。
その他にもいくつか活動実績を明かした。試合日に本拠地Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsuに設置されたエコステーションでのゴミ分別啓発活動に参加したり、サッカースクールを実施したり…。ファンと触れ合うシーンでOBの威力は発揮される。
井川が温めるアイデアは「スナックFOB」だ。
「お店をやりたいわけではなく、例えばですけど飲食店をしているフロンターレファンの方にお店を借りて、OBとファンが飲む場をつくるんです。思い出話を双方の立場から語り合うのとか絶対に楽しいですよね。フロンターレらしく他にはない形で、触れ合いたいです」
吉原は伝統継承のためにアーカイブ化をもくろむ。「歴史を残すことも僕らの役割だと思います。J1に上がるまでの時代を話すパートだったり、シルバーコレクター時代のことだったり、優勝した時の話だったり。積み重ねを映像にすることとかもやっていきたいですね」とイメージを膨らませた。
想像は止まらない。井川副会長は「いずれは選手たちのキャリアサポートもできればいいなと思っています。不動産でもいいし、修理業でもいいし。雇用を生むくらいまで大きくなれたら、選手たちの引退後も不安がなくなる。川崎市がフロンターレシティみたいになっていくことを望んでいます」。
喫緊の課題はいかにOBたちが主体的に活動していくように促すかだ。取り組み自体が見通せない部分も多かった1年目は、全体のグループ連絡網に呼びかけてもレスポンスがほとんどないこともあった。2人はFOB会の発展のために奔走し、積極的な参加をOBに求めている。
7月6日のファン感謝デーでは早速1つの夢企画が実現する。「焼き肉居酒屋FOB」のブース出店が決まった。OBの大久保将人氏が経営する「焼き肉ここから」とコラボ。感謝デーのテーマ「夏~NATSU~」に絡めて「ナツ」かしいメンバーと「ナツ」かしい昔話に花を咲かせる。トークショーも合わせて実施するという。
クラブは昨季限りで黄金期を築いた鬼木達監督(現鹿島アントラーズ)が退任し、長谷部茂利監督を迎えた。変革期にある中で、5月にはアジア・チャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)で準優勝。新たなフロンターレが歩みを進めている。FOB会としても、その発展に少しでも寄与していくために取り組んで行く。