
<寺尾で候>
日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。
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プロ野球セ・パ交流戦は残り1試合となり、パ・リーグの圧勝で幕を閉じる。「上位6チームがパ・リーグ」「下位6チームがセ・リーグ」で、両リーグの実力差が真っ二つに分かれたのは珍しい現象だった。
セ・リーグ全球団が勝ち越せなかったのは、俗にいうボロ負けで、誠に情けなかった。今後は「DH制」などを言い訳に、再び遡上(そじょう)に乗せる機会をうかがうのかもしれない。
阪神も厳しい交流戦を経験した。日本ハム、オリックスに5勝1敗と絶好のスタートを切ったかと思えば、その後は7連敗を喫するなどジェットコースターのような戦いだった。
これが交流戦の面白みといえば聞こえはいいが、他球団の頼りなさに助けられたという見方は正解だ。チームは8勝10敗もセ・リーグ首位をキープしたまま“鬼門”を突破したことになる。
さて、シーズンの折り返し地点に立った阪神だが、ペナントレース前半はコーチ未経験で監督に就いた藤川球児の采配は注目だった。春先は苦しんだが勝ちは良薬といったところだろう。
4月下旬に6連勝したことで、チームが落ち着きをみせた感が強い。236得点、防御率2・06がリーグトップで投打がかみ合った。リーグ最多61盗塁、リーグ最少30失策もチーム成績を裏付けている。
そこで藤川のマネジメントに関してだが、ここまでもっとも特徴的だったのが激しい「選手の入れ替え」だろう。開幕直後から頻繁に出場選手登録、抹消を繰り返してきた。
23年に日本一を達成した岡田彰布が監督だった昨シーズンは、交流戦が終了した時点(6月18日)で、「登録25人」「抹消24人」で「のべ49人」の選手が入れ替わっている。
新たに監督に就いた1年目の藤川は、ここまで「登録48人」「抹消48人」で、のべ96人の“人事”を行った。昨年比をみても激しい入れ替えだったことが分かる。
藤川に限ったことではないが、新監督の場合は、特に初年度は選手、スタッフを含めた配置転換、入れ替え、選手起用、補強など、すべてに思い切ってチームを動かしやすい。
これが新米監督のお試し期間を終えた2年目、3年目になると、どうしても「育成」より「勝利」が求められるから、なかなか二の足を踏むケースが多くなってしまうものだ。
もちろん入れ替えには故障、不振など、さまざまな理由がつきまとう。調整も、ショック療法もあるだろう。逆にファームからの推薦で昇格してくる若手にも出番が与えられる。
最近では、木浪が2軍落ちすると、なぜか途端に同じショートの小幡が続けざまエラーを犯した。小幡が安心したわけではないのに、入れ替えで生じた心理のあやだったと言えなくもない。
つまり入れ替えは大きな意味を持つということだ。潜在能力があると見込んだ若手を重点的に起用したかと思えば、この選手で大丈夫か? といったのもあったし、5月下旬には10人を入れ替えるシビアな面もみせた。
チーム作りにおいて、「育てながら勝つ」のは至難といえる。そこに挑戦しているといった見方もできるし、周囲から「だれがレギュラーかわからんな」といった声も聞こえてくる。
ただ監督がなにかを変えようとしているのは伝わってくる。まだはっきり見えないが、フレキシブルなマネジメントは“藤川色”の表れといえる。
どのチームにも言えることだが、交流戦明けはひとつの関門になる。パ・リーグが手ごわいのは分かったから、まずはセ・リーグを抜け出したい。(敬称略)