
<SAMURAI×MLB>
世界最高峰の舞台で世界一を目指す、日本の侍たち。日刊スポーツでは今季、ドジャース大谷翔平投手はもちろん、日本人メジャーリーガーと彼らにまつわるストーリーを「SAMURAI MLB」と題して紹介する。海を渡って戦う日本人選手たちに、多角的に迫っていく。
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「ロン・ワシントン内野守備学校」へようこそ-。エンゼルスのロン・ワシントン監督(73)が、試合前練習で毎回実施する「内野ドリル」について語った。96年のアスレチックスのコーチ時代から導入し、ゴールドグラブ賞6度のエリック・チャベス、ブレーブスのコーチ時代には、同2度のカブスのダンスビー・スワンソンら数々の名手を育成。今ではこのドリルを参考にするメジャーリーガーも多い。内野守備指導の名伯楽が、「未来のSAMURAIメジャーリーガー」たちへ、メソッドを紹介する。【取材・構成=久保賢吾】
■「実際にお見せしましょう」
「私が実際にお見せしましょう」。ワシントン監督は、通常より小さな“ワシントンモデル”のグラブを手にグラウンドに両膝をつき、サッと構えた。両膝をつく姿勢にするのは「手の動きをより意識するため」で、ショートバウンドのゴロを真ん中、左側、逆シングルの順で捕球した。
ワシントン監督 (両膝をつくことで)まず、手をどのように動かせばいいかを教えてくれる。次に、足の動きも手の動きと同じなので、手足が同時にうまく動かせるようになります。手の動作によって、足の角度とかも変わっていくので、足の角度とかも教えられます。
ワシントン流の「内野ドリル」のルーティンは、小さいグラブ→捕球面が平らなグラブ→通常のグラブ、の順で行われる。膝をついた姿勢で捕球した後は、立った状態での捕球、左右に動きながらの捕球など、より実戦を意識した形へと移っていく。
(1)小さいグラブ
「普通のグラブよりちょっと短いです。ボールがここ(網の先)に来てしまったら、大きいグラブなら捕球できますが、小さいグラブだとミスになるので、継続的にここ(ポケット)で捕球できるように訓練するためのグラブです」
(2)平らなグラブ
「ゴロをここ(網)で捕るのではなく、手のひらの中心部でボールをつかむ練習ができます。このようなグラブは元々ありましたけど、私の考えをインプットして、作られたものを今は使っています」
■私は「選手を変える先生です」
最後に通常のグラブを使用する。ワシントン監督は「最後に球がバウンドした時のホップが一番大切なので、それを読み取ることに集中するためにやっています」と説明。下投げ、ファンゴ(ノック)バットで打った打球の捕球などを3種類のグラブで計96球受け、感覚を植え付ける。
ワシントン監督 (捕球で)大事なことは、グラブを低い位置から動かし始めることです。高い位置だと(捕球までに)『1(下に落とす)、2(前に出す)』と2つの動きが必要になりますが、低い位置で始めた場合には、1つの動き(前に出す)で捕球することができます。
「内野ドリル」のアイデアは、自身がドジャースに所属した現役時代に教わった。内野コーチだったチコ・フェルナンデス氏から指導を受け、96年にアスレチックスのコーチに就任した時に実践。現役時代に教わった時はフェアゾーン内で行ったが、ファウルゾーンに場所を移し、アレンジを加えながら作り上げた。
ワシントン流の「内野ドリル」で守備を学び、数々の名手が育った。アスレチックスでは、チャベス、テハダ、セミエン(現レンジャーズ)、ブレーブスではスワンソン(現カブス)らを指導。昨年から監督を務めるエンゼルスでは、遊撃ネトの守備力向上に大きな影響を与えた。
ワシントン監督 「ロン・ワシントン内野守備学校」の門をくぐった選手は、みんな上達しています。最近のいい例としては、ネト選手が挙がりますが、最初はあそこまで上手ではなかった。私は「選手を変える先生」です。
強靱(きょうじん)なフィジカルを生かした、ダイナミックなプレーの裏側には、日々の基礎練習がある。ワシントン監督は「基礎を鍛えることによって、毎回、毎回同じようにできるようになってきます。(技術は)そうやって磨き上げられてくるものなので、基礎というのはすごく大切なものです」と説いた。
◆ロン・ワシントン 1952年4月29日、米国ルイジアナ州ニューオーリンズ生まれ。フロリダ州立大から70年にロイヤルズと契約。77年ドジャースでメジャーデビュー。5球団で通算564試合に出場し、89年引退。マイナーのコーチなどを経て、07年レンジャーズ監督就任。10、11年ワールドシリーズ進出も2年連続敗退。14年辞任し、翌年途中からアスレチックスでコーチ復帰。ブレーブスを経て、24年からエンゼルス監督。現役時代は180センチ、70キロ。右投げ右打ち。