
6月5日は「環境の日」。地球温暖化による気候変動でスポーツの土台が脅かされている。Jリーグは本年度から持続可能な社会を目指す「サステナビリティ事業活性化プロジェクト」を開始した。日本財団と連携協定を結び、助成金を受けて「気候アクション」を加速させている。そのキーマン、Jリーグ執行役員サステナビリティ担当の辻井隆行さん(56)に環境問題への取り組みについて聞いた。
■サステナビリティ担当・辻井役員に聞く
人間が排出する二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスによって、地球温暖化が止まらない。近年は猛烈な雨や台風でJリーグの試合中止が増えている。17年以前と18年以降を比較すると4・7倍にもなる。
「サッカーができなくなる日!?」
Jリーグはこんなタイトルの動画を作成。温暖化へ警鐘を鳴らし、脱炭素社会を目指している。
22年に環境省との連携協定を結んだJリーグは、23年に気候変動問題に取り組む「サステナビリティ部」を新設した。辻井さんは「23~24年はしっかり学ぼうというのが主でしたが、25年からは行動していくフェーズに入った」と言う。
Jリーグの年間入場者はのべ約1250万人、全60クラブがカバーする地域は日本国土の87%。その強みがある。今年は日本財団から3・7億円の助成金を受け、活動申請のあったクラブに均等配分。さらに3年に渡り合計11億9000万円をもって本格的に取り組んでいく。
清水エスパルスやヴァンフォーレ甲府はスタジアムでCO2を可視化する取り組みを進めている。水戸ホーリーホックやガイナーレ鳥取のように「ソーラーシェアリング」という太陽光パネルを使った発電と農業生産に取り組む事例もある。セレッソ大阪は公式サイトにサステナビリティ専用のページを設けている。
「ただ単発では効果がないので合わせ技でやる。CO2が出ない社会に向け、全体でやっていますというストーリーが大事。Jリーグのサステナビリティの取り組みで一番の強みはコレクティブ(組織的に)に動いているところ。60クラブ全部が足並みをそろえるのは難しくても、半分くらいでも手を取り合いやっていくというのは大きい」
何より大事なのはファン・サポーターに向けた啓蒙活動となってくる。小野伸二さんと全国で展開するスマイルフットボールツアーでは、子供たちに気候変動を伝え、今起きていることを一緒に考える。
「社会システムを変えるためにも、電気はどこから来ているのか、というのを知っていないと『いいや、それで』となってしまう」
CO2を増幅させる火力発電から風力や地熱といった自然エネルギーに目を向けることも、その一歩となる。
Jリーグはパートナーの明治安田と森林の再生・保全活動を行っている。間伐で森を明るくすれば光合成が起き、CO2を吸収する。地中の微生物が炭素を食べることで土が元気になり、きれいな川、海へと元気の連鎖はつながる。
CO2を出さないエネルギーや社会の仕組みが“ゴールを奪う”なら、森・土・海の再生は“ゴールを守る”。サッカーさながらに「こっちで点を取って、こっちで守る。そんなイメージ」と例えた。
「子供たちの未来を守る活動いいじゃん、って言ってくれるだけですごい力になる。1人1人がすごいアクションを起こすことではなく、僕らが何か箱(仕組み)を準備した時は楽しんで乗っかってください、っていうのもそうです」
気負いのない言葉と屈託のない笑顔には、未来を思う優しさが詰まっていた。
【佐藤隆志】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)
◆辻井隆行(つじい・たかゆき)。1968年(昭43)生まれ、東京都出身。早大サッカー部出身、日本電装(現FC刈谷)を東海リーグから日本リーグへ昇格させて引退。早大大学院卒業後、99年から米アウトドア用品大手「パタゴニア」で働き、環境問題に目覚める。日本支社長も務めた。22年からJリーグ社外理事、23年から現職。