
<巨人5-2ヤクルト>◇25日◇東京ドーム
巨人のエース戸郷翔征投手(25)が、今季7度目の先発で、ついに初勝利を挙げた。直球で押しながら今季最多108球を投げ、6回7安打2失点(自責1)。野球人生最大の不振を乗り越える、価値ある白星を手にした。チームは今季初の5連勝とし、2位に浮上した。
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特別なボールを、そっとズボンの左ポケットにしまった。戸郷は勝利の瞬間をベンチで見届け、マルティネスから勝利球を渡され、ほほえんだ。「苦しんだ分だけ、この1球がすごくほしかった。これを見ながら今夜は眠れそうですね」。ようやく、光りが見えた。
生命線の直球が走った。「球速はそんな出てなくても押せた」。3回には2失点したが、「原点に戻った。真っすぐの質、フォークの落差を求めた」投球で打ち取っていく。5回1死二塁からはサンタナ、オスナに直球を連投。「強打者を抑えて自信になる」。6回を投げきった。
「1人だけ開幕していなかった」。2軍落ちも味わい、「験はたくさん担ぎました」。塩をなめ、神社に参り、トイレ掃除もした。「プロ野球人生の中で、こんなに悩んだ期間も初めてでした」。
ただ、むしろ増す感情があった。「野球を好きな気持ちですね。その競技を愛してるからこそ悩むと思う」。この期間も一度も球場、練習へ行くのが嫌になった事はない。1軍復帰登板となった5日の阪神戦の試合前練習、東京ドームのベンチ裏からグラウンドへ登る短い階段を、駆け上がった。「無意識に」だからこそ、野球愛がにじみ出た。
この日の登板は中4日。阿部監督が「勝ちを付けてあげたい」と異例の配慮をしてくれた。前エース菅野からも電話をもらった。「言葉の重みが違った。いろいろな方に支えていただき、最高です」。恩返しの初白星を次につなげていく。
「また野球を好きになりましたか」。東京ドームを去る背中に声をかけられると、ニコッと笑った。「もちろん! これが醍醐味(だいごみ)ですね」。言い終えると、駐車場へ続く階段を駆け上がっていった。【阿部健吾】