
<西武1-0楽天>◇20日◇きたぎんボールパーク
この日ばかりは西武の主役は西武ファンだった。
盛岡・きたぎんボールパークの右翼ポール際、ビジター応援席。45歩四方の勾配きつめの芝生は、青1色の強烈な人口密度だった。
打撃練習で右翼を守る蛭間がファウルフライを捕ると大歓声が起きた。蛭間、照れ笑い。その様子をなんだなんだと中村剛がのぞき込み、古賀悠と楽しそうに笑う。同じように右翼を守っていたラミレス通訳にも歓声が飛んだ。「すごいですね」と笑った。
朝から東北新幹線が青と金色で埋まった。流行中のビッグチェーンネックレス、通称“クソデカネックレス”を着けた西武ファンが意気揚々と乗り込む。普段は上着を掛ける窓側座席のフックに、ネックレスを掛ける。その様子を誰かがXにアップし、自然発生的に広がった。車掌は何を思ったのだろう。
X上では「#520ライオンズ盛岡遠征」のハッシュタグも大きな盛り上がりを見せ、試合前にはおのおのが岩手観光。西武ファンにとっての盛岡遠征とは-。
年に一度のお祭り、フィールド・オブ・ドリームス、大人の遠足、地方創生貢献遠足、クソデカネックレスの集い…などなどX上にフォロワーからの表現が集まった。
「クソデカ~」は圧倒的だった。右翼席では日刊スポーツの目視で70人以上が装着。「2個付け」も多数いた。首に掛けるそれを外し、時にはタオルのように振り回す。風鈴や鈴虫の鳴き声のような、風情を感じる音がした。
好投した菅井は「本当にすごく力になりました」と言い、殊勲打の滝沢も「遠くまで来てくれたファンの皆さんのおかげです」と言った。14勝9敗と本拠地に強い西武ながら、遠い敵地でもこれだけの後押しがあるのは心強い。
あまり広く知られていないが、球場のセンター後方には南昌山がそびえる。一説では宮沢賢治の名作「銀河鉄道の夜」の舞台では、とも言われている。
普段は西武鉄道に揺られる西武ファンたちが、イーハトーブに遠足にやって来て、銀河鉄道のふもとで楽天ファンをも圧倒するような“束”の声援をグラウンドに届ける。
あいにくの曇りで星は見えなかった。日が沈み真っ暗になると、右翼席にたくさんのキラキラが見える。紛れもなくクソデカネックレスの光。すぐに跳びはねるから、妙に揺れる星々だった。【金子真仁】