
<広島5-4巨人>◇13日◇マツダスタジアム
ロマンしかない衝撃的なアーチが飛び出した。ソフトバンクから電撃トレードで加入した巨人リチャード内野手(25)が、移籍後即「7番三塁」でスタメン出場。3点を追う5回、広島先発の森から3年ぶりの1発となる今季1号ソロをマークし、6回1死一、二塁からは左前打を放った。延長10回の四球後に代走を送られ、巨人デビュー戦は4打数2安打1打点、1四球。試合前、入団会見を終えたばかりの“ロマン砲”が新天地でさく裂した。
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十二分な滞空時間にロマンを乗せた。リチャードが広島の夜空に衝撃的なアーチを放った。3点を追う5回先頭で打席に入ると、広島森の143キロ直球を強振。両手でツートンカラーのバットを天に向かって突き上げた。着慣れない真新しいユニホームを身にまとい、体重123キロの分厚い胸板、強靱(きょうじん)な下半身を揺らして、ダイヤモンドを周回した。
宿舎の自室で、鏡の前でニヤリと笑った。12日に電撃的にトレード移籍が発表され、野球道具と最小限の荷物だけをまとめてチームに合流。この日の出発前にユニホームに着替えて「さっき鏡で見たんですけど、僕も威圧感ちょっと出てるかな」と念じた。胸に刻まれた「TOKYO」が新天地を示す。試合前練習の直前の入団会見では終始、緊張の面持ちで「何が起きてるか正直わかりません」と本音をこぼした。
落ち着く間もなく“初陣”に臨んだ。2回2死一塁の移籍後初打席は、外角のチェンジアップを振らされて空振り三振に倒れた。「これまでは1打席目の三振を引きずって打席に立っていたが、みんなの『切り替えて』という言葉が素直に入ってきました。その結果フレッシュな気持ちで打席に入ることができました」。新しいチームメートの声に耳を傾け、胸にとどめ、1号ソロにつなげた。
新天地で再会した甲斐は後輩の1発を見届け、うれしそうだった。即日スタメンに大抜てきした阿部監督も両手をたたいて迎え入れた。主砲岡本の長期離脱、ベテラン坂本の不振、丸も開幕から離脱中と台所事情は厳しい。
「今日から岡本さんのようにはさすがにできないですけど、チームプレーを大事にして岡本さんが帰ってくるまでとは言わずに、頑張ってチームが勝てるように、自分の力を出せるように」
ロマン砲の射程には夢がつまっていた。【為田聡史】