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ヤクルトは19日に球団マスコットのつば九郎を担当してきたスタッフが永眠したと発表した。愛くるしいルックスと「フリップ芸」などで絶大な人気を誇ったマスコットに関する訃報に、悲しみの声が広がっている。人気の源に迫った。
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「マスコット」といえば、マジメで優しく、踊ったり、見た目のかわいさだったりでチームや試合に「花を添える」存在なのが一般的だろう。ファンに楽しんでもらい、競技を盛り上げたいという信念は、つば九郎も同じ。だが、そのスタンスは異彩を放っている。
大きくておなかがぽっこり出ている癒やし系のフォルム。芸の引き出しも「毒舌フリップ」「空中くるりんぱ」「ゲッツ」など、多彩かつ独特だ。有名選手だろうがヤクルトファンだろうが、愛のあるいじりを繰り出していく。その下地には、「時代」の空気に敏感で変化を恐れない強いプロ意識と責任感がある。
今でこそSNSで個人がその思いを発信できるが、90年代は、思いを伝える手段も場も少なかった。そんな時代に、つば九郎はユーモアを交えながら、人を傷つけないギリギリの言葉を、しかもかわいい字体の文字でフリップに言葉をつづり続けた。それが「たしかにそうだよね」という「共感」だけでなく「そこまで言っちゃうの?」という「笑い」の渦を生みだした。
時代が変わっても「共感」と「笑い」は人を引きつける。話題のお笑い芸人のネタなどもしっかりマスターし“共演”することも。「笑いは緊張と緩和とすかし」がモットー。政治、芸能、天災など、どんな話題にも硬軟自在に毒っ気も交えてペンを走らせてきた。
ヤクルトの選手はもちろん、球団不問で選手や関係者ともグラウンドで積極的にコミュニケーションを図る。時に嫌がられても、その様子までもがネタになり、コミカルな動きと軽妙なアドリブ力ですべてを笑いに変えてきた。
亡くなられた担当者の人柄の良さと仕事熱心さ、何よりも相手を傷つけないようにと細心の注意を払う優しさが、笑いや共感に加えて、感動を呼ぶまでになった。そんな忖度(そんたく)のない距離感が、選手や首脳陣、スタッフの心もわしづかみにした。
他球団のマスコットもいじり倒す。それが相乗効果を生み、12球団のマスコットの露出と知名度も格段に上がった。グッズの数も主力選手に引けを取らず、その人気は絶大だ。
今でこそキャラ立ちしたマスコットたちが活躍するが、その走りは間違いなくつば九郎。「笑い」「共感」「かわいさ」にちょっぴり「毒」もまじった振る舞いの根底には、常に「優しさ」がある。いつしか球団を象徴する「顔」となり、オンリーワンの国民的マスコットとして、世代を超えてつば九郎が愛されるのは必然だ。【13、14、18年ヤクルト担当=浜本卓也】