<仙台育英・須江航監督インタビュー3>
謹賀新年。日刊スポーツ東北6県版ではお正月特別企画として、18年から仙台育英(宮城)を指揮する須江航監督(41)のインタビューを全4回にわたりお届けします。22年夏には東北勢初となる甲子園優勝、翌夏は同準優勝に導きました。昨年7月の新チーム始動からここまでの取り組みを始め、3月に卒業を控える3年生へのメッセージや競技人口減少問題についても語ってもらいました。【取材・構成=木村有優】
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先輩たちの言葉を胸に刻み、涙を目に焼き付けた。昨年7月23日。仙台育英は宮城大会決勝で聖和学園に敗れ、3年生の最後の夏が終わった。閉会式が行われるまでの数十分間は、どんな時間よりも濃く、3年生から後輩たちに伝統という名のバトンが託された。
須江航監督(41)も1、2年生に語りかけた。
「ベンチで『申し訳ない』『悪かった』『もっとこういう風にしておけば良かった』みたいな話を短時間の中で3年生が1、2年生と話していたので、この後悔の言葉をよく聞いておきなさいと話しました。これだけ後悔しているということは、まだまだ伸びしろがあったという話ですよね。この後悔をせずに、今紡ぎ出されているその涙の中で語る言葉と後悔をなくしていけば、来年の結果は変わるわけだから、よくこの言葉を聞いて、心にとどめるように話しました」
新チーム始動後は、3年生による結果を踏まえたプレゼンが行われた。毎年の恒例行事。それを受け、1、2年生が本格始動した。
「3年生の後悔や勝てない方向に進んでしまったことに対して、どのような学びを得て1年間やっていくのか。言葉で言うのはとても軽いんですけど、今までこれぐらいはいいでしょうとか、伝統、文化、慣習ですみたいな。決まっていたり決まっていなかったり、取り組んだり取り組んでいなかったりするようなことを全部もう1回洗い出して、1つ1つをやるんだったら、ちゃんとやるみたいな。今までは良かったことをダメにして、もう1つ高い基準でやるとかっていう作業をすごくしました。今まで良かったことが許されないということは、捉え方によっては、理不尽で不平不満を言いたくなると思います。監督がそこに土足で入るのではなく、自分たちでやっていくわけですから、不平不満の矛先も自分たちで。ぶつかり合いも必ず起きるので、四方八方にストレスがかかってるわけですよ。自分たちでやるということは何事も満場一致にはならないですから、大変苦しい日々を過ごしたと思いますよ」
その中でも結果はついてきた。夏休み中は関東、関西などの強豪校や甲子園常連校相手に無敗。内容も好感触でまさに無双状態だった。だが、懸念はあった。
「そうなってくると人間難しいもので油断するんですよね。勝ちから学ぶことは、ほとんどないので。勝ち続けるということは、何かが緩やかに衰退していくことだと思っているので」
そのときは訪れた。昨秋の県中部地区大会の東北戦。3-1の7回裏に一挙6点を許し、逆転負けした。新チーム初黒星だった。
「(夏に)聖和(学園)戦に負けてから1カ月くらいしかたっていないのに、この野球というスポーツの厳しさとか、勝敗、勝負はげたを履くまでわからないとか、一発勝負の怖さ。プロ野球は5割5分から6割5分くらい勝てば優勝だけど、高校野球は10割じゃないと優勝できない。勝率10割がどれだけ難しいことか理解していなかったよね」
目に焼き付けたはずのあの光景。いま一度、勝負の難しさを伝えた。この一戦が選手たちの目を覚ました。東北大会では準々決勝で敗れたが、着実に成長が感じられた。
「聖和戦での敗戦。間違いなく自分たちが向上している夏休み。地区大会で慢心が出て敗戦。県大会ではぎゅっと締まって、理想の試合が全部とはいきませんでしたが、勝ち上がる中で強くなっていくのも体感、体現して、東北大会前も自分たちなりにしっかりとした調整や相手の分析もして臨んで、(準々決勝で)聖光学院に敗れるという感じでした」
この長い冬は敗戦を胸に刻み、1日1日を過ごしている。さらに成長するために。
最終回は、高校野球が直面する競技人口減少の問題について語ってもらった。【木村有優】(つづく)