<明治安田J1:鹿島3-1町田>◇8日◇第38節◇カシマ
FC町田ゼルビアが挑んだJ1初昇格1年目での優勝はならなかった。わずかな優勝の可能性を残した中、勝利が最低条件となったアウェー鹿島戦に1-3と敗れた。誹謗(ひぼう)中傷とも闘った1年。黒田剛監督(54)に率いられた異端の新参者はたくましく戦い抜き、3位を確定。来季のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)進出を手にした。
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最後に力尽きた。わずかな希望は鹿島の地で散った。前半早々に失点するなど45分間で3点を奪われた。完全にのまれた。
黒田監督は「立ち上がりがすべて。平常心を保てなかった。まだまだ経験が足りない」。そう反省したが、第3位という成果を強調した。「たたえられるべき結果」とクラブ全体をねぎらった。
町田は常に話題の中心だった。「ありとあらゆる手段を講じて勝つ確率を高める」。これが黒田サッカーの真髄だ。
異端の新参者はボール非保持スタイルで「やらせない」「嫌がること」を徹底した。そこへロングスローを多用し、リードを守るための時間稼ぎもいとわない。世間から「汚い」「アンチフットボール」と蔑(さげす)まれた。
SNS上に膨らんでいく批判。そのダムは6月14日、天皇杯・筑波大戦で決壊した。誹謗中傷、脅迫メッセージも届いた。
ある選手は「ナイフに血の絵文字だけ。やべえ、殺されんじゃんとか言って。笑いに変えられるものもあれば、それはヤバイな、みたいなものまで」。藤尾の水かけボール、夏に名古屋から相馬を獲得すれば「強奪」とやゆされた。
チームは生きものだ。心身は疲弊した。9月から10月は5試合勝ちなし。町田を破った相手チームのサポーターが「やったりました」とメッセージを上げれば、他のサポーターも「よくやってくれました」と呼応した。嫌でも選手たちの目にも入った。
「(20クラブ中)19対1みたいになってますよ、と。結局、町田の選手がやっているから嫌われているんでしょっていうのはあった」
心の支えは同じピッチで戦う選手たちからの声だ。「シンプルに強い」。京都の曺監督からは「何を言われようが勝負に徹する姿勢は学ぶものがある」。そして最後はサポーターに救われた。昌子は「さまざまな厳しい意見がある中、このユニホーム姿を着て跳び続け、声を出し続け、堂々と振る舞っている姿に我々が勇気をもらった」。
否定的な声にも揺るがず、自分たちのスタイルを信じて戦い抜く。それが「負けずにやってきた証明になる」と一丸になった。
優勝はならなかったが、昌子主将は「最後は負けてしまったけど、胸を張って戦った結果。サポーターのみなさんに堂々と報告したい」。
誹謗中傷とも闘った男たちの意地だった。【佐藤隆志】
◆アジアチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)進出条件 来季25-26年のACLEは基本3枠。まず今季J1の1位神戸、2位広島、3位町田に充てられる。ただ現在戦っている24-25年大会で横浜か、川崎Fが優勝した場合(※神戸は重複するため除外)、1枠目となる。よって残り2枠は神戸、広島となり、3位の町田はACL2へと回る。天皇杯優勝の神戸はここも重複で除外。
<町田の騒動・事件アラカルト>
◆荒れた天皇杯 6月12日の2回戦で筑波大と対戦。4選手が負傷、1人はスネ骨折で全治6カ月。黒田監督は憤慨し、大学生の言葉遣いも含めて「マナーが悪い」。この発言に「先に仕掛けたのは町田の方」とネット上は炎上した。
◆正義発言 6月15日に横浜戦後に黒田監督が「決して悪ではない。我々が正義であると」と発言。再びネット上は大炎上した。
◆水かけボール FW藤尾が5月19日の東京V戦を最初に、PKの際にボールの滑りを良くするため水をかけ続けた。この行為が「非紳士的」と批判された。
◆タオルに水かけ 9月28日の広島戦で、ロングスローの備品タオルにペットボトルの水をかけらる嫌がらせを受けた。黒田監督が「反スポーツ行為」と断じれば、逆にタオルを置く行為が批判され、ネット上は大炎上した。
◆刑事告訴 10月15日、スタッフが誹謗中傷を受けたとして、SNS投稿者に対し名誉毀損(きそん)などの疑いで刑事告訴した。