日米通算4367安打を積み上げたイチロー氏(51=マリナーズ球団会長付特別補佐兼インストラクター)が、9、10日の2日間、大阪府の公立校・大冠(おおかんむり)高校のグラウンドで、同校の硬式野球部員59人(女子マネジャー、引退した3年生含む)に、猛者がひしめく大阪で勝ち抜く覚悟を問うた。
イチロー氏の高校野球部指導は今回で通算9校目。強豪私学ひしめく激戦区・大阪で、90年(平2)の渋谷以来の公立勢の甲子園出場を目指す同校選手からの手紙によるラブコールに応えた。97年から同校を率いる東山宏司監督(62)も「悲願の甲子園出場」を熱望する。
春夏通じて甲子園出場のない同校だが、17年夏の大阪大会決勝では大阪桐蔭と激戦を繰り広げた。両軍2ケタ安打の打撃戦を展開し、8-10で惜敗したが、7年経った今も語り草となっている。
イチロー氏はそのことも踏まえ「大阪の状況を見ると、大阪桐蔭と履正社の2強なんだろうと。強烈に(強豪私学を)意識しているよね? 一方で、相手がどう思っているか考えてほしい。彼らはどう思っているか、考えたことある? 僕は愛工大名電で野球をやっていて、愛知4強と言われて。この立場からするとベスト16のチーム、眼中にないです。意識もしていない。そこに挑むんだよ? 強豪校は強豪校としか(練習試合などを)やっていない。自分たちがうまくなるレベルのチームと試合をしている。だから(強豪と)差が開いていく。その壁は相当厚い。でも、みんなの情熱を持っていたら、一発勝負なら」。続けて「初めましてでここまで厳しいことを言うのは初めてです。僕も本気で来たと言うことを知っておいて」と選手たちの本気度を問うた。
練習では、股関節を意識した動きや、外野守備時の構え方など、レジェンドと密に接する絶好の機に丁寧に指導。選手とキャッチボールし、いきなり選手が落球すると「大阪桐蔭に勝つんじゃないの? 」と笑い混じりに突っ込む場面もあった。打撃でも約30スイングの実演指導を行い、75メートルのフェンス奥の体育館天井へ数球運ぶ打撃職人ぶりも見せた。
加藤日向(ひゅうが)主将(2年)は「イチローさんはオーラがすごかった。父と同じ年なのに、めっちゃ遠くに飛ばすし、肩も強いし、感激しました。走る、投げる、打つのすべての動きで股関節を使うことの大切さを学んだ。打撃でも、ヘッドを立てず、下げて打つことを教わった。いままでの僕の中にはない考えだったので驚いた。強豪私学からは、僕らは“眼中にない”と思われているんだということも知ることができた。悔しかったが、刺激的な2日間だった。来年の夏、成長した姿を見せることが恩返しになると思うので、本気で甲子園をめざして頑張りたい」と、感謝していた。
◆イチロー氏の過去の高校野球指導 20年12月の智弁和歌山が最初で、同校は翌年夏の甲子園で頂点に立った。その後は国学院久我山(東京)や当時浅野翔吾(現巨人)が在籍した高松商(香川)など強豪校に足を運んだ。甲子園出場経験のない千葉明徳や、部員が当時17人の新宿(東京)、富士(静岡)も指導。昨年11月に旭川東(北海道)のフリー打撃で快音を響かせ校舎3階窓ガラス直撃弾や、校舎を超える推定130メートル弾を披露。12月にはオリックス時代や06年WBCのキャンプで訪れた宮古(沖縄)で指導した。