<寺尾で候>
日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。
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ロサンゼルスのダウンタウンで呉服屋を営んでいた叔母の娘が、ドジャースがヤンキースを倒してワールドシリーズを制覇した現地の様子をLINE(ライン)でリポートしてきた。
「ロスはにぎやかよ。ほらっ、この前、地ビールがそろったバルでランチをしたでしょ。あの近くをパレードしたの。テレビも、ラジオも、ドジャースを祝福するニュースであふれてるわ」
さすがに日本も米大統領戦の行方がメインだったが、それを除けば、スポーツニュース、情報番組では、大谷の話題がそれを押しのける勢いを見せる。
国内の“大谷狂想曲”は仕方がないが、米国ではドジャース勝利のWワールドシリーズをどう受け止めたのか。来日したエール大学名誉教授のウィリアム・ケリー(文化人類学)は2人のリーダーシップを強調した。
「ドジャースはベンチの作戦が成功したというより、うまく人間関係を保ったことのほうが大きかったと思います。チームの雰囲気が悪くならないようにね。それを主導したのがムーキー・ベッツでした。彼は今もボストンではポピュラーですからね」
ボストン郊外に住むレッドソックスファンのケリーは、世界一を決めた第6戦の8回、決勝犠飛を放ったベッツをたたえた。
「ベッツはレッドソックス時代もワールドシリーズ2度に勝っています。ボストンに入ったときが名監督のテリー・フランコナで、ダイスケ(松坂大輔)も彼の元で優勝した。フランコナはうまくチームの和を保った監督で、ボストンに伝承されている。そこで育ったベッツはドジャースでリーダーの1人になりました」
レッドソックス監督だったテリー・フランコナは04、07年にWシリーズを制覇した実績をもつ。3度の最優秀監督に選ばれた名将で、来シーズンからレッズの指揮をとることになった。伝統球団の流儀はベッツの体にしみ込んでいると言いたげだった。
さらにケリーが挙げた「もう1人」は、ドジャースを率いたデーブ・ロバーツだ。20年にもWシリーズ制覇を果たした。
「客観的にみてヤンキースとドジャースの戦いは互角とみていた。注目度も含めて、戦力、技術的には同じです。ロバーツがうまくチームの雰囲気をつくったと思いますね。試合としては第2戦に好投した山本は素晴らしかった。ワールドシリーズの流れをつかんだのがチームにとって心理的に大きかった。1勝1敗でニューヨークに行けばわからない。ロバーツの戦法もあったが、チームを巧みに乗せましたよね」
ドジャースは4勝1敗で圧倒。ケリーは敗退したヤンキースに「あれが伝統のプレッシャーでしょう。あのジャッジがエラーするなんて、だれも思わなかった」と振り返る。
「ロバーツとは1度会ったことがあるが、日本人とはわりと親しい。チームの雰囲気は日本的にいうと和気あいあいでしょうか。監督がそういうムードを作った。ヤンキースとの差はまったく違わないけど、ヤンキースは流れを止めることができず、逆に伝統のプレッシャーが降りかかったということでしょう」
京都祇園で会食したケリーは、母国のリーダーを決める米大統領選の情勢に顔をしかめながら帰国の途に就いた。いずれにしても勝負の世界の“リーダーシップ”は共通のようだ。(敬称略)