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山本昌邦NDが語る「転換点パリ」 今後の強化策は「ラージ100」の底上げ/インタビュー


パリ五輪サッカー男子の団長を務めた日本サッカー協会の山本ナショナルチームダイレクター(撮影・佐藤成)

サッカー日本代表が、FIFAワールドカップ(W杯)北中米大会アジア最終予選で2戦12発の2連勝と好発進した。メンバー27人中19人がオリンピック(五輪)経験者。先月11日に幕を閉じたパリ五輪では、年齢制限のないオーバーエージ(OA)枠を活用せずの8強入りを初めて成し遂げた。

A代表の強化責任者で「五輪サッカーを日本で最も知る男」こと日本サッカー協会(JFA)の山本昌邦ナショナルチームダイレクター(ND=66)がこのほど、日刊スポーツのインタビューに応じ、今夏の23歳以下の祭典を「転換点」と表現した。今後の世代強化策の1つとして「『ラージ100』の底上げ」を掲げ、日本サッカー界における五輪代表の指針を示した。【取材・構成=佐藤成】

   ◇   ◇   ◇

2戦12発と爆発した「史上最強」A代表の中東遠征から帰国した山本NDは先月、団長を務めたパリ五輪でも日本のベースアップを見た。日本は一体感と組織力を武器に、下馬評を覆す1次リーグ3連勝で首位通過した。準々決勝で、優勝したスペインに力負けこそしたが、南米王者パラグアイに5-0と驚かせた。それも、出場16チームで唯一のOAなしで。08年北京大会以来16年ぶりとなる23歳以下だけでの冒険だった。

起用は模索した。協会のOA選考条件は「まず監督の意向」。大岩剛監督(52)は当初から必要性を訴えていたといい、現場の思いをくんでクラブとの交渉に当たった。ただ、招集は一筋縄ではいかない。国際マッチデー外の五輪に海外クラブは派遣を渋る。パリ世代であっても、MF久保建英(23=レアル・ソシエダード)やGK鈴木彩艶(22=パルマ)MF鈴木唯人(22=ブレンビー)らを呼べず、五輪直前に移籍したMF松木玖生(21=ギョズテペ)も諦めざるを得なかった。

欧州5大リーグの強豪に点在する選手たちの、五輪への意識も変化している。定位置争いや状態を考慮すれば、優先度が下がるのも当然だ。今回は約1年前からA代表の選手に五輪出場意思を確認してきたが、芳しくなかった。誰だって、クラブで出遅れた状態でW杯最終予選を迎えたくはない。進化の代償でもある。

自国開催の21年東京大会は例外として、過去のOAや海外組は、アジア杯が交渉材料になったという。00年シドニー五輪に出場した中田英寿(当時ローマ)は同年のアジア杯レバノン大会に不参加。04年アテネ五輪OA枠の小野伸二(当時フェイエノールト)も、同年のアジア杯中国大会に出場していない。しかし、今回は1~2月のアジア杯と五輪でシーズンが異なったため、所属クラブとの交渉でも有効なカードにはならなかった。

次回28年ロサンゼルス五輪以降も、納得の選手選考ができないケースが予見される。育成と勝利の双方を追い求めるのは酷。五輪代表監督とは、契約段階から話し合う必要がある。

「育成と勝利みたいなアンバランスさはある。詳しいことはまだ決まってないけれど、これからは監督に託す時の契約条件とかにも織り込んでいくべきだとは思います。監督に『金メダルを目指してください』とお願いするのであれば『どういう条件なら受けてくれますか』と、ちゃんと話し込まないといけない」

監督だけでなく、選手にもクラブとの契約書に「五輪出場」を盛り込ませることも必要だ。「選手が五輪に出たいなら、弁護士なり代理人なりと話をして、どのクラブに行っても、自分たちの権利をしっかり勝ち取る教育はしていかないとダメだと思う」と説いた。

振り返れば、山本NDにとって五輪の金メダルは幼い頃からの夢だった。10歳だった68年にメキシコ五輪で日本が銅メダルを獲得。その勇姿を見て小学6年の卒業文集に「オリンピックで優勝させる」と記した。

「マイアミの奇跡」を起こした96年アトランタ大会で西野朗監督の右腕を務めると、続く00年シドニー大会でもトルシエ監督をコーチとして支えた。04年アテネ大会は監督。08年北京、12年ロンドンの両大会はNHKの解説者として携わった。協会復帰後の16年リオデジャネイロ大会、20年東京大会を経て、パリ大会では団長を務めた。「この年になっても五輪にご縁がある。DNAにすり込まれているのかも」と笑う。

だからこそ、人生を懸けて夢を実現させたい。描く未来像は「ラージ100」の底上げだ。「100人の分厚い層をトップに近づける。例えば(久保)タケがトップだとしたら、そこから100人まで力の差がなければ、誰が試合に出ても勝てる。その層をどう上げるか」。大学などとも連携し、未来へ経験を積ませ、世界で戦える層を分厚くしていく。W杯制覇に続く近道と信じて。

「五輪の金メダルを見据えた組織、仕組み、やり方は指導者も、選手の育て方もやっていかないといけない。でもそれは、あくまで通過点。W杯の頂点に行くための支えになるから力を入れている。だからうまく機能させるかを本当に考えていきたい。答えはない中で」

行政への働きかけも視野に入る。パリで金のスペインは、選手が代表招集に応じる義務を法律で定めている。今回も3人のOAが主力として優勝に貢献した。「五輪のあり方をスポーツ文化の進化として、政府と一緒になって変えていくためには『こういう法律をつくってください』とスポーツ省、文部科学省から政府に働きかけてスペインのように決めてもらうことも必要」と提言した。

スターの出現も待つ。「極論」としながら「例えばだけど、メッシが『俺が出たい』といったらクラブも出さざるを得ないでしょ(笑い)。そこまでの選手はまだ日本にはいない」。アルゼンチンは、マンチェスター・シティーのFWアルバレスが出場していた。協会の力強さはもちろんありつつ、選手自身が絶対的な戦力として信頼を前シーズンまでに示していれば、自信を持ってクラブに出場意思を表明できる。

日本は、銅メダルを獲得したメキシコ大会から28年間、五輪に出場することすらできなかった。一方、呪縛を解いた96年アトランタ大会からは28年間、出場し続けている。この間、連続出場を果たしているのは世界で日本だけだ。そこに満足せず、新たな景色を見たい。

五輪からW杯へ。今月のアジア最終予選にはパリ組からDF高井幸大(20=川崎フロンターレ)とFW細谷真大(23=柏レイソル)が招集された。山本NDは願う。

「パリ五輪組が成長しているから、今回、SAMURAI BLUEのメンバーに2人が招集された。彼らはパリでかなり成長し、できることが増え、いい経験もしている」

「しかし、もっとレベルが高いのが、今のA代表。そのサブメンバーもレベルが高いので、もしかしたらアジア最高の試合はSAMURAI BLUEの紅白戦と言えるくらい。オリンピック世代に限らず、今の代表に入るには厳しい競争がある。オリンピック世代が成長しても、まだ高い壁があることも事実。代表に選ばれても、さらにアピールが必要になる」

「パリ五輪のメンバーも技術、戦術、体力は問題ない。ただ、今のSAMURAI BLUEのメンバーは、それらに加えて、図抜けたエネルギーや情熱、強烈な自信を持ち合わせていて、圧倒的な存在感を示している。強烈な自信などは今後さらに実績を上げ、身にまとっていくしかない。そういう気持ちで世界に挑み、オリンピックの経験をさらなる成長につなげていくことに期待している」

今回のパリ五輪世代に限らず、さまざまな年代が成果を出すことが日本サッカー全体の競争につながる。

「彼らはオリンピックでいろいろなことを感じたと思う。最終予選で勝った時の周囲の喜びや、本大会での応援メッセージなど、オリンピックだからこそ感じられた周りへの感謝の気持ちを大切にして、これからの振る舞いや頑張りにつなげてほしい」

「どの世代も良い成果を出していることが、日本サッカー全体の良い競争につながっている。近い将来、1人でも多くの選手が成長し自信をまとって、さらなる情熱を持ってSAMURAI BLUEに入ってくることが日本サッカーの未来につながっていく」

日本の悲願成就へ、これからも五輪の重要性は変わらない。

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