審判も海外挑戦の時代に－。今夏、5人若手審判員がフランス・パリへ武者修行に出る。7月7日から13日まで、同所で開催されるユース年代の大会「Paris World Games」に若手審判員が派遣されることが決まった。このほど、参加者がオンラインで取材に応じ、それぞれ意気込み、夢などを語った。
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一般社団法人日本サッカー審判協会（RAJ）が世界最大の審判ネットワーク「Referee Abroad」と連携したプログラムに、全国各地から17～26歳までのバラエティーに富んだ審判員が集まった。
駒沢大学高3年の山田周（あまね）さん（17）は、カナダ・バンクーバーにある姉妹校に約10カ月間留学した経験を生かして大会に臨む。「どれだけ通用するか試したい」。夢はFIFAワールドカップ（W杯）の決勝で主審を担当すること。今回をその第1歩とする。同校サッカー部は7月開幕の全国高校総体（インターハイ）への出場を決めており、監督からは「海外の基準を選手に示してほしい」と伝えられているという。仲間のためにも経験を積む覚悟だ。
もう1人の高校生は熊本・熊本農業高3年の原口桜樹（おうじゅ）さん（17）だ。普段は畜産科で牛や豚、鶏、ポニーなどを飼育している傍ら、審判活動に取り組んでいる。サッカーが大好きだが、プレーヤーとしての限界を感じたため、競技に関わり続けることができる審判を志望した。「プロレフェリーになりたいですし、審判という職業、審判をメインに生きていきたい」。英語もフランス語も得意ではないというが、「海外の雰囲気、海外でのサッカーのレベル、基準を知れると思うので、将来生きていく上でとても大切なことだと思います」と世界で活躍するためのきっかけとする。
唯一の大学生である乙川陸さん（19）は、鹿児島県を中心に審判活動を続けている。鹿屋体育大で学んでおり、「英語とレフェリングがどれだけ通用するか」と挑戦を決めた。「強い審判」に憧れる。SNSなどで何かと批判の対象となる職業だが「逆境が好き。壁に快感を覚える。大きい大会で審判するとX（旧ツイッター）でたたかれる。でもそんなこと言わせないくらいのジャッジしたい」と心意気を示した。
石川県で審判員を務める礪波（となみ）壮一朗さん（22）は、被災地へ思いをはせながら、パリへ向かう。元日の能登半島地震の影響で、被災地の審判仲間は、活動がままならないという。「盛り下がっている雰囲気があるけど、自分が動くことで希望になれば」と決意を語った。機械メーカー「澁谷工業株式会社」に勤めて3年目。「石川県には1級審判がいないので盛り上げたい」と強い石川県愛に突き動かされている。夢はスペイン1部で笛を吹くこと。「アントニオ・ミゲル・マテウ・ラオスさんが好きです。今回、海外サッカーはこういうものかと知って、夢へのいいきっかけとしたい」。
福島県・須賀川市役所職員・橋本凪志（なぎと）さん（26）は、最年長ながら参加者の中では最も審判歴が経験が浅いという。「文化やプレーの強度が違う中、今の自分のレフェリングがどこまで通用するかチャレンジしたい。今回通用したことは日本でも通用すると思うので、どんどんチャレンジしたい」とフレッシュに臨む。
インターハイ福島県予選と全国高校サッカー選手権福島県大会の決勝を担当するのが目下の目標だ。「選手や観客にリスペクトされるようになって、周りが納得感のあるレフェリングができるようになりたい」と理想像を明かした。
今回、Jリーグでも旗を振る1級審判員の赤阪修さん（38）が引率を兼ねて帯同する。自身もかつて約3年間ドイツで審判活動をしていたこともあり、海外経験の重要性は十分に理解している。挑戦者たちに対して「決断したときに9割は成功だ」と海外に飛び込む勇気をたたえた。その上で、「日本代表として派遣しているので堂々とレフェリングしてきてほしい。挑戦してほしい」と呼びかけた。五輪開幕直前の花の都で、若き日本人レフェリーたちが大きな一歩を踏み出す。【佐藤成】
◇海外派遣プログラム…RAJが現地宿泊費、食費、移動費などを負担する。選手は育成年代から海外経験が豊富な一方で、審判界では、国際審判員としてアジアや世界の大会に派遣されない限り、国際経験を積むことは難しい現状がある。そんな問題意識をもとに「若手審判員に国際経験を」との思いから23年に第1回を実施。今回は所持級を3級以上と門戸を広げて募集をかけ、5人の若者が集まった。
