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米国債利回りの上昇が、FRBの重労働を一部肩代わりする


※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。

〔要旨〕

  • なぜ利回りが上昇したのか?:9月の「ドットプロット」の発表が、最近の米10年物国債利回りの上昇の発端となった。国債の需給ギャップも大きくなってきている
  • 住宅ローン金利への影響:米国の住宅ローンのほとんどは比較的低金利の長期固定金利住宅ローンであるため、金利上昇が消費者に世界金融危機の時のような形で影響を与えるとは予想していない
  • 「セーフヘイブン」資産への需要:中東における紛争は、投資家の「セーフヘイブン」資産クラスへの需要を喚起し、日によっては国債の利回りを少なくともいくらか引き下げる対抗力となっているものの、金の方が明らかに選好されている

なぜ長期債利回りが上昇しているのか?

「セーフヘイブン」資産への需要も国債利回りに影響

米10年物国債利回りの上昇は吉と出るか凶と出るか?

今後どこへ向かうのか?それはFRB次第だ

株式にとっては何を意味するか?

注目の日程

私は、より効率的に仕事をする方法が見つかれば嬉しいですし、誰かに自分の仕事を肩代わりしてもらえれば、なおありがたく思います。自身でやる必要のあることが少ないに越したことはありません。米連邦準備制度理事会(FRB)も、これに同意するのではないでしょうか。実際、金融環境を引き締め、景気を減速させるにあたり、FRBは米10年物国債利回りにその仕事を肩代わりしてもらっているような状況です。米10年物国債利回りはたったこの数日で、10月13日の4.59%から、10月23日には5%まで上昇しました1

誰かが自分の代わりに仕事をしてくれるのは、良いことだと私は思います。以前このレポートで、私の長男がまだ幼児だった頃、おもちゃで遊ぶより祖母と一緒に掃除をする方を好んだという話をしたことがあります。夫はそれをあまり良く思っていませんでしたが、私はすぐにそのメリットに気づきました。ガラスの引き戸(少なくとも長男に手の届く下の方)を掃除してもらい、プレイルームを片付けてもらって、困ることは何もありません。

FRBは、米10年物国債利回りの上昇というある種の「助っ人」(それもガラス用洗剤スプレーとペーパータオルを装備した3歳児よりは多少効果的な)を見つけたようです。ここ数日、複数のFRB関係者がそのような発言を行っており、先週パウエルFRB議長でさえも、「金融環境はここ数カ月で大幅に引き締まったが、長期債利回りがこの引き締めの重要な推進要因となった」と認める発言をしました2

なぜ長期債利回りが上昇しているのか?

この上昇には様々な理由があります。米10年物国債利回りを牽引する要素は2つあり、それは 1)(しごく当然ですが)短期金利の影響を受けること、2)投資家が債券を長く保有するリスクに対して求める「タームプレミアム」が織り込まれていることです。このタームプレミアムには、成長期待やインフレ期待を含め、満期までに起こりうるあらゆることが織り込まれています。最近はインフレ期待が比較的安定しているため、長期債利回りの上昇を説明するには、また別の要因を見つける必要があります:

  • FRBの動向に関する予想。何よりもまず、市場はFRBが政策金利をより長期に、より高く維持するとみています。(相対的に見れば)異常な水準まで利回りが上昇したきっかけは、2024年に0.5%の利下げが行われる可能性を示唆した9月の「ドットプロット」の公表でした(6月のドットプロットで示唆された1%の利下げ幅からの大幅修正となりました)3。これにより前向きな経済データへの感応度が高まり、先週発表された米小売売上高のような前向きなサプライズは、米10年物国債利回りを押し上げる要因となりました。
  • 需要と供給。しかしそれ以外にも要因があります。どんな資産でも需要と供給が価格を決めますが、需給ギャップが大きくなってきています。供給側では、この夏初めの債務上限停止を受け、国債発行が増えました。需要面では、米国との関係で生じた摩擦により、外国人投資家からの需要減退が一定程度みられました。米国の債務残高増加や、赤字国債への依存度上昇に対する懸念も深刻となっています(数十年前まだ私が中学生だった頃、ベテランのストラテジストのエド・ヤルデニ氏は、規律の緩んだ財政・金融運営への警告として米国債購入を控える人々を指す「債券自警団」という言葉を生み出しました)。これは、かなり曖昧な部分もあるタームプレミアムの計算の重要な構成要素となり得ます。

「セーフヘイブン」資産への需要も国債利回りに影響

もちろん、利回りを押し下げる方向に働く要因もあり、中東での紛争開始以来、少なくとも数日はそれが働いています: それは「セーフヘイブン」資産クラスへの選好です。この危機が波及し、他国を巻き込んで拡大するのではとの懸念から、紛争開始以降の数日間、国債購入の動きが加速しました。セーフヘイブン資産クラスとしては金の方がはるかに強く選好されてきましたが、特に、利回りの上昇に伴い金保有の機会費用が高くなることから、選好は変化する可能性があります4

米10年物国債利回りの上昇は吉と出るか凶と出るか?

米10年物国債利回りの上昇は、FRBが利上げを行う必要がなくなり、引き締めサイクルの終了が早まるという意味で、間違いなくポジティブな展開だと私は考えます。言い換えれば、一気に片を付けるということです。しかしそれはまた、株価への下押し圧力にもなります。米国外の顧客と話をすると、彼らは米10年債利回りに牽引された住宅ローン金利の上昇が、米国の消費者に与える影響を懸念しています。

しかし、米国の30年固定住宅ローン金利の全国平均が8%(過去何年かぶりの水準)に達したものの、私は米国の家計にそれほど深刻な影響があるとは思っていません5。というのも、米国の既存住宅ローンの90%以上は長期固定金利の住宅ローンであり、平均金利は4%を下回っているためです。従って米国における金利上昇は、そうした長期固定金利住宅ローンの大幅なメリットを享受できない、他国の家計に及ぼしたような影響を米国の家計に与えることはないと考えられます6。あるいは、既存の住宅ローンの40%近くが変動金利であった世界金融危機前に、米国の家計に及ぼしたような影響を与えることはない、との言い方もできます6 。実際、住宅向け不動産ローンの滞納残高は、2020年半ば以降減少しています。

住宅ローン金利の高騰がもたらした最も大きな帰結は、市場で売りに出されている住宅在庫の減少かもしれません。というのも多くの住宅所有者は、これほど高い金利では家を売りに出したがらないからです。このような環境は、彼らにとって「黄金の手錠」となっています。

今後どこへ向かうのか?それはFRB次第だ

政策の先行き不透明感により、米10年物国債利回りは、短期的に大幅なレンジで動き続ける環境となるでしょう。しかし私は、FRBによる利上げサイクルの終了が明確になれば、利回りは低下し始めると考えています(言い換えれば、長期債利回りの著しい高騰は、ごく一時的である可能性が高いと考えています)。

私は、今後数カ月で政策が明確になる可能性が高いと考えています。結局のところパウエルFRB議長が先週、「賃金の伸びを示す指標は、長期的な2%のインフレ率と整合的となる水準に向かって徐々に低下している」と認めたことは、意義があったと私は思います7。賃金の伸びは通常、インフレの中でも最も粘着的な部分であることから、この発言はFRBが労働市場における進展に満足していることを示唆しており、FRBによる再度の利上げが必要ないことの更なる根拠となります。

FRBは短期的には強気な発言を続けるかもしれません(先週のパウエル議長の講演でも多くの強気な発言がありました)が、金融政策が経済に与えるラグ効果の兆候を素早く察知するだろうと私は考えています。というのも、私は非常に現実的な景気減速(バンピーな(でこぼこした)着地)がやってくると考えているからです。FRBは非常にデータ依存的であり、これ以上の利上げの必要性がないこと、そして2024年半ばまでに少なくとも1回の利下げが必要となる可能性が高いことに、間もなく気づくでしょう。原油価格の上昇も米消費者に重くのしかかり、FRBのやるべき仕事の一端を担うことになるだろうと考えています。

株式にとっては何を意味するか?

米10年物国債利回りが高水準を維持し、おそらくは若干上昇するため、米国株は短期的にはプレッシャーを受ける可能性が高いでしょう。先週S&P500種指数は2%以上下落し、6月1日以来の安値となる4,224まで落ち込みました8:しかし、より大きな観点で見る必要があります。これは2022年1月3日の高値4,796を大きく下回るものの、2022年10月12日の終値安値3,577を大きく上回っています8。私はこれが、昨年S&P500種指数が概ね25%下落した際に織り込まれた景気後退が、今年、同指数のより緩やかな下落により予測される景気減速に取って代わられつつあることを物語っていると考えます8 。壊れたレコードのように聞こえるかもしれませんが、私はこれは、株式や債券だけでなく、オルタナティブ資産にも幅広く分散投資することの重要性を再認識させる環境だと考えています。

注目の日程

先週発表された様々なデータを受け、私は11月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の決定に注目しています。FRBの決定に関する見方や、パウエル議長の記者会見から得られる重要なポイントをリアルタイムでお伝えしますので、ぜひX(Twitter)で私と一緒にご覧ください。

しかしその前に、いくつか重要なデータの発表やイベントが予定されています:

公表日指標等内容
10月24日日本購買担当者景気指数(速報値)製造業とサービス業の経済の健全性を示す
10月24日ユーロ圏購買担当者景気指数(速報値)製造業とサービス業の経済の健全性を示す
10月24日英国購買担当者景気指数(速報値)製造業とサービス業の経済の健全性を示す
10月24日米購買担当者景気指数(速報値)製造業とサービス業の経済の健全性を示す
10月25日カナダ銀行決定会合金利の道筋に関する最新の決定を発表
10月26日欧州中央銀行決定会合金利の道筋に関する最新の決定を発表
10月26日米耐久財受注経済の強度を示す指標
10月26日米国内総生産地域の経済活動を測定
10月27日米個人消費支出価格指数インフレの動向を示す
10月27日ミシガン大学インフレ期待インフレに関する消費者センチメントを示す
11月1日米連邦公開市場委員会金利の道筋に関するFRBの最新の決定を発表
  • 1.出所:ブルームバーグ、2023年10月23日
  • 2.出所:FRB、パウエル議長講演記録、2023年10月19日
  • 3.出所:FRB 2023年9月20日経済予測サマリー及び2023年6月14日経済予測サマリー
  • 4.出所:JPモルガン、Refinitiv Datastream、インベスコ Global Market Strategy Office、2023年10月20日
  • 5.出所:Bankrate、2023年10月23日
  • 6.出所:インベスコ、Macrobond、Federal Home Loan Mortgage Corporation (Freddie Mac)、2023年9月30日
  • 7.出所:FRB、パウエル議長講演記録、2023年10月19日
  • 8.出所:ブルームバーグ、2023年10月20日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

ご利用上のご注意
当資料は情報提供を目的として、インベスコ・アセット・マネジメント株式会社(以下、「当社」)が当社グループの運用プロフェッショナルが日本語で作成したものあるいは、英文で作成した資料を抄訳し、要旨の追加などを含む編集を行ったものであり、法令に基づく開示書類でも金融商品取引契約の締結の勧誘資料でもありません。抄訳には正確を期していますが、必ずしも完全性を当社が保証するものではありません。また、抄訳において、原資料の趣旨を必ずしもすべて反映した内容になっていない場合があります。また、当資料は信頼できる情報に基づいて作成されたものですが、その情報の確実性あるいは完結性を表明するものではありません。当資料に記載されている内容は既に変更されている場合があり、また、予告なく変更される場合があります。当資料には将来の市場の見通し等に関する記述が含まれている場合がありますが、それらは資料作成時における作成者の見解であり、将来の動向や成果を保証するものではありません。また、当資料に示す見解は、インベスコの他の運用チームの見解と異なる場合があります。過去のパフォーマンスや動向は将来の収益や成果を保証するものではありません。当社の事前の承認なく、当資料の一部または全部を使用、複製、転用、配布等することを禁じます。

MC2023-169

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