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iDeCoと退職金の受け取りを5年ずらす効果とは?節税効果を計算


iDeCoの給付を1度にまとめて受け取れる一時金の場合は、退職所得控除が適用されます。退職所得控除を活用して受け取った年の税金を抑えられますが、受け取り方によって節税効果が変わることをご存じでしょうか。

本記事では、iDeCoと退職金の受け取りを5年ずらす効果や、退職所得控除の仕組みについて解説します。

iDeCoを受け取った後、退職金を5年後にずらすと節税効果が大きい

iDeCoの給付金を一時金として受け取った後、会社からの退職金を5年後にずらすと、退職所得控除による節税効果があります。仮にiDeCoの一時金を2,000万円、会社からの退職金を2,500万円とすると、受け取り方によって税金は300万円ほど変わります。

節税効果が変わるのは、退職所得控除に「5年ルール」や「19年以内ルール」と呼ばれる仕組みがあるためです。なお、本記事ではiDeCoを一時金で受け取るケースを想定しているため、年金で受け取る場合はシミュレーション結果が異なります。

iDeCoには退職所得控除の5年ルールがある

先にiDeCoの一時金を受け取り、その後4年以内に会社から退職金を受け取った場合は、退職金に適用される退職所得控除が減額されます。この仕組みは「5年ルール」と呼ばれており、勤続年数のうちiDeCoの加入期間と重複する部分については、退職所得控除が適用されません。

例えば、2020年にiDeCoの一時金を受け取るケースでは、退職金の受け取りを2025年以降にすると、それぞれのお金に退職所得控除が適用されます。

退職所得控除の19年以内ルールには要注意

先に会社から退職金を受け取り、その後19年以内にiDeCoの一時金を受け取る場合も、重複期間分(勤続年数と加入期間)の退職所得控除が減額されます。例えば、2020年に退職金を受け取るケースでは、iDeCoの一時金を2040年以降に受け取ると退職所得控除の減額を避けられます。

退職所得控除の計算方法

退職所得控除が適用された後の退職所得は、以下の式で計算できます。

(源泉徴収前の収入金額-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円×勤続年数
(※80万円が下限)
20年超800万円+70万円×(勤続年数-20年)

「源泉徴収前の収入金額」とは、iDeCoの一時金や会社から受け取った退職金のことです。iDeCoの退職所得控除額を計算する際には、勤続年数ではなく「加入年数」を使います。

税金の計算方法

今回使う税金の計算方法は、以下のとおりです。

<所得税の計算方法>
→退職所得×税率-控除額

<住民税の計算方法>
→退職所得×住民税率(10%)

所得税の税率は、以下のとおりです。

課税所得金額税率控除額
1,000円~194万9,000円5%0円
195万円~329万9,000円10%9万7,500円
330万円~694万9,000円20%42万7,500円
695万円~899万9,000円23%63万6,000円
900万円~1,799万9,000円33%153万6,000円
1,800万円~3,999万9,000円40%279万6,000円
4,000万円以上45%479万6,000円

上記の計算方法は、頭に入れておきましょう。

iDeCoと退職金の受け取りを5年ずらす効果

iDeCoと退職金の受け取りを5年ずらすと、負担する税金はどれくらい変わるのでしょうか。まずは節税効果の計算をするための前提条件をまとめ、その後に具体的な計算を行なっていきます。

<前提条件>
入社年:2020年(22歳)
会社からの退職金:2,500万円(※源泉徴収前)
iDeCoを始めた年:2030年(30歳)
iDeCoの一時金:2,000万円

ここからは3つのパターンに分けて、具体的な計算方法を見ていきましょう。

iDeCoと退職金を同時に受け取った際の税金

iDeCoの一時金と退職金を同一年内に受け取った場合は、期間(勤続年数または加入期間)が長いほうの退職所得控除額が適用されます。仮に60歳で受け取ったとして、具体的に計算してみます。

<勤続年数が長い方(退職金)の退職所得額>
800万円+70万円×(38年-20年)=退職所得控除額
800万円+70万円×18年=2,060万円

上記の計算結果を見ると、退職金だけでその年の控除枠を使い切っています。つまり、iDeCoの一時金には退職所得控除が適用されないため、税金は以下のように計算できます。

<iDeCoの一時金と退職金にかかる退職所得の計算>
(源泉徴収前の収入金額-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額
(2,500万円+2,000万円-2,060万円)×1/2=1,220万円

<iDeCoの一時金と退職金にかかる税金>
1,220万円×33%-153万6,000円=249万円(所得税)
1,220万円×10%=122万円(住民税)

<税金の合計額>
→371万円

それぞれの受け取り時期を変えることで、以下のように税金を減らすことができます。

iDeCoを5年先に受け取った際の節税効果

最初にiDeCoを60歳(加入30年)まで運用し、退職金を65歳(勤続43年)で受け取るケースについて考えます。

先にiDeCoの一時金を受け取り、5年以上の間隔をずらして退職金を受け取った場合は、前述の5年ルールが適用されません。勤続年数と加入期間の重複期間を差し引く必要がないため、各年の税金は以下のように計算できます。

<iDeCoの退職所得控除の計算(控除適用後)>
800万円+70万円×(30年-20年)=退職所得控除額(計算式)
800万円+70万円×10年=1,500万円(計算結果)

<iDeCoの退職所得の計算>
(源泉徴収前の収入金額-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額(計算式)
(2,000万円-1,500万円)×1/2=250万円(計算結果)

<iDeCoの一時金にかかる税金>
250万円×10%-9万7,500円=15万2,500円(所得税)
250万円×10%=25万円(住民税)

<退職金の退職所得控除の計算(控除適用後)>
800万円+70万円×(43年-20年)=退職所得控除額
800万円+70万円×23年=2,410万円

<退職金の退職所得の計算>
(源泉徴収前の収入金額-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額
(2,500万円-2,410万円)×1/2=55万円

<退職金にかかる税金>
55万円×5%-0円=2万7,500円(所得税)
55万円×10%=5万5,000円(住民税)

上記の計算をまとめると、以下のとおりです。

<iDeCoの一時金にかかる税金>
→40万2,500円(15万2,500円+25万円)

<退職金にかかる税金>
→8万2,500円(2万7,500円+5万5,000円)

<税金の合計額>
→48万5,000円

退職金を5年先に受け取った際の節税効果

次に、退職金を60歳(勤続38年)で受け取り、iDeCoの一時金を65歳(加入35年)で受け取るケースを考えます。この場合は19年以内ルールが適用されるため、iDeCoの退職所得控除額から重複期間分(30歳から60歳まで)が減らされます。

<iDeCoの退職所得控除の計算(控除適用後)>
40万円×加入年数(※重複期間分を除いたもの)=退職所得控除額
40万円×(35年-30年)=200万円

<iDeCoの退職所得の計算>
(源泉徴収前の収入金額-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額
(2,000万円-200万円)×1/2=900万円

<iDeCoの一時金にかかる税金>
900万円×33%-153万6,000円=143万4,000円(所得税)
900万円×10%=90万円(住民税)

<退職金の退職所得(控除適用後)>
800万円+70万円×(38年-20年)=退職所得控除額
800万円+70万円×18年=2,060万円

<退職金の退職所得の計算>
(源泉徴収前の収入金額-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額
(2,500万円-2,060万円)×1/2=220万円

<退職金にかかる税金>
220万円×10%-9万7,500円=12万2,500円(所得税)
220万円×10%=22万円(住民税)

上記の計算をまとめると、以下のとおりです。

<iDeCoの一時金にかかる税金>
→233万4,000円(143万4,000円+90万円)
<退職金にかかる税金>
→34万2,500円(12万2,500円+22万円)
<税金の合計額>
→267万6,500円

ここまでの計算結果により、iDeCoの受け取りから退職金を5年ずらす方法が、最も節税になることが分かりました。以下の表では、受け取り時期ごとの税金をまとめています。

<受け取り時期ごとの税金まとめ>

退職金iDeCo合計
iDeCoを5年先に受け取る8万2,500円40万2,500円48万5,000円
退職金を5年先に受け取る34万2,500円233万4,000円267万6,500円
同時に受け取る0円371万円371万円

iDeCoと退職金を同時に受け取っても全額節税できる金額

iDeCoと退職金を同一年内に受け取る場合でも、金額によっては全額が退職所得控除の対象になります。以下では、2つのパターンに分けて解説します。

パターン1:勤続年数・加入期間が10年の場合

勤続年数と加入期間のうち長い方が10年の場合は、以下の式で退職所得控除額を計算できます。

<退職所得控除の計算(控除適用後)>
40万円×勤続年数(加入期間)=退職所得控除額
40万円×10年=400万円

つまり、iDeCoの一時金と退職金の合計額が400万円未満の場合は、退職所得に対する税金がかかりません。

パターン2:勤続年数・加入期間が30年の場合

次に、控除対象となる期間が30年の場合を考えてみます。

<退職所得控除の計算(控除適用後)>
800万円+70万円×(30年-20年)=退職所得控除額
800万円+70万円×10年=1,500万円

こちらのケースでは、iDeCoの一時金と退職金の合計額が1,500万円を超えない限り、全額を節税できることが分かりました。退職所得控除の金額は、勤続年数またはiDeCoの加入期間が長いほど増えます。

iDeCoと退職金の受け取りを5年ずらすときの注意点

勤続年数やiDeCoの加入期間によっては、予定通りに受け取り時期を調整できるとは限りません。iDeCoと退職金の受け取りを5年ずらす場合は、以下の注意点も意識することが大切です。

iDeCoの加入期間

iDeCoの一時金は原則60歳から受け取れますが、実際の受給開始年齢は加入期間によって異なります。

iDeCoの加入期間受給開始可能年齢
1ヵ月~2年未満65歳から
2年~4年未満64歳から
4年~6年未満63歳から
6年~8年未満62歳から
8年~10年未満61歳から
10年以上60歳から

仮に60歳でiDeCoの一時金を受け取りたい場合は、少なくとも10年以上の加入期間が必要です。退職金の受け取り時期も意識した上で、iDeCoに加入するタイミングを考えましょう。

退職金が短期退職手当にあたる場合は注意

短期退職手当とは、勤続5年未満の人が受け取る退職金です。短期退職手当のうち300万円を超える部分には、退職所得控除の「2分の1課税」が適用されません。

150万円+{収入金額-(300万円+退職所得控除額)}=短期退職手当の所得

実際に短期退職手当がある場合の税金を計算していきましょう。

<前提条件>
・勤続3年
・500万円の短期退職手当

<退職所得控除額>
3年×40万円=120万円

<短期退職手当の所得>
150万円+{500万円-(300万円+120万円)}=230万円

退職金が短期退職手当にあたる場合は、勤続年数を調整できないか検討してみましょう。

iDeCoには3つの受け取り方法がある

iDeCoで運用した資産は、一時金以外の方法でも受け取れます。ここからは3つの方法に分けて、受け取り方による違いを解説します。

一時金のみ

一時金は、運用した資産を一括で受け取る方法です。受け取った金額は退職所得となるため、前述の退職所得控除が適用されます。

ただし、同一年内に退職金を受け取る場合や、19年以内ルールが適用される場合は、全額が課税対象になることもあります。前述のシミュレーションを参考にしながら、受け取るタイミングを慎重に考えましょう。

年金のみ

年金は、受け取り期間と年間支給回数を指定する方法です。受け取り期間は5年~20年(※1年刻み)の中から、年間支給回数は「1回・2回・3回・4回・6回・12回」から選べます。iDeCoの年金は雑所得となり、退職所得控除ではなく「公的年金等控除」が適用されます。一時金とは税金の仕組みが異なるため、年金を選ぶ人は注意してください。

一時金と年金

iDeCoの運用資産は、一時金と年金を組み合わせる形でも受け取れます。この場合、一時金で受け取った分は退職所得、年金は雑所得として扱われます。税金を極力抑えたい場合は、退職金も含めて細かく計算しておきましょう。

退職金に合わせてiDeCoの受け取り時期を調整しよう

iDeCoの受け取りから退職金を5年後ずらすと、節税につながる可能性があります。しかし、退職金の支給時期は決まっている会社が多いため、iDeCoを受け取ってから調整することは難しいかもしれません。退職時期の調整が難しい場合は、iDeCoの受け取り時期を調整してみましょう。

※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。
※本記事はiDeCoに関わる基礎知識を解説することを目的としており、iDeCoの利用を推奨するものではありません。

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