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要旨
「米国一強」の持続性についての疑念が広がる
グローバル金融市場において、リーマンショック以降の市場の大きな特徴であった「米国一強」の持続性に対する疑念が広がっています。
米長期金利の上昇とドル安は米国市場への信認低下を部分的に反映
金融市場では「ドル安、米債券安、米株安」というトリプル安の動きが生じましたが、このうち、特にドル安、米債券安(=米長期金利の上昇)は米国市場への信認が低下したことを部分的に反映しているとみられます。
「米国一強」は続くが、米国市場への集中度は今後やや低下する公算
今後については、結論から言いますと、「米国一強」の構図自体は続くものの、グローバル市場における米国への集中度はやや低下すると考えられます。とはいえ、私は、米国株市場への信頼感が大幅に低下するわけではないと考えています。米国景気が底打ちするとみられる2025年10-12月期ごろには、米国再評価の動きが強まるとみられます。通商ディールによる米国経済へのプラス効果、AI関連銘柄への持続的な資金流入、米国以外の地域における脆弱性、が米国株をサポートする役割を果たすと見込まれます。
「米国一強」の持続性についての疑念が広がる
グローバル金融市場において、リーマンショック以降の市場の大きな特徴であった「米国一強」の持続性に対する疑念が広がっています。リーマンショック以降、米国の長期的なトレンドでみた経済成長率が他の多くの主要先進国を上回る中、米国域外から米国に向けての証券投資資金の大規模な流入が続き、米国株式市場は活況となりました。ドルの基軸通貨体制の下、米国は過去何十年にもわたって経常収支の赤字を海外からの債券投資でファイナンスし続けてきましたが、リーマンショック以降は、米国の強さが株式市場においても突出してきました。世界の株式市場全体の時価総額に占める米国のシェアは、2007~2010年ごろは3割程度でしたが、2024年末には5割程度まで上昇しました(図表1)。米国だけが例外的に強い状況になったことから、「米国一強」は「米国例外主義(US Exceptionalism)」とも呼ばれます。
しかし、トランプ政権が、多くの分野で国際協調主義と決別し、国際的なリーダーシップの発揮に後ろ向きの対応をとる中、他国からの輸入品に大規模な追加関税を課す方針を打ち出すと、その追加関税政策がもたらすインフレによる米国景気の大幅な減速が視野に入ってきました。これらの出来事は、グローバルな投資家による米国への投資についての信頼感を揺るがしています。また、トランプ政権が目指す大規模な減税措置が米国の財政赤字の大幅な増加につながるとの懸念が出てきたことも、この信頼感に悪影響を及ぼしています。
米長期金利の上昇とドル安は米国市場への信認低下を部分的に反映
為替市場では、トランプ政権発足以降、ドル安トレンドが継続しています。一方、債券市場でも、4月2日にトランプ政権が相互関税措置を公表した直後に米10年国債金利が大きく低下したものの、その後は上昇に転じました。他方、株式市場では、S&P500種指数が2月19日に史上最高値をつけた後、大幅に下落、その後大きくリバウンドしたものの、まだ最高値には戻っていません。金融市場におけるこれらの「ドル安、米債券安、米株安」というトリプル安の動きが、「米国一強」の持続性についての疑念を強めています。
このうち、株安の動きについては、追加関税策が米国景気の減速につながることをふまえると自然な動きと言えます。その後、5月12日に米中が追加関税の引き下げで合意するなど、トランプ政権が追加関税策について柔軟に対応してきたことで、株価が上昇したことも、それが米国の景気後退の可能性を低下させるものであることから、多くの市場参加者が納得する動きであったと言えます。しかし、相互関税の発表でいったん4%程度に低下した米10年国債金利が、直近(5月21日)で4.6%近傍という比較的高い水準にある点は、一部の投資家が米国国債に対する信頼感を低下させたことを反映しているように思われます。また、ECB(欧州中央銀行)や、日銀を除くその他主要中央銀行がFRB(米連邦準備理事会)よりも利下げに積極的になっているにもかかわらずドル安が進行している点も、一部海外投資家のドルに対する信認の低下を映し出しているように思えます。
「米国一強」は続くが、米国市場への集中度は今後やや低下する公算
今後については、結論から言いますと、「米国一強」の構図自体は続くものの、グローバル市場における米国への集中度はやや低下すると考えられます。まず、株式市場について考えると、グローバル株式市場における米国株の時価総額シェアが2024年末時点で50.1%であったのに対し、欧州の主要8市場(英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、スイス、スウェーデン)のシェアは11.2%に過ぎず、過去20年間で欧州株のシェアはほぼ半減しました(図表1)。米国株の主要指標であるS&P500種指数の直近(2025年4月末)でのPER(株価収益率、アナリスト予想による1年先までの利益を用いて算出、以下同様)は21.0倍であり、ヒストリカルな水準(2007~2022年の平均値、以下同様)である16.9倍を大きく上回っています。欧州株の主要指標であるストックス欧州600指数の直近のPERが14.6倍と、ヒストリカルな水準である14.4倍とほぼ同じであることをふまえると、米国株の評価が相対的に高いと言え、今後は、欧州株に対する評価がやや上昇する形で欧米のPER格差が縮小する可能性が高いと見込まれます。
とはいえ、私は、米国株市場への信頼感が大幅に低下するわけではないと考えています。トランプ政権が推進する追加関税策は短期的にはインフレ押上げによる景気悪化をもたらすものの、時間の経過とともに、追加関税による輸入品の代替や他国との通商ディールによる効果によって産業競争力の向上が期待されます。米国景気が底打ちするとみられるタイミングで、米国再評価の動きが強まるとみられますが、そのタイミングは、2025年10-12月期ごろになる可能性が高いと見込まれます。一方で、世界の投資家にとって、米国のテック企業への投資はAI技術革新による恩恵を享受するうえで欠かせません。米国は今後の世界経済の変革をけん引するとみられるAI技術において他国を大きく引き離していることから、テック企業への米国内外からの資金流入は継続するとみられます。
米国以外の各主要市場がそれぞれ脆弱性を抱えていることも、米国株市場への継続的な資金流入につながるとみられます。グローバル株式市場の中で米国市場に次ぐ規模の欧州市場には、今後、ある程度の資金フローが続くとみられます。欧州では、トランプ政権の新政策を受けて、財政政策を積極化する動きが出ていますが、EU(欧州連合)による厳しい財政ルールは機動的な財政政策の実施にとって障害になっています。また、ロシア・ウクライナ戦争の勃発以降、欧州はエネルギー供給面で多くの課題を抱えるようになりました。さらに、米中の貿易摩擦によって今後中国でのデフレが深まる可能性が高く、欧州からの中国向け輸出の抑制や、中国製品の欧州への流入に伴って欧州景気に悪影響が及ぶ可能性があります。また、欧州への証券投資フローが強い状態が続く場合、ユーロ高を通じたデフレ圧力が強まりやすい点も指摘できます。
日本株市場については、高水準の賃上げを背景に内需型企業には追い風が吹くとみられますが、その一方で、米国が課す追加関税で自動車産業など一部産業に悪影響が及び、日本の競争力の低下につながるリスクが投資家から意識される可能性があります。
中国株市場については、不動産問題が長期化する中で財政刺激策による景気浮揚が続いています。追加的な景気刺激策の実施が視野に入ることで、景気の腰折れは回避されると見込まれます。しかし、米中の貿易面での緊張関係が大きく高まったことで、中国からの製造拠点の他国への移転などによって対内直接投資の低迷が続き、製造業における供給過剰の問題とともに株価抑制につながる可能性があります。
一方、中国以外の新興国・地域の株式市場については、昨年までは、ドル高に伴う悪影響が比較的大きく、全体として出遅れ感がありました。今年はFRBによる追加的な利下げが見込まれる中、先進国に比べると新興国・地域の株式市場が活況になる可能性が高いと考えられます。もっとも、新興国・地域への証券投資フローの回復は、時間の経過とともにより選別的になると見込まれます。具体的には、米国の追加関税策をはじめとする外部ショックへの脆弱性や金融・財政政策の対応の柔軟性、中国からの製造拠点のシフト状況などに左右されるとみられます。
次に、為替・債券市場については、足元で進行するドル安圧力と米債券安の圧力がしばらくの間継続する可能性は否定できません。特に、中国など、地政学的な点で米国との緊張関係にある国々にとっては、トランプ政権による相互関税政策をきっかけに緊張関係が強まったことが、外貨準備による米国債券投資比率のさらなる引き下げにつながる可能性があります。また、こうした動きを受けて、短期的な利益を狙いとしたドル売り、米国債券売りの動きが強まる可能性もあるでしょう。IMF(国際通貨基金)の調査によれば、世界の中央銀行が保有する外貨準備の内訳を集計すると、全保有資産に占めるドル資産の割合は、中期的にゆっくりとした低下傾向にあり、2019年末の60.8%から、2024年末には57.8%に低下しました。足元の動き等をふまえると、この低下傾向は今後もゆるやかに継続するとみられます。ただし、先にふれたように、米国景気は2025年末までには底を打ち、その後は米国経済の成長率が他の多くの先進国を上回る状況が訪れるとみられます。これは、米国の長期金利が、信用リスク調整ベースで、他の多くの先進国の長期金利を安定的に上回る状況が見通せることを意味しています。この際、米国の債券が、金利面での魅力を軸に、海外からの投資対象としての魅力を取り戻すことで、米国の債券への資金フローが強まることが予想されます。
仮に、世界の基軸通貨としてのドルの地位が揺らぐのであれば、米国の債券市場への資金フローは細ってしまうでしょう。しかし、ユーロや人民元、円、ポンドなどドル以外の通貨がドルに代わる基軸通貨としての実力を備える中長期的な将来像を想像するのは現時点で困難です。実際問題としては、トランプ政権の政策は、大きく膨らんだ米国の経常収支の赤字を減らそうとする、いわば、基軸通貨としてのドルの維持を図る政策という面もあります。当面はドルが世界の基軸通貨としての役割を果たすと見込まれます。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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