専門家に運用を任せられる投資信託には、どのようなリスクがあるのでしょうか。相場状況によっては損失がでることもあるため、金融商品としての特性はきちんと把握することが重要です。本記事では、投資信託で損をするケースや注意したい人、損を抑えるコツについてご紹介します。
投資信託は損失のリスクがある金融商品
投資信託には元本保証が備わっていないため、どのようなファンドにも損失のリスクがあります。たとえば、ファンドの投資先である株式などが値下がりすると、それに伴って基準価額も下がります。
利益がでるまで長期保有する選択肢はありますが、保有中に基準価額が上昇するとは限りません。損失を抱えた状態で運用が終了すると、保有の意思があっても損失が確定してしまいます。
投資信託で確実に損失を避ける方法はないため、ファンドの選び方や取引の方法などを工夫し、できるだけリスクを抑えることが重要です。
投資信託で損をするケース5つ
投資信託を保有していると、想定外の場面で損失がでることもあります。実際にどのような場面があるのか、以下では投資信託で損をする5つのケースを解説します。
1.基準価額が下がったとき
基準価額とは、投資信託の一口あたりの価格を示すものです。取引価格と連動しているため、基準価額が下がると投資家の資産評価額は減り、再び上昇するまでは損をすることになります。
基準価額は様々な要因で変動しますが、特に大きなものとしては組入資産の価格変動があります。たとえば、日経株価平均をベンチマーク(運用の基準)にしているファンドでは、
国内の株式市場が下落すると基準価額が下がりやすくなります。
2.分配金の受けとり後に基準価額が上昇しなかったとき
投資信託の分配金は純資産から支払われるため、分配後には基準価額が下落しやすくなります。このときに下落した基準価額が回復しない場合、投資家は損をする可能性があります。
たとえば、投資家の元本からとり崩される「特別分配金(元本払戻金)」から考えてみましょう。特別分配金は元本の払い戻しにあたるため、そもそも投資家のリターンにはなりません。したがって、分配後の基準価額がさらに下落すると、リターンがない状態で損失が膨らむことになります。
運用益から支払われる「普通分配金」についても、長期目線では確実なリターンになるとは限りません。一時的な利益ではあるものの、普通分配金の支払い後にもファンドの純資産は減少するため、基準価額は下がりやすくなります。基準価額がそのまま回復しない場合は、課税分(1年間の利益に対して20.315%)の損失が生じてしまうかもしれません。
3.繰上償還が決まったとき
繰上償還とは、あらかじめ決められた償還日(信託期間)を迎える前に、ファンドの運用が終了することです。繰上償還が決まったファンドは、投資していた株式などの資産を全て売却し、その時点での基準価額から計算した償還金を投資家に支払います。
したがって、評価額がマイナスのファンドを保有しており、その状態のまま繰上償還が決まると、投資家の損失は確定することになります。
4.含み損がある状態で売却したとき
含み損とは、保有している資産の評価額が、購入時の価格を下回っている状態です。言い換えると未確定の損失ですが、含み損が解消されないままファンドを売却すると、投資家の損失が確定します。
なお、投資信託の取引では「ブラインド方式」が採用されており、売買の申し込みを締め切った後で取引価格が決定されます。申し込みから約定までに基準価額が変動することもあるため、申し込みの時点では損失が確定するわけではありません。
特に含み損が小さい場合は、申し込み後の変動によって損失が利益に変わる可能性もあります。
5.手数料が利益を上回ったとき
ファンドの基準価額が購入時から上昇しても、売却までにかかった手数料が利益を上回る場合は損がでてしまいます。
たとえば、購入時手数料が3.0%のファンドを、基準価額が1万円のときに1口購入したとします。基準価額が1万100円になってから売却すると、単純計算では100円分のリターンを得られますが、実際は購入時に300円(1万円×3.0%)の手数料がかかっています。つまり、手数料を含めた損益はマイナス200円(100円-300円)となるため、トータルでは損をしていることになります。
手数料の仕組みは投資信託によって異なり、解約時に手数料がかかるファンドもあります。基準価額だけではトータルの損益を判断できない場合もあるので、各ファンドの手数料体系は交付目論見書などで確認しておきましょう。
投資信託で損失がでやすい人の特徴
投資信託で失敗する人には、どのような共通点が見られるでしょうか。ここからは、投資信託で損失がでやすい人の特徴を解説します。
ファンドの特性を理解していない
ファンドの特性を理解せずに購入すると、一時的な値動きで動揺したり、売却の方針が曖昧になったりしてしまいます。投資信託には様々なファンドがあるため、まずはご自身の目的に合った種類を選び、似ているファンドを細かく比較することが重要です。
どのような点を比較すればよいのか、以下では一例をご紹介します。
<ファンドの比較ポイント>
・どのような国や資産に投資しているか
・組入上位にどのような銘柄が含まれるか
・手数料の仕組みがどうなっているか
・為替変動の影響を受けやすいか
・リバランスの頻度はどれくらいか など
また、投資信託のタイプは大きく分けると、ベンチマークとの連動を目指す「インデックス・ファンド」と、ベンチマーク以上の成果を目指す「アクティブ・ファンド」に分類できます。全体の傾向として、インデックス・ファンドは信託報酬が安いなどの特徴があるため、まずはどちらのファンドに該当するのかを確認してみましょう。
その上で、様々なファンドに目を通しながら候補を絞っていくと、効率的に比較をすることができます。
分配金や利回りだけでファンドを選んでいる
安定したリターンを期待している人にとって、分配金は魅力的に映るかもしれません。分配実績は判断材料のひとつですが、長期目線ではリターンにならないこともあります。また、ファンドの分配方針は変更される場合があるため、ほかの情報も含めて総合的に判断することが重要です。
投資金額に対する収益の割合を表した「利回り」についても、同様のことが言えます。利回りはあくまで過去のデータであり、将来のパフォーマンスを約束するものではありません。判断材料のひとつであることを理解し、基準価額の推移や市場動向なども踏まえて、将来の予測を立てる必要があるでしょう。
分配実績や利回りに限らず、ひとつの情報だけで判断すると失敗をする可能性があるので注意してください。
保有時に運用状況を確認していない
投資信託を取り巻く環境は、世界中で常に変化しています。保有時に運用状況をこまめに確認しないと、そのような変化に対応することができません。
運用状況の確認では、基準価額の推移などとあわせて資産配分比率も把握することが重要です。最初は理想のポートフォリオを組めたとしても、基準価額の変動によって資産配分比率は変わります。ポートフォリオが崩れた場合は、必要に応じてリバランスをしないとリスク管理ができません。
ファンドの保有中には運用状況のこまめな確認とともに、年1回や四半期ごとなどの頻度で定期的なリバランスを意識しましょう。
リスク許容度を把握していない
ご自身のリスク許容度を把握していないと、基準価額が下がったときに「いつかは回復する」と考えてしまう可能性が高まります。相場状況によっては、基準価額が下がったタイミングで繰上償還になる場合もあるため、損がでるケースも想定しなければなりません。
投資におけるリスク許容度とは、「どれくらいの損失なら許容できるか」を具体的にしたものです。判断材料としては、現在の資産状況や年収、年齢、家族構成、性格などがあり、将来のライフプランや日常生活に影響しない損失額がひとつの基準になります。
基準価額が下がりきる前に保有商品を手放せば、次の投資に回す資金を残すことにもつながります。ひとつのファンドにこだわると、このような投資機会まで逃してしまうかもしれません。
投資全体のパフォーマンスを上げるためにも、ご自身のリスク許容度はしっかりと把握しておきましょう。
投資信託の損失を抑えるコツ
投資信託はファンドの選び方や購入方法の工夫によって、損失のリスクを抑えられることがあります。以下では、投資信託の損失を抑えるコツをご紹介します。
購入目的を明確にする
投資信託の購入目的を決めると、必要な投資額や期間などが明確になります。それに合わせて、ご自身に合った手法や許容できるリスクも判断しやすくなるため、目的の設定はリスクを抑えることにつながります。
購入目的については、できるだけ具体的なものを考えましょう。たとえば「60歳までに老後資金を3,000万円貯める」のように設定すると、現在の年齢と資産状況から逆算することで、目的達成に必要な期間とリターンが決まります。
購入目的が思い浮かばない人は、今後のライフイベントを具体的にイメージしてみてください。よくある例としては結婚や出産、子どもの進学、マイホームの購入などがあります。
トータルリターンを確認する
投資信託のトータルリターンとは、値上がり益や分配金、ファンドの運用にかかったコストなどを含めた総合収益を表す指標です。利回りよりも実態に近いリターンを把握できるため、今後のパフォーマンスを判断する際に役立ちます。
ただし、トータルリターンは過去のデータをもとに算出されるため、将来のパフォーマンスを保証するものではありません。基準価額の推移や運用方針なども見た上で、あくまで判断材料のひとつとして確認することが重要です。
なお、利用する金融機関によっては、保有しているファンドのトータルリターンも確認できます。評価額だけでは読みとれない情報もあるので、様々な指標やデータに目を通しましょう。
リスクの低いファンドを選ぶ
リスクの低いファンドとは、値動きが比較的安定した投資信託のことです。例としては、債券型の投資信託が挙げられます。
債券は満期を迎えると額面金額を受けとれるため、株価が日々変動する株式に比べると、価格推移が穏やかな傾向にあります。つまり、債券を多く組み入れているファンドに投資すれば、短期間で大きく下落するようなリスクを抑えられる可能性があります。
ただし、債券にも金利変動リスクやデフォルトリスクがあるため、確実にリスクを避けられるとは限りません。また、株式を多く組み入れているファンドに比べると、大きなリターンを期待しづらい特徴があります。
積立投資で購入時期を分散する
購入金額を一定に保つ積立投資では、ファンドの価格が下がったときに多くの数量を購入し、価格が上がったときには少ない数量を購入します。その結果として、ファンドの平均購入単価が平準化されるため、損失のリスクを抑えられる場合があります。
一括投資が有利な局面もありますが、購入時期を分散しない場合は、基準価額が上がりきったタイミングで購入してしまうかもしれません。割高な状態のファンドを購入すると、下落したときの損失幅が膨らみます。
積立投資は始めるハードルも低く、現在では様々な金融機関が投信積立のサービスを提供しています。毎月100円から利用できるサービスもあるので、ひとつの選択肢として検討してみましょう。
損切りも選択肢に入れる
損切りとは、含み損がある状態の金融商品を売却し、損失を確定させることです。どのようなファンドにも値下がりのリスクはあるため、資産を守りたい人は損切りも選択肢に入れましょう。
事前に損切りのラインを決めておくと、それ以上の損失がでることを防げます。特にファンドの基準価額が大きく下落し、しばらく回復を見込めないような局面では、損切りが有効な選択肢になります。早めの損切りを意識すれば、現金化した資産を使って別のファンドに投資する選択肢も生まれるでしょう。
ファンドの選び方や購入方法の工夫でリスクを抑えよう
投資信託は専門家に運用を任せられる金融商品ですが、状況によっては損失がでることもあります。どのファンドにも元本保証が備わっていないため、常に損失を想定して対策を考えることが重要です。
ファンドの選び方や購入方法を工夫して、損失のリスクをできるだけ抑えることを目指しましょう。
※本記事は投資信託に関わる基礎知識を解説することを目的としており、特定ファンドの売買や投資を推奨するものではありません。
※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。
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