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〔要旨〕
- 減税:トランプ次期大統領は減税・雇用法の延長と法人税の引き下げに重点を置く可能性が高く、このことは市場に非常に好意的に受け止められると予想される
- 米連邦準備理事会(FRB):共和党が多数派を占める議会上院はトランプ氏による指名人事を無条件で承認すると予想され、それによりFRB構成メンバーに関する不透明感が増す可能性がある
- 財政赤字:一部ではトランプ氏の政策によって財政赤字が拡大すると予想しており、債券投資家は既に米国政府の支出に対する懸念を示している
上院では共和党が多数派を奪還し、下院では接戦が続く
注視すべき政策課題は移民、関税、規制緩和
注視すべき問題:債券自警団
結論
米国大統領選挙の結果が判明し、有権者はドナルド・トランプ氏にホワイトハウス復帰への切符を与えました。重要なのは、市場が最も懸念していた事態、すなわち選挙に対する(落選者からの)無効の申し立てと長期にわたる不確実性の継続を米国が何とか回避できたことです。仮にそうした事態になれば、市場は大幅な売りに見舞われる可能性が高かったと思われます。しかしそうはならず、トランプ氏の勝利が決定的となりました。市場は政策の方向性が明確であることを好み、私は短期的にはそれを材料に相場が上昇すると予想しています。
上院では共和党が多数派を奪還し、下院では接戦が続く
トランプ次期大統領は自身の政策を実現するに当たり、共和党が多数派を占める議会上院から支援されることになります。上院は大統領による指名人事を承認する「人事部」とされており、共和党が多数派を占める上院はトランプ氏による人事を無条件で承認すると予想されます。このことは、トランプ氏がFRBの人事、特にFRB議長に非伝統的な候補者を指名する可能性があることを踏まえると、FRBへの不透明感をある程度高める可能性があります。
この記事を書いている投票日翌朝の時点では、議会下院での接戦が続いています。ねじれ議会となるか共和党が両院で多数派となるかにかかわらず、株価は短期的には上昇する可能性が高いと私は考えています(ダウ工業株30種平均は選挙結果の報道を受けて3%上昇しました1)。
注視すべき政策課題は移民、関税、規制緩和
トランプ氏の政策課題の主要項目である移民、関税、そして規制緩和は一般的に立法措置を必要としないため、下院の所属党派別の構成はこれらの政策の実施には重要ではありません。トランプ氏は就任直後にこれらの政策を進めることができます。
選挙運動の期間中、トランプ氏は自らが提案した関税をすぐには適用しないと示唆していました。むしろ関税強化は脅しに過ぎず、トランプ氏は脅しをかけた後に交渉することもできます。また、関税をごく一時的にしか適用しないことも考えられます。これは、トランプ政権の1 期目で見られた状況、すなわち貿易戦争が一巡する中で相場が大きく変動し、短期的な売りが出た後に相場が回復したこととやや似通っていると思われます。(実際、関税強化が単なる脅し、または短期的なものであれば、中国製品に対して60%もの関税率が課せられると予想されても、インフレに重大な影響を与えるとは考えられません2。)
移民政策に関しては、トランプ氏は1,500万~2,000万人の不法移民の強制送還を直ちに開始すると約束しています。これが実現した場合、インフレ率が急上昇する可能性があります。労働市場は既に逼迫しており、一部の産業は人手不足に陥っているからです。しかし、インフレ率の上昇が統計データで示されるまでは(それには時間がかかる可能性があります)、FRBが金融政策の変更によってインフレに対処する可能性は低いと考えられます。賃金伸び率が上昇すれば、FRBは利下げペースを減速させる可能性があります(ブレークイーブン・インフレ率は上昇しており、このことは既にインフレ率の上昇が市場にとって懸念材料となっている可能性があることを示唆しています)。
トランプ氏は、減税・雇用法の延長と法人税の引き下げを中心とした立法措置に注力すると予想されます。このことを市場は非常に好意的に受け止めると私は予想しており、大統領選の直後に株式相場が急騰したのはそのせいだと考えています。つまり市場は減税と規制緩和を予想しています。
市場は明らかに次期トランプ政権の政策によって経済成長が加速すると考えています。このことはラッセル2000指数の値動きを見ても明らかで、同指数は11月6日の取引開始からわずか数分間で4%超上昇しました1。その一方で私は、株価を下支えするのはむしろFRBの金融緩和による経済成長の下支えだと今も考えています。(そして米連邦公開市場委員会(FOMC)の11月7日の会合で決定される内容を受けて投資家は金融政策に再び注目することになります。)ちなみに、米国の資産(特に株式)は大統領選の翌年に価格が上昇する傾向があります3。しかも米国の株式は、FRBが金融緩和を行い、それでも景気後退が回避された場合に値上がりする傾向があります4。
注視すべき問題:債券自警団
私の考えでは、新政権が直面する市場の大きな問題は債券自警団、つまり債券発行体(この場合は米国政府)の政策に抗議するために債券を売却すると脅したり債券の購入を避けたりする債券投資家になると思われます。
トランプ氏の政策は財政赤字の拡大をもたらすと予想されており、債券投資家は既に米国政府の支出に対する懸念を示しています。米国債はもはや、かつてのように「安全な避難先」として選ばれる資産クラスとはみなされなくなっており、利回りの上昇によって赤字支出はますます困難となる可能性があります。これまでのところ、利回りの上昇は主にブレークイーブン・インフレ率と関連しているように見えますが、財政状況の影響も受けています。そのため私は、投資家にとって財政赤字の拡大がますます大きな懸念事項になると考えています。
結論
まとめると、大統領選の結果に対する市場の反応は予想外に大きなものとなっています。これはおそらく、不透明感の長期化が回避され、政策綱領に減税や規制緩和を掲げる候補者が決定的勝利を収めたという「ポジティブ・サプライズ」によるものでしょう。ただし、米国株を巡る熱狂はやや行き過ぎており、2016年にまさにそうだったように短期的にはやや反落する可能性があるように見ています。欧州株や英国株の売りについても同じことが言えます。これらは行き過ぎであり、やや巻き戻す可能性があると私は考えています。
株式市場の持続的な上昇を支えるのはFRB次第となる可能性が高いと考えます。そのため、FRBに緩和サイクルを減速させたり一時的に停止させたりする可能性があるかどうかについて、FRBのジェローム・パウエル議長の発言に注目したいと思います。私の基本シナリオは引き続き、米国および他の主要国の経済成長が来年に再び加速し、それがリスク資産の下支え要因になるというものです。特にこうした環境の恩恵を受けるのは中小型株だと予想しています。
(執筆協力:ポール・ジャクソン、ブライアン・レビット)
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
- 出所:ブルームバーグL.P.、2024年11月6日
- 出所:PBS “トランプは巨大な関税を支持。その効果は? 2024年9月27日付
- 出所:ICE BofA、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス、LSEGデータストリーム、インベスコ・グローバル・マーケット・ストラテジー・オフィス、1987年10月31日~2024年10月31日
- 出所:米国連邦準備制度経済データベース(FRED)、ブルームバーグL.P.、2024年8月31日 過去16回の金融緩和サイクル(1970年、1971年、1973年、1974年、1975年、1980年、1981年[この年のサイクルは2回]、1982年、1984年、1989年、1995年、1998年、2001年、2007年、2019年)が始まる前の12カ月間と始まった後の12カ月間のS&P500種指数構成企業のパフォーマンスの平均値に基づく。
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MC2024-137
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