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FRBは景気後退を回避するために金融政策を再調整


FRBは米国経済の安定維持を目的に、政策金利を50ベーシスポイント引き下げました。これにより、世界的な金融緩和の流れを促進していますが、市場の不確実性は依然として高い状態が続く見込みです。FRBは今後も大幅な金融緩和を予定しており、その目的は景気後退を回避することです。この通貨政策変更は、1990年代の状況と類似しており、当時も景気後退を回避することが成功していました。市場の反応や経済動向には依然リスクがありますが、FRBの決定が景気に与える影響の観察が続きます。

※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。

〔要旨〕

  • 「予防的」利下げ:FRBは先週、米国経済を良好な状態に保ち、政策対応が後手に回ることのないよう、政策金利を50ベーシス・ポイント引き下げ
  • グローバルな視点:FRBの利下げ開始は、世界の多くの地域で始まっている金融政策の緩和的な環境を促進するという点で極めて重要
  • 不確実性は山積:ただし、緩和的な金融政策をよそに、市場は今後数ヵ月にわたって不確実性が高い環境が続く

英中銀と日銀は政策据え置き

FRBは米国の景気後退を回避できるか?

1990年代の教訓

現在との比較

市場は不確実性の海に直面

まず、私の予想が間違っていたことを認めます。7月に利下げの機会を見送ったFRBが、9月に大幅利下げを実施することはないと確信していました。しかし残念ながら、私たち米国人は、私の想定以上に大きなサイズを好みます。50ベーシス・ポイントの大幅利下げは、近年では「危機対応の利下げ」(2001年、2007年、2020年)として用いられているにもかかわらず、FRBは先週の米連邦公開市場委員会(FOMC)で「予防的」利下げとして50ベーシス・ポイントの利下げを選択しました。その狙いは、米国経済を良好な状態に保ち、政策対応の遅れや景気後退入りを回避することにあります。

さらに、FRBが公表した「ドット・チャート」では、今後大幅な金融緩和が予定されていることが明らかになりました。年末時点の政策金利予想の中央値は、2024年が(5.1%から)4.4%に、2025年が(4.1%から)3.4%に、2026年が(3.1%から)2.9%に下方修正され、2027年はこの水準で据え置かれると予想されています1

パウエルFRB議長の記者会見から私が得た重要なポイントは以下の通りです:

•パウエル議長は、FRBは利下げが後手に回っているとは考えていないと明言しましたが、50ベーシス・ポイントの利下げは後手に回らないというFRBの決意の表れと解釈できます。

•パウエル議長は、労働市場は依然として非常に堅調であり、失業率は過去に比べて低いと述べ、米国経済への安心感を示しました。ただ、雇用の下振れリスクが増していることも認めています。また、FRBが政策判断を下す上で失業率は最も重要な指標だと述べました。労働市場の軟化が今回の利下げの決め手になったことは明らかなようです。

•今回の政策判断が米国の消費者に送るメッセージはどのようなものかを問われたパウエル議長は、米国経済は良好な状態にあり、FRBはそれを維持しようとしていると答えました。

•住宅インフレの根強さについて質問を受けたパウエル議長は、熟考し、住宅市場は構造的な不均衡を含む数々の固有要因に影響されていると回答しました。そうした理由から住宅インフレが収まるには時間がかかるかもしれないが、いずれ正常化すると確信していると述べました。

•パウエル議長は、インフレ率がFRBの目標に達するとの自信を改めて表明し、これまでの忍耐強さが実を結んだと語りました。

•パウエル議長は、今回の政策判断は危機対応の利下げではなく、かなり引き締め的な水準からの金融政策の正常化だと説明しました。

•パウエル議長は記者会見を通じ、一貫して米国経済に対する前向きな見方と、経済の好調を維持したいという考えを繰り返しました。「政策の再調整」という言葉を何度も口にしました。FRBは「良い結果」を出すことに尽力していると強調しました。

パウエル議長の最新キーワードは「再調整」です。これはFRBの発言において「データ次第」やその前の「一時的」に置き換わる表現です。金融政策には状況の変化を反映するための変更が必要だと認めた形です。それはどのような状況なのでしょうか。FRBのクリス・ウォーラー理事は、それはディスインフレ(インフレの鈍化)の進展だと述べ、安心感をもたらそうとしました。米個人消費支出(PCE)物価指数は「私の想定よりもはるかに速いペースで軟化」しており、「50ベーシス・ポイントの利下げ幅が正しいと判断した」と語りました2。ただ、特にパウエル議長がFRBの決定を説明する際に労働市場の健全性を維持することへの懸念を示唆したことから、市場は完全には納得していないようです。

英中銀と日銀は政策据え置き

FRBが大幅利下げで緩和サイクルを始動した一方で、イングランド銀行(英中央銀行)は8月に通常の利下げ幅で緩和サイクルを開始した後、先週の金融政策委員会では政策金利の据え置きを決定しました。

日本銀行も先週の金融政策決定会合で政策金利を据え置きました。8月の金融市場の混乱を受け、追加利上げを見送った形です。日銀の植田和男総裁は「海外経済の先行きは極めて不透明で、市場は引き続き不安定だ。当面はこうした動向を丁寧に確認していく必要がある」として、利上げを休止する必要性を説明しました3

先週はノルウェー中央銀行が緩和サイクルの開始を先送りすると決定した一方、ブラジル中央銀行は経済の過熱を懸念して利上げに踏み切りました。

ここからはどこに向かうのでしょうか?

西側先進国の大半は、金融緩和に着手しているか、近く開始する見通しです。FRBの緩和開始は、世界の多くの地域で始まっている金融政策の緩和的な環境を促進するという点で極めて重要です。これにより、一般的にリスク資産のサポート材料となる緩和的な金融環境が生まれます。ただし、今後数ヵ月間の資産クラスのパフォーマンスは、米国や他の主要国が景気後退を回避し、経済を再加速させられると市場が判断するかどうかに左右される可能性が高いでしょう。

FRBは米国の景気後退を回避できるか?

景気後退を巡ってはもっともな懸念があります。金融政策はしばらくの間、かなり引き締め的な状況にありました。景気の動向で株価が変化しやすい景気敏感株の一つ、米物流大手フェデックスは最近、業績見通しを下方修正しました。S&Pグローバルが発表した米購買担当者景気指数(PMI)は、製造業部門の縮小がさらに進んだことを示しています。

それでも、私は米国が景気後退を回避すると信じる一人です。シティグループが算出する米エコノミックサプライズ指数は、依然としてマイナス圏にあるものの、8月下旬から大幅に上昇しています。また、クレジット・スプレッドを見ると、景気後退は近づいていないことがうかがえます。ICE・バンク・オブ・アメリカUSハイイールド指数のオプション調整後スプレッドは、8月5日に直近のピークである3.93%に達しました4。9月10日以降、スプレッドは大幅に低下し、9月19日に3.1%まで下がっています5。過去と比較しても非常に低い水準です。このことは、FRBの政策対応がそれほど後手に回ってはいないこと、そして50ベーシス・ポイントの利下げによって米国が景気後退を回避できるという確信が高まったことを物語っています6。また、S&Pグローバル米サービス業PMIは堅調な水準を維持しています

1990年代の教訓

今後どのような展開が考えられるかのケーススタディとして、私は以前に1995~1996年のプレーブック(戦略集)について書きましたが、非常に参考になると思いますのでもう一度ご紹介します。というのも、当時はFRBが金融引き締めを打ち止めにし、景気後退の回避に成功したからです。以下の通りです:

株価が上昇:FRBによる金融緩和開始後の6カ間でS&P500種指数は11.32%上昇しました7

大型株がアウトパフォーム:時価総額の観点からは、この6ヵ月間では大型株に対して小型株がややアンダーパフォームしました。具体的には、ラッセル1000インデックスのリターンが11.46%だったのに対し、ラッセル2000インデックスの上昇率は9.05%にとどまりました7

バリュー株がアウトパフォーム:投資スタイルの観点からは、この6ヵ月間ではバリュー株がグロース株をややアウトパフォームしました。具体的には、ラッセル3000バリュー株インデックスが12.0%上昇したのに対し、ラッセル3000グロース株インデックスの上昇率は10.48%にとどまりました7。こうした傾向は大型株でも同様で、その6ヵ月間でラッセル1000バリュー株インデックスの価格リターンが12.31%上昇したのに対し、ラッセル1000グロース株インデックスの上昇率は10.66%にとどまりました7

最も良好なセクターはヘルスケア:セクター別パフォーマンスを見ると、この6ヵ月間で最も良好なパフォーマンスとなったS&P500のセクターはヘルスケアで、この期間のリターンは26.06%となりました7。エネルギー、資本財・サービス、金融、公益事業、および生活必需品など多くのセクターのこの期間におけるリターンはいずれも2桁を記録しましたが、一般消費財・サービスの上昇率は2.91%と低調で、素材はほぼ横ばいとなりました7

米国以外の株式はアンダーパフォーム:欧州株式と英国株式はいずれも堅調に上昇したものの米国株をややアンダーパフォームしました。この6ヵ月間の上昇率はストックス欧州600指数が10.05%、英国FTSE100種指数が9.33%でした7。一方、新興国株式のパフォーマンスは相対的に低調で、同じ期間に小幅に下落しましたが、これはメキシコ通貨危機など各国固有のいくつかの問題によるものです。

債券価格は上昇:FRBが金融緩和を開始した後の6ヵ月間の上昇率は、ブルームバーグ米国総合債券指数が5.28%、ブルームバーグ総合ハイ・イールド指数が6.02%でした7

不動産のパフォーマンスは良好:FTSE NAREITインデックスのこの6ヵ月間における上昇率は6.89%でした7

米ドルが上昇:FRBが利下げを開始した1995年夏に米ドル指数は上昇し始めました。このドル高は意外に思えるかもしれませんが、メキシコ通貨危機によって引き起こされた同年初めの大幅なドル安を受けたものです。1995年後半に始まったドル高は、メキシコ通貨危機が解消され始めた後の正常化を反映したものだと思われます。

金は小幅な上昇を記録:金のスポット価格は、FRBが金融緩和を開始した後の6ヵ月間で2.88%上昇し、その後の6ヵ月間で3.5%以上下落しました7

現在との比較

私の結論は、1995年当時の経済状況は今とは異なっていたということです。失業率は現在に比べて高く、消費は堅調さに欠けていました。そのため、FRBの直近の金融引き締めサイクルはより積極的(利上げ幅は1994~1995年の300ベーシス・ポイントに対し、2022~2023年は525ベーシス・ポイント)でしたが、足元の経済は圧力に耐える能力が高まっています。また、利下げ予想も今日は大きく異なっており、2025年末にかけて150ベーシス・ポイントの利下げが予想されています8。シカゴ連銀のオースタン・グールズビー総裁は、向こう1年間に「より大幅な利下げ」を予想していると述べましたが、この発言からすると、利下げ幅は予想よりはるかに大きくなる可能性もあります。そうなれば、今後数ヵ月間でリスク資産にもたらされる押し上げ効果は、FRBが1995年7月から1996年1月にかけて実施した計75ベーシス・ポイントの控えめな利下げよりも、はるかに大きくなる可能性が高いでしょう。

私はカナダと英国、ユーロ圏も景気後退を回避すると予想しています。すべてのデータが好調というわけではありませんが、実質賃金の伸びと金融緩和は、減速しつつある経済を近く再加速させるのに役立つと考えています。また、ユーロ圏はこのところ減速しているものの、ICEバンク・オブ・アメリカ・ユーロ・ハイイールド・インデックスのオプション調整後スプレッドは比較的低い水準にあり、景気後退を回避する可能性を示唆しています。データで確認できる限り、これらの経済はそれぞれの状況に応じて必要としている政策の処方箋を手に入れています。

市場は不確実性の海に直面

ただ、緩和的な金融政策をよそに、市場は今後数ヵ月にわたって市場の不確実性が続くでしょう。11月5日には米大統領選が控えており、12月には米政府機関の閉鎖が起きる可能性が非常に現実味を帯びています。英国は10月に公表される予算案に神経をとがらせており、労働党の新政権は財政状況が予想以上に厳しいと警鐘を鳴らしています(事実、調査会社GfKが公表する英消費者信頼感指数は8月と7月のマイナス13から9月にマイナス20へと大幅低下し、6カ月ぶりの最低を記録しました。低下をけん引した要因は予算案とみられます9)。ユーロ圏やカナダでも政治的な不確実性が高まっています。日本にも新しいリーダーの選出が迫っていることを忘れてはなりません。一方、先週紛争が激化した中東は、本格的な戦争へと突き進んでいます。同時に、ロシア・ウクライナでも紛争激化がみられます。中央銀行がいつ、どの程度の利下げを行うかという不確実性も加わって、今後数ヵ月間はボラティリティの高まりが見込まれます。

ですから、今こそこれまで以上に分散投資をすべきだと私は考えています。確かに、株式市場は好調に推移する可能性が高いと思われますが、短期的に予測不可能な要素をすべて考慮すると、ボラティリティーの大幅な上昇が予想されます。そこで、私は投資適格債やハイ・イールド債、地方債など、堅調な景気動向や金利低下環境に恩恵を受ける可能性のあるさまざまな債券のサブ資産クラスを選好します。また、伝統的な株式や債券との相関性が低く分散投資のメリットをもたらすことができるオルタナティブ(代替)資産も選好します。不動産などもインカムの恩恵を受けられることに加え、金利低下を背景に価格上昇が見込まれます。金は地政学リスクや、ますます逼迫している政府予算に対するヘッジとして機能します。今後数ヵ月間に備えるにあたって最善のアプローチは、冷静さを保ち、分散投資を継続し、適正価格から乖離した資産への投資の機会を探ることかもしれません。

  • 1.出所:米連邦準備理事会(FRB)、2024年9月18日
  • 2.出所:ロイター「US inflation data cemented big cut for one Fed official, dissent for another」、2024年9月20日
  • 3.出所:ロイター「BOJ Governor Ueda’s comments at news conference」、2024年9月20日
  • 4.出所:ブルームバーグ、2024年9月23日
  • 5.出所:ブルームバーグ、2024年9月23日
  • 6.出所:セントルイス連銀調査部、2024年9月20日
  • 7.出所:ブルームバーグ、2024年9月23日。データはFRBが利下げを開始した日から最初の6ヵ月間にあたる1995年7月6日から1996年1月5日までのパフォーマンスを示しています。
  • 8.出所:FRB経済予測サマリー、2024年9月18日
  • 9.出所:ブルームバーグ、2024年9月23日

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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MC2024-118

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