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準結晶分野のデータ駆動型研究を促進する基盤データベース ―HYPOD-X―を公開


統計数理研究所、東京理科大学、物質・材料研究機構などの共同研究グループは、準結晶および近似結晶に関する大規模データベース「HYPOD-X」を公開しました。準結晶は非周期的な原子配置を持ち、特異な物理特性を示しますが、これまで包括的なデータベースが存在せず、機械学習を利用した研究が制約されていました。HYPOD-Xは論文や書籍から抽出した組成、構造、物理特性を構造化して提供し、データ駆動型研究の基盤を整備します。これにより、新材料開発や、準結晶の特性に基づく熱管理デバイスの創出が期待されます。今後もデータベースを拡張し、準結晶分野での研究進展を促進します。

2024/11/14

統計数理研究所、東京理科大学、物質・材料研究機構などの共同研究グループは、準結晶およびその関連物質である近似結晶に関する大規模データベース「HYPOD-X」を公開しました。準結晶は、非周期的な原子配置を持ちながら秩序のある構造を持ち、従来の結晶とは異なる特異な物理特性を有します。HYPOD-Xは、膨大な数の文献を網羅的に調査し、これまでの準結晶研究に関するデータを一元的にデジタル化した初めてのデータベースです。本データベースは準結晶分野におけるデータ駆動型研究を促進する学術基盤として活用されます。

研究の背景
 準結晶は、通常の結晶とは異なり、非周期的な規則性を持つ特異な物質です。近似結晶は準結晶と類似の組成・構造的特徴を持つ周期系物質であり、準結晶の前駆体物質と考えられています。これらの物質は、電気伝導や熱伝導の温度依存性が一般的な金属と逆のパターンを示すなど、通常の結晶とは異なる特性を示します。近年、物質科学の様々な分野において、機械学習を活用したデータ駆動型研究に注目が集まっています。しかしながら、準結晶分野では包括的なデータベースが未整備であったため、機械学習の導入が妨げられてきました。また、準結晶の構造と物性の関係を俯瞰的に理解し、新材料の創出を促進するためにも、体系的かつ包括的なオープンデータベースの整備が求められています。

研究内容(成果)
 同グループは、準結晶および近似結晶に関する世界初の大規模データベース「HYPOD-X (Hypermaterials Open Database for X, Xは機械学習などの活用対象を表すワイルドカード)」を開発しました。HYPOD-Xは、論文や書籍のテキストや図表から抽出された準結晶および近似結晶の組成、構造、物理特性に関するデータを構造化し、研究者やエンジニアが利用しやすい形でデータを提供しています。これにより、データ駆動型アプローチの基盤が整備され、準結晶研究のさらなる進展が期待されます。
図1に示すように、HYPOD-Xは組成データセット、相図データセット、物性データセットの三つのデータセットから構成されています。手動または半自動で抽出されたデータは、専門家による厳格な検証を経てCSV形式で配布されています。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202411149945-O2-9Fzthc57

図1:HYPOD-Xを構成する三つのデータセットとデータ収集手順

 
 組成データセットは、準結晶と近似結晶に関する最も基本的な情報です。組成、構造分類、熱処理条件を含むデータは、専門家による厳密な検証を経てデータベースに登録されます。また、エラーデータの自動抽出アルゴリズムを適用することで、データの品質を向上させています。データの量は、準結晶の組成を整理した先行研究[1]の約10倍に上ります。さらに、同グループはこのデータセットを用いた機械学習により、新しい準結晶の発見に成功しています[2]。
 物性データセットには、論文や書籍の図表から抽出した熱物性や電気物性、磁気物性などの温度依存性曲線が含まれています。このデータを俯瞰することで、準結晶の専門家でも見過ごしていた新たな法則が発見されることが期待されます。例えば、準結晶では高温になるほど熱伝導率が上昇する傾向があります。これは通常の金属や結晶では見られない特性です。この特性を利用することで、熱の流れを特定の方向に制御する熱整流材料の開発が可能になります。膨大なデータから最適な温度依存性を示す準結晶を同定することで、新しい熱管理デバイスの開発を加速できます。
 相図データセットには、論文や書籍の図を数値化したデータが含まれています。このデータは準結晶や近似結晶が熱力学的に安定化する組成範囲やその他の条件を示しています。このデータに機械学習を適用することで、準結晶や近似結晶の新たな物質相を予測することが可能になります。

今後の展望
 HYPOD-Xは、準結晶分野においてこれまでにない規模のデータベースです。同グループは今後もデータベースを継続的に拡張していく予定です。現在、物質科学や材料科学の様々な分野でデータ駆動型研究の基盤整備が進められています。一方、準結晶分野には包括的なオープンデータが存在しなかったため、データ駆動型研究の発展が制約されていました。今回のオープンデータベースの整備により、今後は様々なデータ駆動型研究が展開されることが期待されます。また、大量のデータを俯瞰することで、準結晶研究に新たな視点や科学的法則をもたらすことが期待されます。

発表論文
タイトル: Comprehensive experimental datasets of quasicrystals and their approximants
著者: Erina Fujita1,2, Chang Liu1, Asuka Ishikawa3, Tomoya Mato2, Koichi Kitahara4, Ryuji Tamura3, Kaoru Kimura1,2, Ryo Yoshida1,2,5, Yukari Katsura2,6,7
掲載誌: Scientific Data
DOI: 10.1038/s41597-024-04043-z
掲載日: 2024年11月13日

1. 統計数理研究所, 2. 物質・材料研究機構, 3. 東京理科大学, 4. 防衛大学校, 5.総合研究大学院大学, 6. 筑波大学, 7. 理化学研究所

参考文献
[1] W. Steurer and S. Deloudi, Crystallography of Quasicrystals, Springer Series in Materials Science 126 (Springer, Berlin, Heidelberg, 2009).
[2] C. Liu, K. Kitahara, A. Ishikawa, T. Hiroto, A. Singh, E. Fujita, Y. Katsura, Y. Inada, R. Tamura, K. Kimura, and R. Yoshida, Phys. Rev. Materials 7, 093805 (2023).

謝辞
本研究は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「ハイパーマテリアル:補空間が創る新物質科学」(19H05817, 19H05818, 19H05820)、JST-CREST未踏物質探索領域「フェイゾンエンジニアリング:構造タイル組み換えに基づく新物質創製」(JPMJCR22O3)の助成を受けました。

 

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