世界28カ国の中堅企業の経営幹部における女性登用率
太陽グラントソントン https://www.grantthornton.jp/
太陽グラントソントンは、2022年10月~12月に実施した非上場企業を中心とする中堅企業経営者の意識調査の結果を公表した。この調査は、グラントソントン加盟主要28カ国に対して実施する世界同時調査の一環である。
・経営幹部における女性比率は調査対象国平均で横ばいの32%、この10年でわずか8ポイントしか改善せず
・経営幹部に女性が一人も在籍しない中堅企業の割合は、調査対象国平均で1割未満
・日本は引き続き世界最低水準を記録、他国から大きく引き離される
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303093743-O5-5f0gFoRp】
世界28カ国の中堅企業経営者に「自社の経営幹部(※1)の女性登用率」について尋ねたところ、全調査対象国の平均は32%となった。
全体的に、調査対象国の中堅企業の経営幹部の女性登用率は毎年改善がみられるものの、今回の調査対象国平均は前年の調査結果(2022年3月発表)から横ばいとなり、この10年ではわずか8ポイントしか改善していないことが明らかとなった。
本調査結果から、グラントソントンでは、働き方の柔軟性が女性経営幹部の増加に大きな影響を与えるとし、女性の上級管理職への就任を支援するための意図的な施策を講じなければ、2025年の全調査対象国の平均は微増の34%と試算している。また、世界経済フォーラム(WEF)のグローバル・ジェンダーギャップ・レポートでは、ジェンダーパリティの実現には、さらに132年かかると予測されている。(※2)
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303093743-O4-6Lv0voJ4】
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※1 本質問の経営幹部には以下が含まれます。最高経営責任者(CEO)/代表取締役社長・会長・その他会社代表者、最高業務責任者(COO)、最高財務責任者(CFO)/財務担当取締役、最高情報責任者(CIO)、取締役人事部長、最高マーケティング責任者(CMO)、取締役経営企画部長、財務部長、経理部長、取締役営業部長、パートナー、共同出資者、共同経営者等。
※2 It will take another 132 years to close the global gender gap https://www.weforum.org/reports/global-gender-gap-report-2022/#:~:text=Gender%20parity%20is%20not%20recovering,gender%20parity%20backsliding%20further%20intensifies.
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今回の調査結果について国別に見ると、経営幹部の女性登用率が最も高かったのはシンガポールであった。その割合はおよそ半分の49%に達し、前回調査比で15ポイント増の飛躍的な伸びをみせた。トップのシンガポールに続き、フィリピン(49%、前回調査比10ポイント増)、南アフリカ(41%、前回調査比1ポイント減)、マレーシア(40%、前回調査比横ばい)アイルランド(40%、前回調査比10ポイント増)が並び、上位5カ国はすべて40%の大台にのった。
対して、日本の中堅企業における経営幹部の女性比率は調査対象国中最下位に留まり(16%、前回調査比1ポイント増)、各国との差が如実に表れた。 (表1・2・6)
経営幹部に一人も女性を登用していない中堅企業日本が突出してワースト1位に
経営幹部に一人も女性を登用していない中堅企業の割合は、日本が40%で引き続きワースト1位となった。前回調査から8ポイント減と改善したものの、大半の国の比率が1桁%台を記録するなか、日本の結果は突出しており、ここでも他国との差が顕著にみられた。
調査対象国平均は、前回よりわずかに改善し9%となり、初の一桁台に到達した(前回調査比1ポイント減)。地域別や経済圏ごとにみても、アジア太平洋地域(11%、前回調査比3ポイント減)やEU加盟国平均(11%、前回調査比3ポイント減)など含め、概ね改善傾向にあった。
減少幅が大きかった国では、オーストラリア(5%、前回調査比12ポイント減)、ギリシャ(11%、前回調査比11ポイント減)、ドイツ(9%、前回調査比7ポイント減)、メキシコ(8%、前回調査比7ポイント減)が並んだ。(表3)
【表3】経営幹部に一人も女性を登用していない中堅企業の比率(%)
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303093743-O6-6p09v4Q8】
従業員のエンゲージメントとインクルージョンの維持に向けた施策
過去12カ月の間に従業員のエンゲージメントとインクルージョンを維持するために講じた施策について尋ねたところ、多くの中堅企業が、あらゆる施策を通じてより多くの女性が上級管理職に就任できるように後継者育成に注力していることがわかった。調査対象国平均および日本、中国、米国、英国の4カ国で最も多かった施策は、「従業員のワークライフバランスや柔軟性の促進」であった。(表4)
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303093743-O12-2QKQl0xu】
女性の上級管理職の内訳
実際に女性が就く上級管理職の内訳を尋ねたところ、調査対象国平均および日本、米国、英国の3カ国で取締役人事部長が最も多かった。
日本では、取締役人事部長に次いで多かった役職は取締役営業部長であり、その割合は前回調査比で10ポイント増加の23%であった。また、上級管理職のうち、最高経営責任者(CEO)*の女性比率は引き続き増加傾向にあることが分かった。調査対象国平均では前回調査比で7ポイント増加し31%となり、米国においては10ポイント増加し42%となった。(表5)
この継続的な傾向は、より多くの企業が上級管理職の多様性を高め、ジェンダーパリティ実現に向けた、新しいダイバーシティ戦略につながると考えられる。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303093743-O2-1q5ZKuBE】
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三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 執行役員 主席研究員 矢島洋子 氏からのコメント
アジアの中でも大きく後れをとる日本
今年度の調査結果から読み取れることとして、第一に挙げられるのは 調査対象国の女性経営幹部層の平均が前年比でほぼ横ばいに留まったことである。昨年の調査では、多くの国で、新型コロナウイルス感染拡大に伴って生まれた新しい働き方が女性のキャリアにおいてプラスの影響をもたらすことが期待されていたが、今年の経営幹部の女性比率を見る限り、短期的には、期待されたような成果は出ていないようだ。一方で、昨年の調査で初めて30%台となったアジア太平洋地域のいくつかの国で、飛躍的に経営幹部の女性比率が増加し、調査対象国のトップにシンガポールが、2位にフィリピンが浮上する結果となった。
日本については、すでに紹介されている通り、調査対象国中最下位を継続しており、進展するアジア諸国の中でも、他国から大きく引き離されている状況だ。今年のレポートでは、この1年で飛躍的に幹部比率を上げたシンガポール、フィリピンと日本の、取組みや方針の違いなどを紹介する。また、これまで日本に近い水準で推移していたものの、近年日本を引き離す兆しを見せる韓国についても取り上げる。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303093743-O13-5yh9W4p6】
図表Aにあるとおり、シンガポールとフィリピンは、昨年の30%台から大きく進展し、2023年には40%台後半で、ほぼ「パリティ」に到達しようとしている。韓国は、20%台で前年からの伸びは、2ポイントに留まっているが、日本との差はじわじわと開いてきている。日本は16%だが、これでも、調査に協力した企業は、日本の中堅企業の中では、先進的な企業といえる(本調査の「経営幹部」は、ほぼ「部長相当職以上(役員を含む)」という定義であり、日本の従業員規模100人~1000人企業の平均は、さらに低い水準であるため)。
では、シンガポールとフィリピンは、昨年から今年にかけてどのような取組みをおこなったのか。調査では、「過去12カ月の間に従業員のエンゲージメントとインクルージョンを維持するために講じた施策」を訊いている。回答をみると、フィリピンの企業が、多くの取組みを実施していることがわかる。フィリピンは、雇用者に占める女性の割合が高いことで知られ、課長相当の管理職割合では、すでにパリティに到達しているとみられていた。そうした水準にあったことを前提として、経営幹部層を増加する上においては、ここに示されたような取組みが有効だということであろうか。シンガポールは、全般に、日本よりは実施率が高いが、調査対象国平均と同程度の割合である。シンガポールは、もともと、複数の公用語を有する多言語国家であり、多くの外国人材を迎え入れる環境整備に早くから取り組んできたとみられることから、ここで示されたような取組みとは異なるアプローチを行っているのかもしれない。あるいは、これまで取り組んできた多様な人材を受け入れる制度の整備や風土醸成が、近年の新しい働き方と相まって、急速に成果をあげている可能性もある。韓国も、調査対象国平均と同程度の割合で実施している施策が多い。
日本については、実施割合が高い施策もあるが、「特に対策は取っていない」との回答割合が、突出して高い。ただし、本調査のグローバルレポートでは、ここで上げられている「エンゲージメントとインクルージョンに資する施策」についても、すべてが女性の経営幹部の増加につながるとは限らず、慎重な監視と評価が必要であることを指摘している。施策の中でも「従業員個々の働き方に応じた取り組み」は、最高レベルの経営幹部の女性比率と相関しているとされる。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303093743-O1-MSxN78l9】
冒頭で紹介した新しい働き方については、今回の調査で、オフィスや店舗、顧客先などの「オンサイト」と在宅勤務を含む「リモートワーク」の組み合わせで4タイプに分けて訊いている。シンガポールとフィリピン、調査対象国平均では、「オンサイトとリモートワークのハイブリッドモデル」が5割を超えている。フィリピンでは、「在宅勤務が中心」や「完全にフレキシブルなワークモデル」の割合も高い。一方、韓国や日本は「オフィス勤務が中心」の割合が高く、特に、韓国は日本よりも高い状況にある。ちなみに、「ハイブリッドモデル」の割合は、英国で60%、米国で59%である。
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本調査のグローバルレポートでは、働き方の柔軟性が女性経営幹部の増加に大きな影響を与えるとし、調査対象企業において、「ハイブリッドモデル」や「完全なフレキシブルワーク」を採用している企業で「経営幹部の女性比率」が高くなっていることを指摘している。「オフィス中心」の働き方を採る企業では、経営幹部の女性比率は低い。また、こうした働き方の柔軟性は、女性幹部の増加に寄与するのみならず、国境を越えた労働移動や障がい者の就労へのアクセスを改善する可能性がある。一方、同グローバルレポートでは、柔軟な働き方への移行は、適切に行われなければ、女性の就労に悪影響を及ぼす可能性があることも指摘する。すなわち、在宅勤務により、女性が家事やケア(育児・介護)の役割をより多く引き受けることになる可能性があるという問題である。また、柔軟な環境で働く男性は、女性よりも女性のキャリアアップに対するリスクを高く認識している。こうしたアンコンシャス・バイアスによって、柔軟な環境で働く上司が、女性の部下について、過度に低い評価をしてしまう懸念もある。さらに、男女問わず、在宅勤務では、職場で行われてきた社員間の関係構築の機会が失われている可能性についても指摘している。
グローバルレポートでは、リモートワークには、まだ課題があるものの、一部の企業で、「オンサイト」に戻ることを呼び掛ける動きがあることについての懸念も示されている。柔軟な働き方が女性のキャリア形成において重要であること、その柔軟な働き方は、女性にのみ提供されるのではなく、男性にも同様に活用できるものであることが重要であることなどから、リモートワークの課題に対処しつつ、継続的に、ハイブリッドを含むフレキシブルな働き方の推進が期待される。日本においても、テレワークの利用停止を決める企業も出てきているが、日本の場合は、さらに問題が大きい。なぜなら、未だテレワーク利用環境が十分に整っていない企業が多いためである。テレワークが十分利用できる環境を整えた上で、ハイブリッドやオンサイト中心の働き方を推奨するのであればまだしも、ペーパレス化や契約・決済のオンライン化、評価やマネジメントルールの見直し等の対応ができていない状況で、コロナ禍以前の働き方に戻すことになれば、世界各国との差はさらに広がることであろう。
今回の調査では、「現在のワークモデルが、女性の機会均等の確保に役立つと思うか」という設問もある。日本、韓国は「強く同意する」の割合が低く、「どちらともいえない」の割合が高い。ワークモデルが機会均等や女性の幹部育成・登用に影響していることについて、確信が持てないことが、テレワークを含む柔軟な働き方推進においても、女性経営幹部育成・登用においても、必要な施策を講じることができていない原因かもしれない。
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今回の調査では、リーダーの後継者育成プログラムの重要性にも着目しており、パイプライン構築に役立つと考えられる施策についても回答を得ている。シンガポールは、従来のやり方から大きく変えるというよりも「国際的な人材」の採用を拡大することで、ダイバーシティ&インクルージョンを加速させようとしているように見える。フィリピンは、ここでも多くの施策の必要性を認識しており、特に「リーダーとしての役割の明確化と機会均等を図る」の回答割合が高い。この選択肢への回答は、韓国も日本も高いが、日本は「いずれも該当しない」との回答が2割に達し、際立って高い。今後、他国が取り組むと考えられる施策についても、関心の低さがうかがわれる。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303093743-O8-YmV40hc1】
日本における施策~男女の賃金格差の開示
日本では、2022年の女性活躍推進法の改正により、常時雇用する労働者が301人以上企業には、「男女の賃金の差異」の公表が義務付けられた。男女の賃金の差異は、これまで同法で公表が義務付けられていた「採用」「就業継続」「管理職」「労働時間」といった数値からでは見えてこなかった、雇用管理区分による業務配分や育成・登用・評価の差や、長時間労働や転勤を含む異動の影響、短時間勤務など制約社員の育成・登用・評価の問題、より上級で処遇の高い管理職ポストに女性が就けているかといった問題などが見えてくる。男女の賃金の差異について、確認・分析することの重要性も、まだ経営層や人事担当者に十分伝わっているとは言い難い。日本の大企業からは「女性活躍の施策はもう十分ではないか」との声も聞こえてくる。しかし、今回グラントソントンの国際比較調査であきらかになったように、日本は施策についても、結果としての女性幹部比率についても、他国との差がさらに開く状況にあり、近隣のアジア諸国からも、大きく引き離されつつある状況だ。こうした問題に真摯に向き合い、2023年は、男女の賃金の差異の確認・分析をしっかりと行った上で、開示していくことが求められる。大企業からの取組みではあるが、中小企業にも、ぜひ取り組んでいただきたい。賃金の差異は、業界による差も大きく、また、短期間に縮められるというものでもない。他社との比較ではなく、自社で確認をした上で、なぜそうした差が生まれているかという社内の「構造」に着目し(図表F参照)、しっかりと課題を「ストーリー」として提示することが必要だ。その上で、計画的に施策を実施し、効果を検証しながら、各社がそれぞれ一歩ずつ前進することが期待される。
【図表F】男女の賃金の差異の構造図
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303093743-O10-5bKEYYNf】
<参考資料>
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202303093743-O9-fp4PWCn4】
以上
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