男女の消化器外科医による手術成績は同等

―女性消化器外科医のさらなる活躍に向けて―
2022年9月29日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
男女の消化器外科医による手術成績は同等 ―女性消化器外科医のさらなる活躍に向けて―
概要
 京都大学大学院医学研究科の大越香江 客員研究員、藤田悠介 同医員、肥田侯矢 同講師、東京大学大学院医学系研究科の野村幸世 准教授、大阪医科薬科大学の河野恵美子 助教、岐阜大学の吉田和弘 教授(研究当時、現:岐阜大学学長)、日本消化器外科学会の北川雄光 理事長らの共同研究グループは、日本消化器外科学会による日本最大の手術データベースNational Clinical Database(NCD)を利活用した研究において、男女の消化器外科医が執刀した手術の短期成績を解析しました。日本の消化器外科医における女性の割合は6%程度と少ないですが(2016年当時)、年々増加傾向にあります。しかし、指導的立場の女性消化器外科医は未だ少ないのが現状です。そこで、男女の消化器外科医による手術成績に差があるのか、女性が外科医として十分活躍できる存在であるのかを調査することを目的として、この研究を行いました。
 研究の結果、女性消化器外科医は全体として男性よりも医籍登録後の年数が短く、腹腔鏡手術執刀の割合が少ないものの、よりリスクの高い患者を手術していたことが分かりました。また、病院の規模や患者の背景を調整して比較した合併症や死亡率の調整リスクには、男女間で有意差はありませんでした。つまり、女性消化器外科医の手術短期成績は男性消化器外科医と同等であると言えます。今後、女性医師がさらに消化器外科領域で研鑽を積んで活躍するために、男女外科医に均等な教育の機会を提供するとともに、より多くの女性外科医を育成するための環境づくりが期待されます。
 本研究成果は2022年9月28日(現地時刻)にイギリスの国際学術誌「The BMJ」にオンライン掲載されました。 
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https://kyodonewsprwire.jp/img/202209216889-O1-HK17wEGf
1.背景
 日本の消化器外科医における女性の割合は6%程度と少なく(医師・歯科医師・薬剤師調査:2016年当時※1)、指導的立場の女性外科医はさらに少ないのが現状であり、女性が十分に活躍できているとは言えません。それに比べて、カナダ、アメリカ、イギリスの一般外科医に占める女性の割合はそれぞれ、27.9%、22.0%、32.5%(カナダ医師会、アメリカ医科大学協会:いずれも2019年※2,3、イギリス国民保健サービス(NHS):2017年※4)であり、さらに、アメリカやカナダでの先行研究では、女性医師や外科医の治療成績は男性医師と同等かそれ以上であることが示されています。
 このように、日本では女性外科医の割合が少なく、他国と比べて女性外科医が働くための環境が整っていないと考えられてきました。またこれまで、男女の消化器外科医による手術成績に差がないことを示したうえで、女性が外科医として十分活躍可能なことを明らかにする研究も行われてきませんでした。そこで、女性の消化器外科領域への参画を促進したいという考えのもと、日本最大の手術データベースであるNational Clinical Database (NCD)を活用し、男女の消化器外科医による執刀数や術後合併症などを比較する研究を計画しました。
 なお、我々はこれまでにNCDを使用して、女性消化器外科医一人当たりの手術執刀数が男性消化器外科医よりも少ないことを明らかにしています。(Kono E, Isozumi U, Nomura S, Okoshi K, et al. Surgical Experience Disparity Between Male and Female Surgeons in Japan. JAMA Surg. Published online July 27, 2022. doi:10.1001/jamasurg.2022.2938)
2.研究手法・成果
 本研究では、2013年から2017年にかけて登録されたNCDおよび日本消化器外科学会の会員データを使用して、幽門側胃切除術(DG: 184,238症例)、胃全摘術(TG: 83,487症例)、直腸低位前方切除術(LAR: 107,721症例)の手術症例の患者背景や病院の特徴、患者の術後短期成績を執刀した外科医の性別や医籍登録後の年数などを分析しました。この3つの術式はNCDに患者背景や合併症の有無などが詳細に記録されており、かつ女性消化器外科医の執刀数が比較的多い術式です。
 手術死亡率、手術死亡率と術後合併症の組み合わせ、膵液漏(DG/TGのみ)、縫合不全(LARのみ)を解析の対象としました。患者、外科医、病院の特徴など、術後死亡率や合併症に影響する様々な要因で調整した多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、男女の消化器外科医による手術の手術関連死亡率および術後合併症との関連性を検討しました。その結果、女性消化器外科医は男性消化器外科医よりも医籍登録後(医師免許取得後に厚生労働省の帳簿に登録すること)の年数が短く、腹腔鏡手術に携わる割合が少ないものの、よりリスクの高い患者を手術していたことが明らかになりました。病院の規模や患者の年齢や併存疾患などを調整して比較した手術死亡率の調整リスクには男女間で有意差はありませんでした。
 このことは、女性消化器外科医の手術短期成績が男性消化器外科医と同等であることを示します。
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https://kyodonewsprwire.jp/img/202209216889-O2-6Y97yO7C
 
3.波及効果、今後の予定
 既存の多くの先行研究では、メディケアなどの請求データベースを使用していますが、本研究では患者の術前状態や手術成績の精度が高い臨床データベースを用いているため、選択した個々の術式について患者関連因子で交絡因子を調整することができました。
 本研究の解釈において注意すべき点として、女性外科医の数が男性外科医の数よりかなり少ないため、ひとりの女性外科医のアウトカムが全体のアウトカムに大きな影響を与えるというバイアスが存在する可能性があります。
 しかし、全体として女性消化器外科医の手術成績は男性消化器外科医と同等であり、今後さらに手術経験を男性医師並みに増やすことで、女性消化器外科医のさらなる活躍が期待できます。そのためには、公平な教育の機会を提供するための体制や、優秀な女性外科医を育成するための環境づくりが望まれます。
4.研究プロジェクトについて
研究課題名「National Clinical Databaseを利用した消化器外科医の属性による手術短期成績に関する研究
関連研究機関:東京大学、岐阜大学、大阪医科薬科大学、日本消化器外科学会
<参考資料>
※1 厚生労働省 医師・歯科医師・薬剤師調査 2016年調査, 2017年公開
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450026&tstat=000001030962&cycle=7&tclass1=000001109395&tclass2=000001109396&stat_infid=000031653231&tclass3val=0
※2 Canadian Medical Association. Number and percent distribution of physicians by specialty and gender, Canada 2019;
https://www.cma.ca/sites/default/files/2019-11/2019-06-spec-sex_0.pdf
※3 Association of American medical colleges. Active Physicians by Sex and Specialty, 2019;2019;
https://www.aamc.org/data-reports/workforce/interactive-data/active-physicians-sex-and-specialty-2019
※4 NHS Digital. Analysis of the representation of women across the hospital and community health services workforce, 2018;
https://digital.nhs.uk/data-and-information/find-data-and-publications/supplementary-information/2018-supplementary-information-files/analysis-of-the-representation-of-women-across-the-hospital-and-community-health-services-workforce
研究者のコメント>
 女性は手術を執刀するのに適していないと考えられ、外科医になりたいと思っても歓迎されないという話がよくありました。しかし、今回の分析では、術後死亡率や合併症率に執刀医の性別による有意な差はなく、女性も同様に手術スキル向上に成功していることがわかりました。今後、手術トレーニングの機会や執刀数、昇進の機会などにおいて男女の平等が実現すれば、女性消化器外科医の技術はさらに向上すると思われます。(大越 香江)
<論文タイトルと著者>
タイトル:A comparison of short-term surgical outcomes of male and female gastrointestinal surgeons in Japan: retrospective cohort study(男女の消化器外科医の短期手術成績に関する比較研究:レトロスペクティブ・コホート研究
著  者:Kae Okoshi, Hideki Endo, Sachiyo Nomura, Emiko Kono, Yusuke Fujita, Itaru Yasufuku, Koya Hida, Hiroyuki Yamamoto, Hiroaki Miyata, Kazuhiro Yoshida, Yoshihiro Kakeji, Yuko Kitagawa大越 香江(京都大学大学院医学研究科消化管外科学 客員研究員・日本バプテスト病院外科 副部⾧)・遠藤 英樹(東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座 研究員)・野村 幸世(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学 准教授)・河野 恵美子(大阪医科薬科大学 医学部 一般・消化器外科学教室 助教)・藤田 悠介(京都大学大学院医学研究科消化管外科学 医員)・安福 至(岐阜大学大学院医学系研究科医科学専攻腫瘍制御学講座腫瘍外科学分野 助教(研究当時、現:岐阜大学大学院医学系研究科寄附講座臨床解剖開発学講座 特任講師))・肥田 侯矢(京都大学大学院医学研究科消化管外科学 講師)・山本 博之(東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座 客員研究員)・宮田 裕章(東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座 特任教授)・吉田 和弘(岐阜大学大学院医学系研究科医科学専攻腫瘍制御学講座腫瘍外科学分野 教授(研究当時、現:岐阜大学 学⾧))・掛地 吉弘(日本消化器外科学会データベース委員会 委員長(研究当時、現:同 委員))・北川 雄光(日本消化器外科学会 理事⾧)
掲 載 誌:The BMJ
DOI:10.1136/bmj-2022-070568

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