2022年上半期もAsia-PacificのM&A活動は堅調
・2022年上半期のAsia-PacificのM&A(合併と買収)は、前年同期比では14%減。しかし2020年上半期比では85%増となり、コロナ前の5年間(2015年~2019年)の平均成長率と同等のレベル
・日本企業の取引総額は昨年比で減少したものの、同取引件数は堅調に伸びており積極的なディール意欲がうかがえる
・Asia-PacificのCEOは海外進出を視野に入れているもののM&Aディールに関しては地域内志向を維持
・デジタルディスラプションにより、企業はクロスセクターおよびクロスボーダーM&Aを通したケイパビリティおよびマーケットの拡大を模索
EYは、Asia-Pacific(以下、APAC)の2022年上半期におけるM&A活動データの分析結果をお知らせします。本データによると、地政学上および財務上の向かい風にもかかわらず堅調であったことが明らかになりました。648件のディールが合計4,030億米ドルを調達した2022年上半期のM&A市場は、前年同期と比べると減速(調達額と件数はそれぞれ、14%と16%減)していますが、2020年上半期と比較すると大きく増加(調達額と件数はそれぞれ、85%と29%増)しています。また、新型コロナウイルス感染症が流行前のM&Aサイクル(2015年~2019年)の平均成長率(調達額6%増、件数3%増)と同等のレベルとなっています。
EYの分析によると、クロスボーダー案件を取り巻く状況は、世界的な地政学上の緊張を反映して変化しています。2022年上半期、APAC域外の企業を対象に行われた案件(アウトバウンドディール)が、ディール全体に占める割合は、大きく減少しました(2022年は13%。これに対して2015年~2019年の平均は23%)。一方、自国内のディールの割合は増加しています(2022年は77%。2015年~2019年の平均は71%)。2022年上半期のAPACの国内ディールは、コロナ前の5年間平均と比較して15%上昇し、件数が492件、調達額が合計3,120億米ドルでした。
件数と調達額の増加およびAPAC域内ディールへの高まる関心は、APACの企業が自社を変革する手段としてM&Aを活用していることを示唆しています。
EY Japanストラテジー・アンド・トランザクションリーダーの梅村 秀和(うめむら ひでかず)のコメント:
「APAC域内のあらゆるセクターに属する企業は、顧客の好みの急速な広がり、デジタル・ディスラプション、ESG(環境、社会、ガバナンス)課題に迅速に対応するために、自社ビジネスを変革しなくてはならないという強いプレッシャーを感じています。APAC全域のCEOは、経済が逆風に直面しているにもかかわらず、長期的な視野で、将来の成長に向けて自社を強化するための取引を進めています」
EY Japan ストラテジー・アンド・トランザクション リードアドバイザリー リーダーの川口 宏(かわぐち ひろし)の日本のM&A概況に関するコメント:
「日本も他のAPAC諸国の状況と同じく2022年上半期の案件総額は減少が見られたものの(前年比42%減)、案件数においては2015年~19年の平均比で22%増とパンデミック(世界的大流行)前との比較で堅調に推移しており、日本企業のM&Aに対する姿勢は依然積極的なものと考えられます。また、同様に2022年上半期はアウトバウンドディールは減少しているものの(取引額が前年比58%減)、海外における事業ポートフォリオの見直しの一環として海外子会社・投資先の売却の動きもあり、クロスボーダー取引の内容に変化が見られています。また、インバウンドにおいては、グローバルPEファンドによる日本企業の買収意欲は依然として高く、インバウンドのディールは前年比132%増と、大きな伸びを見せています」
大躍進したテクノロジーセクター:
APACの2022年上半期をセクター別にみると、セクターをまたがる案件が、総件数の68%、総調達額の55%を占めました。最もM&Aが活発だったのがテクノロジーセクターで、テクノロジー企業をターゲットとした案件が、クロスセクターディールの21%を占めました。非テクノロジー企業がテクノロジー企業をターゲットにしたM&Aの調達額は合計470億米ドルで、これは2021年の過去最高レベル(1,020億米ドル)からは54%の減少ですが、2015年~2019年の平均420億米ドルと比較すると12%の増加となっています。2022年上半期はまた、テクノロジー企業による自動車(モビリティ)セクターへの投資が上昇しました(コロナ前の5年間平均と比べて159%増加の440億米ドル)。また、電力・ガスセクターの企業をターゲットにした、他のセクター企業によるM&Aディールも増加(2021年から122%増、またコロナ前の5年間平均と比べて204%増の300億米ドル)しましたが、これは再生可能エネルギー企業への投資が増えたためです。
梅村は次のようにも述べています。
「APACの企業はセクターを問わず、APAC域内全体で高まる消費者のニーズおよびデジタルケイパビリティの成長に迅速に対応するため、テクノロジーを中心とした自社の変革を加速させています。
日本のM&A市場においても、取引額は153米億ドルに上り、テクノロジーはM&Aが最も求められているセクターです。インターネット普及率の上昇、モバイル機器の普及、コロナ禍によるオンラインへの移行などの要因が重なり、デジタルの急速な成長を後押ししています。日本企業も、デジタルケイパビリティを獲得するため、また成功に必要な規模を得るため、ますますM&Aに重きを置くようになっています」
プライベートキャピタルによるM&A活動の加速が見込まれるものの、今後の経済動向への警戒が必要:
不確実性の広がり、世界経済の脆弱性の高まり、規制当局による介入の増加をよそに、M&Aは活況を呈しており、とりわけプライベートキャピタルからの資金流入がM&A活動を加速させています。APACでは、2022年上半期にプライベートエクイティ(PE)によるM&A活動が急増し、調達額がコロナ前の5年間(2015年~2019年)平均と比べて47%の増加(470億米ドル)になりました。2022年上半期を通して資本市場での資金調達が非常に困難になったにもかかわらず、PEファンドは引き続き2022年後半の投資に必要となる資金を十分保有しています(APACのファンドが持つ投資待機資金(ドライパウダー)は、2022年7月時点で4,552億米ドル)。
梅村はさらに次のように述べています。
「プライベートキャピタルの潤沢な流動性は、APACのM&Aマーケットを活性化させることでしょう。一部のPEファンドがM&Aを活用して新規マーケットへ参入する一方、既に活動している領域で足掛かりを固め、規模拡大を目指すPEファンドもあることでしょう。金利が上昇している今、資金調達のトレンドが成長志向、未来型価値のセクターから、利益と価格決定力の強みにフォーカスしているパーソナルヘルス(プライベートヘルス)、教育、不動産などのセクターへと移行するものと考えています。
世界のマクロ経済および地政学上の難題は、2022年上半期、APACのディールメーカーのセンチメントとM&A活動に影を落としました。しかし、日本を含むAPACのCEOは、自社のビジネスを変革させることへの高まる圧力を受けて、2022年後半のM&A活動を加速させる立役者となることが見込まれます」
関連記事:アジア太平洋地域のCEOがM&Aで自社の変革を進める方法とは
ニュースリリースの詳細は以下よりご覧ください。
2022年上半期もAsia-PacificのM&A活動は堅調 | EY Japan
※本プレスリリースは、2022年8月19日(現地時間)にEYが発表したプレスリリースを翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。
英語版ニュースリリース:Asia-Pacific M&A activity remains robust in 2022 as companies look to accelerate their transformation
<EYについて>
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