従来とは逆のエポキシドの還元的開裂反応に成功
2022年5月6日
早稲田大学
本発表の詳細は、早稲田大学のホームページをご覧ください。
https://www.waseda.jp/top/news/80389
■発表のポイント
・エポキシドからラジカルを与えるジルコノセン/可視光レドックス触媒系を開発。
・チタノセン触媒では切れなかった炭素–酸素結合を開裂することに成功。
・糖やテルペンなどの天然由来分子を含む幅広いエポキシドの開環を達成。
早稲田大学理工学術院の太田英介(おおたえいすけ)講師、山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう)教授らの研究グループは、世界初のジルコノセン/可視光レドックス触媒系を構築し、エポキシド (※1)の環を開き、ラジカル (※2)を生成する「還元的開環反応」の開発に成功しました。
エポキシドは反応性が高く、容易に合成可能なため、その有用化合物への化学変換は盛んに研究されてきました。一般的にエポキシドは他の分子の攻撃を受けて開環しますが、還元的開環反応ではエポキシドが開環した後、他の分子を攻撃することができます。この還元的開環反応には、チタノセン触媒 (※3)が古くから利用され、数々の反応がこの30年に渡って生み出されてきました。チタノセン触媒を用いる開環反応では、エポキシドの二つの炭素–酸素結合のうち、一方の結合が開裂します。今回、研究チームはジルコノセン触媒 (※4)により、チタノセン触媒では開裂しなかったエポキシドのもうひとつの炭素–酸素結合を開裂することに成功しました。チタノセン触媒と相補的に利用可能な触媒系の世界初の発見は、還元的開裂反応の進展に大きな役割を果たすと期待されます。
今回の研究では、ジルコノセンと可視光レドックス触媒 (※5)存在下、エポキシドに可視光を照射することで、炭素–酸素結合が開裂し、アルコールを合成することに成功しました。また、本触媒系を利用したアセタール形成反応や分子内環化反応も達成し、糖やテルペンなどの天然由来分子を含む40種類以上のエポキシドを様々なアルコールへと変換できました。
本研究成果は、Cell Press 社『Chem』のオンライン版に2022年5月3日(現地時間)に掲載されました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202205050791-O1-Hsxc38Qk】
※1 エポキシド:三環性のエーテル化合物。有機合成に汎用され、容易に合成が可能。求核剤との反応に多用される。
※2 ラジカル:不対電子をもつ反応性の高い分子。化学結合が均等開裂することで生成する。
※3 チタノセン触媒:二つのシクロペンタジエニル基にチタンが挟まれた構造をもつ金属錯体。塩素原子をもつチタノセンジクロリドは最も代表的なチタノセン触媒。
※4 ジルコノセン触媒:二つのシクロペンタジエニル基にジルコニウムが挟まれた構造をもつ金属錯体。
※5 可視光レドックス触媒:可視光で励起され酸化還元反応を引き起こす光触媒。一つの触媒が酸化と還元の両反応を担うため、本触媒を利用した特徴的な反応が近年発見されている。
【論文情報】
掲載雑誌:Chem
論文名:Catalytic Reductive Ring Opening of Epoxides Enabled by Zirconocene and Photoredox Catalysis(ジルコノセン/可視光レドックス触媒系によるエポキシドの触媒的開環反応)
DOI: 10.1016/j.chempr.2022.04.010
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