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<日本歯内療法学会 ニュースレターvol.5> 11月8日は歯や口の健康を考える「いい歯の日」


私たちに身近な歯の根の治療法である 「歯内療法」に見られる海外と日本の違いとは

2021年11月8日
一般社団法人 日本歯内療法学会

一般社団法人 日本歯内療法学会(所在地:東京都豊島区、理事長:阿南 壽)より、11月8日の「いい歯の日」に合わせて、多くの患者さんにとって身近な歯の根の治療法、「歯内療法」の海外と国内の現状についてお知らせいたします。

 

「歯内療法」とは、自分の歯をできるだけ抜かずに治療することを目的とした治療の総称で、「歯の根の治療」「神経を抜く」と言われる多くの患者さんにとって身近な治療も歯内療法の範囲です。国内の歯科医が全般的に施せる身近な治療法でありますが、その現状は海外と国内を比較すると大きく異なる面もあります。

 

この度は患者さんや生活者の健康に密接な関連性がある「歯内療法」の海外と国内の差を知っていただくことで、今後の「歯内療法」の在り方について考える機会に繋がればと考えております。

 

 

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【サマリー】

 

①歯内療法(根管治療)の世界基準とは

 ▷ 「歯内療法」とは、「歯の根の治療」「神経を抜く」など歯をできるだけ抜かずに治療することを目的とした治療の総称 

 ▷ 歯の根の深くにアプローチする「根管治療」ではミリ単位の治療技術が求められる

 ▷ 歯内療法では治療時における滅菌消毒が生命線だが、必要な資材や機器は保険対象外のものもある

 ▷ アメリカでは歯内療法が専門領域として確立され最新技術の導入も積極的

 

②海外と日本の歯内療法治療費

  ▷ 日本の歯内療法の治療費はアジア諸国よりも低く、またアメリカの18分の1

  ▷ 患者さんに専門領域の治療として認識されている国と、そうでない日本において治療費の差が浮き彫りに

 

③日本の保険制度における「歯内療法」の現状

  ▷ 海外では歯内療法が専門領域として社会的に認められ、新しい治療法も柔軟に費用を設定することができる。

  ▷ 日本では限られた医療費の中で診療報酬を大きく変化させることが難しく、治療の質の維持や最新治療の導入に限界がある

  ▷ 平成20年保険診療改正では国際標準となっている「ラバーダム防湿」が保険適用外に

 

④これらの事実がもたらす歯科医、患者さんへの影響

  ▷ 医師の技術や知識、経験の習得が遅れるだけでなく歯内療法に対するモチベーション低下で治療の質が低下する恐れ

  ▷ 諸外国と比べると80歳の歯の平均残存数は依然低い中、質の高い歯内療法の普及が対策の一つになる

 

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【詳細】

 

 

①歯内療法(根管治療)の世界基準とは

 

■実は多くの人が受けたことがある治療法 「歯内療法」

 「歯内療法」とは、自分の歯をできるだけ抜かずに治療することを目的とした治療の総称で、「歯の根の治療」「神経を抜く」と言われる治療も歯内療法の範囲です。特に歯の根の深くにアプローチする治療を「根管治療」と言います。「歯内療法」は多くの方が受けたことのある基本的かつ身近な治療法ですが、根管の径は1ミリメートル以下の細い管で、形態は様々で非常に複雑なため、歯内療法には高度な技術が要求されます。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111072977-O1-5F6E78sZ

 

 

■「歯内療法」は滅菌消毒が生命線、様々な器具、器材で対応

虫歯は細菌の感染が原因で発生します。歯の内部を治療する歯内療法では治療時における滅菌消毒が生命線と言っても過言ではありません。日本歯内療法学会が推奨する標準的かつ適切な治療(無菌的処置)を行えば、感染リスクを極めて小さくすることができます。無菌的処置は、①術者の手指消毒、②手術野(歯の周囲)の消毒、③器具材料の滅菌・消毒を指し、この3点を完全に施すことが「歯内療法」において重要です。無菌的処置を徹底するために、以下の器具器材の使用が必要です。しかし、各歯科医院では歯の治療以外にこうした環境維持が重要となっておりますが、「ラバーダム防湿」など必ずしも全てが保険適用の対象となっているわけではありません。

 

< ラバーダム防湿 >

ラバーダム防湿は治療対象の歯のみを口腔内から隔離、また、手術野を消毒することで、だ液の侵入を防ぐことができます。無菌に近い状態で歯科治療を行う有益な方法です。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111072977-O3-QxuGXk3Z
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111072977-O2-4ReLd9ar

 

 

 

< 口腔外バキューム >

切削時の飛沫を吸引し、口腔内のだ液や 血液を含んだ飛沫が室内に浮遊するのを防ぎます。診療室内の空気汚染防止に有効。 

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111072977-O4-PKbDvTc5

< タービン >

歯を切削する道具で、先端にダイヤモンドが 付いたポイントや刃のついたカーバイト製バーを 差し込み、圧縮エアーで駆動。患者さんごとに滅菌しパックに入れて保管します。

 

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111072977-O5-H8uu4jt4

< 滅菌装置/小型滅菌装置>

歯科医療機器の滅菌を行う装置。 小型のものは、タービンなど頻繁に滅菌するための装置。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111072977-O6-822A9Z89

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111072977-O7-BD96Uwg4

 

 

■アメリカでは歯内療法が専門領域として確立

アメリカ歯内療法学会(AAE)の「ガイドライン2017年版」によると、「過去 20 年間にわたり、技術、材料、歯内治療手順が大幅に進歩してきた」としてミリ単位の根管治療で使用する歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)、汚染された根管をきれいにするNi-Ti ロータリーファイル、振動を加えながら細かい汚れを除去する超音波装置など新しい治療法が定着しつつあります。一方で、複雑な解剖学的形態を持つ歯の治療を行う歯内療法の専門医と、一般歯科医によって提供される治療では質の格差を生んでおり、専門性を持つ歯科医師の役割についても議論されています。日本国内においてはこうした最新治療は保険適用外となっており、専門医の位置づけに関する議論はほとんど行われておりません。

 

 

②海外と日本の歯内療法治療費

 

また、歯内療法が専門領域として確立されているアメリカと比較すると、日本の歯内療法の治療費は低く定められています。

この傾向はアジア諸国との比較においても同じ傾向にあります。海外の歯科治療は自費診療や民間の保険会社から支給される治療費で対応している一方、日本は公的な医療保険制度の診療報酬で対応している点が海外と大きく異なりますが、歯内療法を専門領域の治療として認識している国と、そうでない日本において治療費に差が出ている状況です。

 

▼ビッグマックインデックスで見た治療費の比較

少し古い資料なのですが、マクドナルドで販売されているビッグマック1個の価格を比較する「ビッグマックインデックス」で、歯内療法の一部である大臼歯の根管治療費を各国で比較すると日本の治療費はアジア諸国よりも低く、またアメリカの18分の1であったという報告がありました。  

   

【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M106422/202111072977/_prw_OT1fl_tyx9odKm.png

 ※出典:「The Economist」

 

 

③日本の保険制度における「歯内療法」の現状

 

日本における「歯内療法」は保険制度の診療報酬で日常的に施されている治療法であるため、多くの患者さんはその専門性の高さに気づきにくい環境であります。また、諸外国では歯内療法が専門領域として社会的に認められ、新しい治療法も柔軟に価格を設定することができます。一方、日本においては限られた財源の医療費において、診療報酬を大きく変化させることが難しい現状があり、治療の質の維持や最新治療の導入には限界があります。

 

▼ラバーダム防湿は実質保険適用外

その象徴的なものが、「ラバーダム防湿」です。上記の様に「歯内療法」では治療中の歯に細菌が入らないよう滅菌消毒が重要です。「ラバーダム防湿」はその重要な役目を果たすとして各国で定着しています。一方、国内においては、平成20年保険診療改正で、「ラバーダム防湿」を含む治療法が初・再診料へ包括され、「ラバーダム防湿」の保険点数は事実上なくなりました。「ラバーダム防湿」は装着に時間を伴うため、実質経費と時間を負担して自助努力で提供するか、処置を見送るかを選択せざるを得ない状況となっており、自費診療で治療を行う歯科医院も多く存在します。

 

④これらの事実がもたらす歯科医、患者さんへの影響

 

こうした環境下では世界標準の歯内療法を保険適用内で提供することが難しく、歯科医師の技術や知識、経験の習得に遅れが生じるだけでなく、歯科医師の歯内療法に対するモチベーション低下で治療の質が低下する恐れもあります。近年ではオーラルフレイルをはじめ、人生100年と言われる高齢化社会において口腔環境と健康維持の関連性が明らかになっている中、世界と比べると80歳の歯の平均残存数は依然低い状況です。歯内療法の質向上は多くの患者さんの健康に寄与できる重要な対策の一つと言えます。

 

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202111072977-O8-NGB9Rqta

 

<出典>

 出展 SKaPa Arsrappot 2015、NIH Tooth Loss in Seniors、厚生労働省 平成28年歯科疾患実態調査

 

日本歯内療法学会の提言

 

代  表  者        一般社団法人日本歯内療法学会理事長 阿南 壽(福岡歯科大学 教授)

ニュースレター担当委員  国内渉外委員会委員長 佐久間克哉(東京都 開業)(文責)

 

今回は日本の歯科治療、とりわけ「根の治療」に代表される歯内療法を中心にその現状をお知らせし、その背景を考察したお話を述べてまいりました。根の治療の成功率の低さから再発と再治療という日本の歯内療法の現状を浮き彫りにしています。この現状の原因は何なのだろうか、どこに起因しているのだろうか、というところに焦点を当て考えてみました。

 

日本には国民が平等に安価で医療を受けられる「国民皆保険」という社会保障制度があります。これは誇るべき制度である反面、国が定めた安価な費用での治療が選択肢を狭め一部で不合理を生じているのではないでしょうか。歯内療法に限って言えば適正価格と言うにはあまりに疑問の残る治療費が、技術の進歩の実践を妨げ、治療の繰り返し(再治療)が生じているとみるのは歯科医師の傲慢でしょうか。国民の健康の一端を担う歯科医療。繰り返し治療で国の医療費を消費している現制度には限界を感じます。技術、設備ともに医学的に適切なレベルの維持のため、再考すべき時期に来ているのではないでしょうか。

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