東洋大学【新しい観光のパラダイム Vol.1】国際観光の未来
国際観光の未来
東洋大学 国際観光学部教授 越智良典
新型コロナウイルス感染症は国内だけでなく、国際交流にかつてない大きな影響を与えています。一方ですでに事態を打開すべく、G20の外務大臣のオンライン会合が始まるなど国際交流を復活させる動きが始まっています。
国際観光の力
今はどん底のインバウンドですが、このままダメになってしまうのか?まず昨年までの国際観光の実態を振り返りましょう。
2019年の国際観光客は14億人でした。新興国の経済力が高まり、LCC(格安航空会社)の普及もあって世界中で海外旅行ブームが起きたため毎年増え続けてきました。そして、観光産業は世界のGDPの1割を占め、働く人も世界の1割を占めるまでになっていました。
一方の日本は少子高齢化で働き手や消費者が減っていき地方衰退が問題となっています。世界の観光客を日本の地方に招いて外貨を稼ぐのは、新たな輸出産業を育て、地方創生を実現する処方箋でした。
国連世界観光機関リファイ事務局長の予言
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202009284965-O1-tzQ4ATzs 】
UNWTO リファイ事務局長
2013年に国際観光のリーダーUNWTO(国連世界観光機関)のリファイ事務局長を日本に招き講演していただきました。
「日本の新幹線は正確で、早くてテクノロジーが素晴らしい。しかし、私が一番驚いたのは、短い停車時間を使って掃除をする人たちだ。掃除を終えて、新幹線が出発する時に、お辞儀をして見送っている。テクノロジーが発達するとホスピタリティが失われるのが先進国の通例だ。テクノロジーとホスピタリティが共存する稀有な国が日本だ。私は日本のインバウンドは1000万人どころか、2000万人、3000万人も可能だと思う。あとは政治家のリーダーシップ次第だ。」
聴衆は半信半疑でしたが、リファイ事務局長の予言通り2013年に1036万人、2018年には3119万人と3倍の伸びを示したのです。
世界の国が不思議がり羨みました。ラグビーW杯を開催し、オリンピック・パラリンピックを誘致し、2025年の大阪・関西万博まで決めてしまったので無理はありません。
一つの要因は近隣のアジアの国々が海外旅行ブームになったことです。しかし、重要なのは政府が観光立国を宣言し、2020年4000万人、2030年6000万人という目標を掲げて、次々に手を打ってきたことです。ビザの緩和、免税店の認可、公的施設の開放。そして、国際観光旅客税を導入して、財源を確保して(一人1000円で年間500億円以上)出入国の改善や国立公園・文化施設の整備に投資。羽田空港の国際縁枠の大幅な拡充。
まさに、リファイ事務局長が指摘したリーダーシップの成果です。
国連世界観光機関によれば、7月31日の時点で世界の観光目的地である217ヶ国・地域のうち約40%が国際的な入国制限を緩和しています。今、国際観光は試練を迎えていますが、中長期的には人口増加と経済発展によって国際観光は再び成長軌道に戻ります。一方で、日本の少子高齢化と地方衰退という問題に変わりはありません。観光立国という政府の方針は変わらないといえます。
国際観光の未来を担う若者たち
2017年に東洋大学は成長する国際観光を担う人材を育成する目的で、国際観光学部を創設しました。開設にあたりリファイ事務局長を招き、名誉博士号を贈呈し、講演していただきました。
「日本は観光資源だけでなく人が魅力を作っている。出発する航空機を整備士が手を振って見送るのは日本だけだ。観光は違う文化を体験し、よりお互いを尊敬しあえる素晴らしい仕事だ!」と学生にエールを送っていただきました。
世界における国際観光の担い手を育成する、大学の観光教育に対する期待は変わることがありません。
【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/202009284965-O2-2h4cG3I8 】
越智 良典
東洋大学国際観光学部 教授
専門分野:観光経営
研究キーワード:旅行事業経営、 観光リスクマネージメント、双方向交流
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