世界のIPO市場の減速により上場を先送りする企業が増加(2019年第3四半期)
EY Japan
世界のIPO市場の減速により上場を先送りする企業が増加(2019年第3四半期)
・IPO活動は引き続き地政学上の貿易問題による影響を受けている
・2019年1~9月でIPOが最も多く行われた業界はテクノロジー、ヘルスケア、製造業
・より有利な市場条件が戻ってくれば、2020年IPOが再び活発化することが期待できる
IPOを目指す未上場企業が、市場が好転するまで様子見している中、質の高いIPOが先延ばしされるケースが引き続き増加しています。このため、2019年第3四半期(以下、3Q)のIPO活動は、多くの国々で前年同期を下回りました。世界全体を見ると、2019年3Qは、前年同期比でIPO件数は24%減少の256件、調達額は22%減少の402億米ドルでした。2019年1月~9月までに行われたIPOの件数は前年同期比(2018年1~9月)26%減少の768件、資金調達額合計は25%減少の1,141億米ドルでした。IPOの件数が減少した一方で、主要マーケットにおけるIPO初日の収益率は平均で27%、IPO後現在までの株価パフォーマンスは平均で32%となりました。
2019年1月から9月まででIPOが最も活発だったセクターは、テクノロジー、ヘルスケア、製造業で、3セクターの合計で407件のIPO(全世界の件数の53%)が行われ、調達額は合計694億米ドル(全世界の調達額の61%)に達しました。この中でも、2019年1月から9月で件数、調達額ともに最大となったのがテクノロジー業界で、世界全体での割合は、件数で23%(179件)、調達額で36%(415億米ドル)に達しました。2019年3Qだけに目を向けても、テクノロジーは件数、調達額ともにIPOが最も活発に行われたセクターで、59件(全世界の23%)のIPOが合計114億米ドル(全世界の28%)の資金を調達しました。より詳細な分析データについては、EYが3カ月毎に発表している『Global IPO trends』 の最新版(『Global IPO trends: Q3 2019』)をご覧ください。
EY Global IPOリーダーのポール・ゴーは次のように述べています。
「IPO活動が停滞した2019年3Qは、地政学上の懸念が続いたことも相まって、結果的にグローバル市場全体でIPOに対する意欲の低下を招きました。この期間のIPOは、件数、調達額ともに前年同期より減少しています。しかし、2019年7月、上海証券取引所で「科創板(スターマーケット)」が華々しく開設されたことにより、この地域の投資家心理は上向いています。世界のこれ以外の地域では、より大型のIPOを目指す未上場企業の一部が市場の風向きが変わるのを待っているため、大型IPOが先延ばしとなるケースが増えています。間もなく、IPOが最も盛んになる時期を迎えますが、私たちは2019年4QにはIPO活動が勢いを取り戻すと考えています。そして、その勢いは、米中貿易摩擦や英国のEU離脱の先行きが今より明らかになっている2020年にかけても継続すると見ています。」
<3Qの停滞と株価変動がAmericasのIPO市場に影響>
2019年 3Q、Americasエリアでは47件のIPOが実施され119億米ドルの資金が調達されましたが、2018年の3Qに比べると、件数で30%、調達額では10%減少しました。2019年1月から9月では、IPO件数、調達額の両方で、前年同期比を下回っています。2019年1月から9月に行なわれたIPOは22%減少の160件、調達額は9%減少の469億米ドルにとどまりました。
一方、Americasでは、IPOのほとんどが米国の取引所で実施されており、2019年1月から9月では、AmericasのIPO全体の、件数では79%、調達額では95%が米国の取引所で占められています。今年に新規上場をした著名なテクノロジー関連のユニコーン企業数社が推進力となったためです。ナスダック証券取引所およびニューヨーク証券取引所は、2019年1月から9月の調達額で、それぞれ世界第1位と第2位にランクされました。
EY AmericasのIPOリーダーであるジャッキー・ケリーは次のように述べています。
「従来から、3Qの時期はIPO活動が減速するのが常です。しかし、2019年3Qは低調だったものの、2019年の2Qに見られた勢いは持続しています。地政学上の不安定さによる影響は続いていますが、私たちはどのような地政学上の不確実性の増加も一時的なものだと予想しており、2019年4Q にはIPO活動が再び活発化すると見ています。」
<Asia-PacificエリアのIPOの低迷の歯止めとなった上海の科創板(スターマーケット)開設>
Asia-Pacificエリアでは、2019年1~9月のIPO件数は、前年同期に比べると9%減少の436件、調達額も27%減少の461億米ドルにとどまりました。上海の科創板(スターマーケット)開設によるプラス面が、2019年3Q の香港、日本、オーストラリアの実績の不振を補いました。その結果、2019年3QにおけるAsia-Pacificエリアの取引所のIPOは、前年同期比で、件数では173件の2%減、調達額は237億位ドルの29%減という減少幅にとどまりました。ただし、米中間の貿易摩擦は、依然としてAsia-Pacificの一部の地域でIPO活動に影響を与えています。
しかし、2019年3Q、Asia-Pacificエリアは引き続き、グローバルのIPO活動において世界の他地域を圧倒しており、世界トップ10の証券取引所のうち、件数では7つ、資金調達額では5つをこの地域の取引所が占めています。Asia-Pacificエリアの主要マーケットで行われたIPOの初日の収益率の平均は51%に上昇し、IPO後から現在までの株価パフォーマンスは平均71%に急増しました。上海の科創板(スターマーケット)の活発なIPO活動が大きく貢献しました。
日本では3QでのIPO活動は停滞し、前年同期に比べて、件数では57%減の12件、調達額で74%減の合計4億8,800万米ドルにとどまりました。東南アジアでは、40件のIPOが実施され、調達額は29億米ドルに達したことから、実績は大幅に回復しました。東南アジアの証券取引所における2019年1月から9月の実績は、前年同期比で件数では48%増の27件、調達額では555%増の4億4,000万米ドルに達しました。
EY Asia-Pacificエリアの IPO リーダー、リンゴ・チョイは次のように述べています。
「大きな期待を受け、上海の科創板(スターマーケット)が2019年3Qに取引を開始しましたが、新取引所での初期の活動は、香港(中国)、日本、およびオーストラリアの低水準の実績を補った上、Asia-PacificエリアのIPO活動は、2Qを上回る実績に押し上げ、期待を裏切りませんでした。また、2019年3Q、東南アジアの取引所でIPO活動が勢いを取り戻したことも後押しとなりました。今後、米中貿易問題が引き続き、この地域の一部の投資家の心理に水を差す可能性があります。しかし、今年最後の四半期に、メガIPOが行なわれ上場が迅速に果たされれば、Asia-PacificエリアのIPO市場は、直ぐに活況を取り戻すと見られています。」
<EMEIAでは地政学上の逆風が吹き続ける>
EMEIAでは2019年1月から9月、IPOの件数、調達額ともに前年同期に比べて減少し、EMEIAの各証券取引所で行われたIPOは、52%減少の172件、調達額は41%減少の211億米ドルにとどまりました。EMEIAにおける市場センチメント、経済見通しは共に、現在も続く米国、EU、中国間の貿易摩擦の影響を受け悪化しています。同時に、EUと英国は、英国の合意なきEU離脱も視野に入れ、2019年4Qにそのリスクへの備えを進めていくと見られています。
こうした課題を抱えてはいるものの、EMEIAは、2019年3QのIPO資金調達額世界トップ10証券取引所グループのうち、3グループが拠点を置く地域となっています。具体的には、ドイツ取引所では、1件のIPOが17億米ドルを調達、OMXでは3件のIPOが13億米ドルを調達、インドの国立証券取引所とボンベイ証券取引所では、9件のIPOが8億5,800万米ドルを調達しました。クロスボーダーのIPO活動は、2019年1月から9月の実績で全体の10%を占め、2018年の9%から微増となりました。また、低金利政策および経済活動に支援的な金融政策が、予想より長期にわたって続いているため、2019年4Qには投資家心理とIPOへの意欲はともに改善する可能性があります。
EY EMEIA IPOリーダーのマルティン・シュタインバッハ博士は次のように述べています。
「EMEIAはパーフェクトストーム(究極の嵐)の真ん中にいます。2019年3Qでは、このエリアは米国、EUおよび中国間の貿易摩擦に加え、英国のEU離脱という逆風が吹き続けました。しかし、停滞した3Qの後、これから一年で最もIPOが活発化する時期に向かう中で、勢いを取り戻していくことが期待されます。また、このエリア、特に欧州は、予想以上に長期化している低金利政策という追い風に乗りつつあり、これによって投資家はハイリターンなアセットを探し求めるようになっています。加えて、彼らは投資先を厳選しており、特にテクノロジー分野における、より大規模で高品質のエクイティストーリーおよび成長投資に意欲を示しています。2019年4Qも目前ですが、経済成長の鈍化が予想される中、EMEIAの未上場企業は一歩先を行き、IPO計画を前倒しする可能性が高くなっています。」
※本プレスリリースは、2019年9月25日(現地時間)にEYが発表したプレスリリースを翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。
英語版プレスリリース:
https://www.ey.com/en_gl/news/2019/09/ipo-backlog-grows-as-global-ipo-market-slows-further-in-q3-2019
〈EYについて〉
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EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバル・ネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。詳しくは、ey.com をご覧ください。
本ニュースリリースは、EYのグローバル組織のメンバーファームであるアーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッド(EYGM)によって発行されています。EYGMは顧客サービスを提供していません。
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