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唾液中代謝物の人工知能(AI)解析によって乳がんを検出する方法を開発


2019年7月31日



帝京大学



唾液中代謝物の人工知能(AI)解析によって

乳がんを検出する方法を開発



 帝京大学医学部外科学講座教授の神野浩光は、東京医科大学低侵襲医療開発総合センター教授で慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授の杉本昌弘、慶應義塾大学医学部外科学(一般・消化器)専任講師の林田哲らとの共同研究により、唾液のメタボローム解析と人工知能を使って、高精度に乳がん患者を検出する方法を開発しました。



【本研究の概要と意義】

 神野教授らの研究グループは、生体内の代謝物を一斉に測定して定量するメタボローム解析(注1)という技術を利用し、唾液を用いた疾患検出の可能性を研究してきました。浸潤性乳がん(invasive carcinoma, IC群)101症例、非浸潤性乳がん(ductal carcinoma in situ, DCIS群)23症例、健常者(healthy control, HC群)42症例、合計166の唾液検体を収集し、メタボローム解析を実施しました。メタボローム解析においては、1つの測定方法では測定できる物質数に限界があるため、キャピラリー電気泳動・飛行時間型質量分析装置と液体クロマトグラフィー・三連四重型質量分析装置(注2)の両装置を利用してできるだけ多くの水溶性代謝物を測定しました。

 解析の結果、唾液中から260種類もの物質が定量でき、そのうちの約30物質は各群の間で濃度に違いがあることが統計的な評価によって明らかになりました。また、IC群において、代謝物の一種であるポリアミン類(注3)などの濃度がHC群と比較して高い一方、DCIS群ではこれらの物質の濃度の上昇はみられず、HC群と濃度が変動しないことも判明しました。さらに、このうちIC群とHC群の間をもっとも高精度に識別する物質は、ROC曲線(注4)以下の面積において0.766 (95%信頼区間;0.671–0.840)という精度を出しましたが、これらの物質群の濃度パターンを人工知能(注5)に学習させたところ、0.919 (95% CI信頼区間;0.838–0.961)にまで精度を向上させることに成功しました。

 唾液の解析のみでこれほど高精度に乳健常者から乳がんを識別できることは、新しい検査方法として極めて有望であると考えられます。今後、より大規模な症例での検証は必要ですが、他の疾患との比較なども含めてさらなる精度向上を目指すとともに、より低コストな測定方法の開発を進めていきます。





【画像: https://kyodonewsprwire.jp/img/201907299199-O1-g18X6C9C



【研究の背景】

 日本人女性のがん罹患率の第1位は乳がんです。日本における乳がんの治療成績は良好であり、4人に3人は完治する疾患ですが、より早期の段階で発見できれば治療成績が向上するだけではなく、手術の縮小などが可能となります。

 乳がんを発見するためには、超音波やマンモグラフィーなどの画像検査や血液検査が行われます。血液検査では腫瘍マーカーとしてCEA、CA15-3、NCC-ST-439が広く使われていますが、これらは感度や特異度に限界があるため、特に早期ではほとんどが陰性になってしまいます。そのため、早期でも感度が高いマーカーの開発が急務の課題とされています。さらに、日本は先進国の中でも乳がん検診の受診率が低いため、自覚症状のない方でも簡便に受診しやすい、侵襲性の低い検査の開発が求められています。



【用語の解説】

注1)メタボローム解析:代謝物と呼ばれる小さな分子を一斉に測定する技術。

注2)キャピラリー電気泳動・飛行時間型質量分析装置・液体クロマトグラフィー・三連四重型質量分析装置:多数の代謝物を測定できる装置。

注3)ポリアミン類:スペルミン、スペルミジンなどの一連の物質。細胞増殖等にかかわる。

注4)ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線:受信者動作特性曲線といい、感度と特異度を評価する。この曲線以下の面積(最小0で最大が1)が大きい値であるほど、感度も特異度も高いより正確な精度であることを示す。

注5)人工知能:パターン認識などで様々なアルゴリズムのうち、alternative decision tree (Adtree)という決定木を改良した高精度な方法を用いた。



本研究成果は以下の国際雑誌に掲載されました。

Takeshi Murata, Takako Yanagisawa, Toshiaki Kurihara, Miku Kaneko, Sana Ota, Ayame Enomoto, Masaru Tomita, Masahiro Sugimoto, Makoto Sunamura, Tetsu Hayashida, Yuko Kitagawa, Hiromitsu Jinno, Salivary metabolomics with alternative decision tree-based machine learning methods for breast cancer discrimination, Breast Cancer Research and Treatment (シュプリンガー・ネィチャー社)

掲載日:2019年7月9日(日本時間)オンラインで掲載

URL:https://rdcu.be/bJnbk





【助成金】

本研究は、科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)によって行われました。



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