「平成」時代のブレークスルー:世界で最も引用された平成時代の日本の論文Top20
クラリベイト・アナリティクス・ジャパン株式会社
「平成」時代のブレークスルー:世界で最も引用された平成時代の日本の論文Top20
クラリベイト・アナリティクス
~トップ3は、バイオインフォマティクスツールMEGA、カーボンナノチューブ、iPS細胞~
クラリベイト・アナリティクス・ジャパン株式会社(以下、クラリベイト・アナリティクス)は、平成時代の30年間(1989年から2019年)で最も引用された日本の論文トップ20を発表しました。より多く引用されたことは、後に続く研究に大きな影響を与えたと考えることができます。今回の20報は引用数上位0.001%に入る非常に大きなインパクトを与えた研究であり、「平成」時代に日本で生み出されたブレークスルーを一同に集めて紹介するものです。(表1)
「平成」時代の約30年間(1989-2019)において、世界全体で約3,000万報の論文(Web of Science Core Collection の収録論文)が掲載されました。そのうち日本が関与した論文は約200万報(6.8%)でした。今回の20報には、ノーベル賞受賞につながったiPS細胞の論文をはじめ、カーボンナノチューブ、ペロブスカイト太陽電池、MEGAやKEGG等のバイオインフォマティクスツール、磁性半導体などの著名な成果が並ぶとともに、知識経営に関する経営学の論文も含まれていました。
また、平成30年間での大きな変化としては、近年の学術研究の傾向を反映し、単著の減少と、国際共著論文の激増が本分析の中でも見られました。
■ 平成の日本の論文で最も多く引用された論文
第1位は、首都大学東京の田村浩一郎教授らによるバイオインフォマティクスツール(分子系統解析ソフトウェア:MEGA)の開発に関する論文「MEGA5: Molecular Evolutionary Genetics Analysis Using Maximum Likelihood, Evolutionary Distance, and Maximum Parsimony Methods」でした。この論文は2011年(平成23年)の出版以降現在までに3万回以上もの引用を集めています。なお、MEGA の開発に関する論文は、MEGA3、MEGA4、MEGA6、MEGA7の開発についても上位20位以内に入っており研究への影響力の大きさが伺えます(以降の文章中ではこれらを除く順位で記載します)。
第2位は、名城大学の飯島澄男教授(論文発表時NEC)によるカーボンナノチューブの発見に関する論文「HELICAL MICROTUBULES OF GRAPHITIC CARBON」で、1991年(平成3年)の出版後、2万9千回以上の引用を集めています。
第3位は、京都大学の山中伸弥教授らによるiPS細胞の作製に関する論文「Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors」で、2006年(平成18年)の出版以降1万2千回以上の引用を集めています。この論文は2012年の山中教授のノーベル賞受賞理由として取り上げられました。山中教授らによるiPS 細胞に関する研究では、2007年(平成19年)のヒトiPS細胞の作製に関する論文「Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors」も第4位に入りました。
第5位から第10位までは以下:
第5位は、豊田中央研究所の旭良司氏、森川健志氏らによる可視光で働く光触媒の開発に関する論文「Visible-light photocatalysis in nitrogen-doped titanium oxides」(2001(平13)年)、
第6位は、京都大学の金久實特任教授らによる生命情報データベース(パスウェイを中心とした生命情報統合データベース:KEGG)の開発に関する論文「KEGG: Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes」(2000(平12)年)、
第7位は、東京大学の田嶋文生名誉教授(論文発表時九州大学)による、進化における自然選択の有無を調べる統計手法の開発に関する論文「STATISTICAL-METHOD FOR TESTING THE NEUTRAL MUTATION HYPOTHESIS BY DNA POLYMORPHISM」(1989(平元)年)、
第8位は、大阪大学の加藤和貴准教授らによるバイオインフォマティクスツール(遺伝子配列アライメントツール:MAFFT)の開発に関する論文「MAFFT Multiple Sequence Alignment Software Version 7: Improvements in Performance and Usability」(2013(平25)年)、
第9位は、名古屋市立大学の藤井義敬名誉教授らによる肺がん治療薬の有効性研究に関する論文「EGFR mutations in lung cancer: Correlation with clinical response to gefitinib therapy」(2004(平16)年)、
第10位は、東北大学の大野英男教授らによる磁性半導体の強磁性の原理に関する論文「Zener model description of ferromagnetism in zinc-blende magnetic semiconductors」(2000(平12)年)。
■ 最近の論文で最も引用されているものは?
引用数は論文の出版後に蓄積される数値であるため、出版後の経過期間の影響を受けます。そのため、平成時代を10年単位で前期(~平成10年)、中期(~平成20年)、後期(~平成31年現在)に分け、それぞれの期間に出版された論文の中で最も引用されたものをリストすると、その顔ぶれにも変化が起きます(表2、表3、表4)。以下では各期間のトップ5を取り上げます。
平成前期に出版された論文では、3位以降に平成期全体でのトップ10とは異なる論文が見られ、第3位に一橋大学の野中郁次郎名誉教授による組織的知識創造理論に関する論文「A DYNAMIC THEORY OF ORGANIZATIONAL KNOWLEDGE CREATION」(1994(平6)年)、第4位に、名城大学・飯島教授らによるカーボンナノチューブに関する別の論文(単層カーボンナノチューブの発見)「SINGLE-SHELL CARBON NANOTUBES OF 1-NM DIAMETER」(1993(平5)年)、第5位に神戸大学元学長の西塚泰美氏による、自身が発見した酵素(プロテインキナーゼC)の機能に関する論文「INTRACELLULAR SIGNALING BY HYDROLYSIS OF PHOSPHOLIPIDS AND ACTIVATION OF PROTEIN-KINASE-C」(1992(平4)年)が入っています(表2)。
平成中期に出版された論文では、トップ5はすべて平成期全体のトップ10以内となっています(表3)。
平成後期に出版された論文では、3位以降が平成期全体でのトップ10とは異なり、第3位に、桐蔭横浜大の宮坂力教授らのペロブスカイト太陽電池の開発に関する論文「Organometal Halide Perovskites as Visible-Light Sensitizers for Photovoltaic Cells」(2009(平21)年)、第4位に理化学研究所の林崎良英プログラムディレクターらが加わるヒトゲノム解析の国際プロジェクトによるヒトゲノムの機能に関する論文「An integrated encyclopedia of DNA elements in the human genome」(2012(平24)年)、第5位にNTTコミュニケーション科学基礎研究所のMathieu Blondel氏(論文発表時 神戸大学)が加わる機械学習ツール(Scikit-learn)の開発に関する論文「Scikit-learn: Machine Learning in Python」(2011(平23)年)が入っています(第1位であるMEGA5に続くMEGA の開発論文を飛ばして順位を記載しています)(表4)。
■ 時代の推移に伴う変化はあるか?
平成時代を10年単位で前期(~平成10年)、中期(~平成20年)、後期(~平成31年現在)に分けて傾向の違いを見てみると、各期間の論文で最も多く引用された論文上位50報中では分野構成に大きな変化は見られませんでした。おおまかに医学・生命科学系が半数強程度、化学系、物理系が残りを分け合うような形となります。
一方で、著者の構成を見ると、平成後期には平成前期とは異なる特徴が見られます。前期には一人の著者による論文(単著)が50報中7報ありましたが、後期には50報中1報のみでした。また、著者が100人を超える論文は前期には3報でしたが、後期には13報となります。さらに、複数の国の研究者による共著論文(国際共著論文)は、前期の3割程度から後期には8割近くにまで増加しています。
近年の学術研究における傾向として、大型の施設・装置を用いる大規模な学術研究(いわゆるビッグサイエンス)の増加や研究活動の国際化がこれまでも指摘されてきましたが、今回の分析で取り出した日本のブレークスルーのリストからもその傾向が読み取れる結果となっています。
【本分析のデータソース】
学術文献・引用索引データベース「Web of Science® Core Collection」
Web of Science Core Collection は、自然科学、社会科学、人文科学の広範にわたる世界の主要学術誌(12,000誌以上)に掲載された学術論文の書誌事項、および引用文献情報を集録しているデータベースで、1900年以降に出版された7,000万報以上の論文を収録しています(2019年現在)。
>Wef of Science 製品概要
【データ対象期間と対象論文】
1989年1月1日~2019年4月20日 (30年間と4ヶ月)に出版された論文で、Web of Science Core Collection において文献種別がArticle (原著論文)に分類されるものを対象としました。
【日本の論文について】
本分析で取り上げた日本の論文(日本の著者が関与する論文)とは、論文に記載された著者の所属機関の住所が日本国内であるものを指します。国籍が日本であっても国外の大学に所属する著者の論文は含みません。
【注意】
●研究者の所属について: 本プレスリリース文中に示した各論文の著者の所属と肩書きは、公開情報で得られる範囲で最新のものを記載していますが、クラリベイト・アナリティクス・ジャパン株式会社は、この記載の正確性について保証するものではありません。
●引用数について:以下の表中の被引用数は、2019年4月23日現在のものです。
●ノーベル賞との関係について:ノーベル賞に結びついた論文は多く引用される傾向にはありますが、本リストは20件と非常に限定的であるためその中には含まれないものもありました。たとえば、近年のノーベル賞受賞の対象となった論文の引用数は以下のようになります。
大隅良典氏:「A ubiquitin-like system mediates protein lipidation」(2000(平12)年)1083回/660位
本庶佑氏:「Engagement of the PD-1 immunoinhibitory receptor by a novel B7 family member leads to negative regulation of lymphocyte activation」(2000(平12)年)2284回/156位
梶田隆章氏:「Evidence for oscillation of atmospheric neutrinos」(1998(平10)年)3605回/56位
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表1 世界で最も引用された平成時代の日本の論文Top20
(順位, タイトル, 著者, 出版年, 掲載ジャーナル, 被引用数)
1, MEGA5: Molecular Evolutionary Genetics Analysis Using Maximum Likelihood, Evolutionary Distance, and Maximum Parsimony Methods,
Tamura Koichiro;Peterson Daniel;Peterson Nicholas;Stecher Glen;Nei Masatoshi 他 (全6名),
2011, MOLECULAR BIOLOGY AND EVOLUTION, 34785
2, HELICAL MICROTUBULES OF GRAPHITIC CARBON,
Iijima Sumio, 1991, NATURE, 30804
3, MEGA4: Molecular evolutionary genetics analysis (MEGA) software version 4.0,
Tamura Koichiro;Dudley Joel;Nei Masatoshi;Kumar Sudhir,
2007, MOLECULAR BIOLOGY AND EVOLUTION, 23095
4, MEGA6: Molecular Evolutionary Genetics Analysis Version 6.0,
Tamura Koichiro;Stecher Glen;Peterson Daniel;Filipski Alan;Kumar Sudhir,
2013, MOLECULAR BIOLOGY AND EVOLUTION, 14920
5, Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors,
Takahashi Kazutoshi;Yamanaka Shinya,
2006, CELL, 12650
6, MEGA3: Integrated software for molecular evolutionary genetics analysis and sequence alignment,
Kumar Sudhir;Tamura Koichiro;Nei Masatoshi,
2004, BRIEFINGS IN BIOINFORMATICS, 10103
7, Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors,
Takahashi Kazutoshi;Tanabe Koji;Ohnuki Mari;Narita Megumi;Ichisaka Tomoko他 (全7名),
2007, CELL, 10075
8, Visible-light photocatalysis in nitrogen-doped titanium oxides,
Asahi R;Morikawa T;Ohwaki T;Aoki K;Taga Y,
2001, SCIENCE, 9054
9, KEGG: Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes,
Kanehisa Minoru;Goto Susumu,
2000, NUCLEIC ACIDS RESEARCH, 8406
10, STATISTICAL-METHOD FOR TESTING THE NEUTRAL MUTATION HYPOTHESIS BY DNA POLYMORPHISM,
Tajima Fumio, 1989, GENETICS, 7967
11, MEGA7: Molecular Evolutionary Genetics Analysis Version 7.0 for Bigger Datasets,
Kumar Sudhir;Stecher Glen;Tamura Koichiro,
2016, MOLECULAR BIOLOGY AND EVOLUTION, 7856
12, MAFFT Multiple Sequence Alignment Software Version 7: Improvements in Performance and Usability
Katoh Kazutaka;Standley Daron M.,
2013, MOLECULAR BIOLOGY AND EVOLUTION, 7127
13, EGFR mutations in lung cancer: Correlation with clinical response to gefitinib therapy,
Paez J. Guillermo;Janne Pasi A;Lee Jeffrey C;Tracy Sean;Greulich Heidi他 (全17名),
2004, SCIENCE, 6544
14, Zener model description of ferromagnetism in zinc-blende magnetic semiconductors,
Dietl T;Ohno H;Matsukura F;Cibert J;Ferrand D,
2000, SCIENCE, 6520
15, Organometal Halide Perovskites as Visible-Light Sensitizers for Photovoltaic Cells,
Kojima Akihiro;Teshima Kenjiro;Shirai Yasuo;Miyasaka Tsutomu,
2009, JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY, 6500
16, An integrated encyclopedia of DNA elements in the human genome,
Dunham Ian;Kundaje Anshul;Aldred Shelley F.;Collins Patrick J.;Davis Carrie A 他 (全601名),
2012, NATURE, 6472
17, Scikit-learn: Machine Learning in Python,
Pedregosa Fabian;Varoquaux Gaeel;Gramfort Alexandre;Michel Vincent;Thirion Bertrand他 (全16名),
2011, JOURNAL OF MACHINE LEARNING RESEARCH, 6406
18, The Sloan Digital Sky Survey: Technical summary,
York Donald G;Adelman J;Anderson John E;Anderson Scott F;Annis James 他(全144名),
2000, ASTRONOMICAL JOURNAL, 6239
19, A DYNAMIC THEORY OF ORGANIZATIONAL KNOWLEDGE CREATION,
Nonaka Ikujiro,
1994, ORGANIZATION SCIENCE, 6061
20, SINGLE-SHELL CARBON NANOTUBES OF 1-NM DIAMETER,
Iijima Sumio;Ichihashi Toshinari
1993, NATURE, 5832
表2以降の詳細全文はリリースPDFまたはhttps://clarivate.jp/news-releases/2019/Heisei-Breakthrough/をご確認ください。
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