昨今、相続税の課税ベースが広がったことに伴い相続税対策に注目が集まっています。
生前贈与はその対策の中でも効果が大きく、実際に行われていることも多い手段です。
ただし、この財産を贈与するという行為を立証するためには留意すべき点があります。
相続税対策として有効な生前贈与
財産を生前に贈与することにより相続財産が減少し、相続税が少なくなることはよく知られています。
財産を贈与された者には贈与税が課税されます。
贈与税の税率は相続税の税率に比べて高く定められていますが、非課税枠などを利用して無税あるいは相続税よりも低い税率で財産を移転することができます。
贈与契約成立の条件
相続税対策として有効な生前贈与ですが、贈与契約が無効であるとして税務署が否認する場合があります。
否認されないためにも、しっかりと贈与契約を成立させておくことが重要です。
贈与という法律行為は、片務諾成契約です。贈与が成立するためには次の二つの要件を充たす必要があります。
(2) 贈与する物の引き渡しが行われること
いずれか片方のみでは贈与は成立しません。
例えば次のような場合、贈与は成立していません。
贈与が成立していない例
孫に贈与する意思表示をせず、祖父母が現金を子供の預金口座へ振り込んだ。
この場合(1)の要件を充たしておらず、贈与契約は成立していません。贈与する際は必ず意思確認をしておく必要があります。
贈与を受けるものが未成年者である場合、親権者の同意が必要になりますのでその点もご留意ください。
単なる名義変更は認められない
贈与契約成立の要件と関連しますが、単に財産の名義を変更しただけでは贈与が成立したとは認められません。
例えば銀行に預けている定期預金の名義を祖父母から孫に変更したとしても、その口座の管理を祖父母が行っている場合には贈与が成立したとはみなされません。
そのように単に名義だけを変更した預金口座のことを「名義預金」と呼びます。税務署からチェックされることも多い項目です。
贈与契約が成立していることを証明するための書類
民法上、贈与契約は口頭でも成立します。
ただし口頭の場合、物の引き渡しがあるまではいつでも撤回できることとなっています。
この口頭での贈与契約は確かに有効ではありますが、その有効性を立証することは困難です。やはり書面を残しておいた方がベターであると言えます。
贈与者と受贈者、双方の署名押印がある贈与契約書を作成しておけば、贈与という事実があったことの証明になります。
また特に贈与時期を確実にしておきたい場合には、公証役場で確定日付をもらっておけばより確実な証明になります。
まとめ
相続税対策として有効な生前贈与ですが、税務署から否認されてしまっては元も子もありません。
しっかりと立証できるよう贈与契約書を作成しておくとともに、不動産等名義の変更に手続きが必要なものについては、その手続きも確実に行っておくことが大切です。(執筆者:高垣 英紀)