昨年のまさかの出来事「イギリスのEU離脱」
昨年の4月に、ここマネーの達人に「英国がEUを離脱したら… 日本や世界経済への影響は?」という記事を投稿させて頂きました。
筆者は、イギリスのEU離脱に関するリスクについて2016年初頭からセミナーなどで取り上げたり、このようにコラムで書いたりしていました。
その際、セミナーを聞いた方、コラムを読んだ方のほとんどの方のリアクションは「まさか! あのイギリスが!」といったものでした。
ところが実際に蓋を開けてみれば…といった「まさか」が起きてしまったのです。
2017年も重要なイベントがめじろ押しの欧州
さて、年が明けて、今年2017年は、引き続きというか去年以上に欧州にとって、イベントが盛りだくさんの一年です。
・ 4月のフランス大統領選挙
・ 国民議会選挙
・ 9月のドイツ総選挙
・ ギリシャの債務危機再燃
・ イタリア大手銀行の不良債券問題など
EUと欧州、さらには世界の今後を占ううえで重要なイベントやポイントがめじろ押しです。
特に、立て続けに行われる選挙の結果次第では、再びEU離脱、ポピュリズム(大衆迎合主義)、保護主義という「ドミノ倒し」が起こる可能性も否めません。
吹き荒れるポピュリズム旋風
昨年は、言及してきたように、イギリスのEU離脱が決まりました。
また、11月には米国大統領選挙で、ドナルド・トランプ氏が勝利しています。
12月にはイタリアで、上院の権限を大幅に縮小する(=首相の権限を強化する)憲法改正案の是非を問う国民投票が実施されたものの否決され、レンツィ首相が辞任したのは記憶に新しいことでしょう。
これらの背景には、いずれもポピュリズムと保護主義が台頭していることがあると考えられます。
3月のオランダの総選挙では誤ったポピュリズムに待ったをかけましたが
今年3月に行われたオランダの総選挙では、「反イスラム」や「反EU」を掲げる極右ポピュリストの自由党(PVV)が、第一党に躍り出ると見られていましたが、ふたを開けてみれば自由党は議席数を選挙前の12から20へと伸ばしたものの、第一党には届きませんでした。
連立与党の自由民主党のルッテ首相は「オランダ国民は誤ったポピュリズムに待ったをかけた」と語りましたが、実際のところは、自由党(PVV)の躍進ぶりをみただけでも潜在的なポピュリズムの勢いは止まっていないと思われます。
ブリグジット=「英国のEUを離脱」ならぬ、フレグジッド=「フランスのEU離脱」は起こるのか?
ここから今回のコラムの本題です。
やはり、今年の大きな山場はフランス大統領選挙だと考えているからです。
フランスといえば、アメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリスに次ぐ世界第5位の経済大国であり、EUの前身であるECC(欧州経済共同体)の原加盟国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、フランス、イタリア、西ドイツ)です。
その大国フランスは、以前、2008年のリーマショック、2010年の欧州金融危機以降、イギリスやドイツに比べて景気の回復が出遅れていました。
2012年の大統領選挙では、「悪化傾向にあった失業率を改善し、経済を上向かせる」ことを公約に掲げた社会党のフランソワ・オランド氏が当選したものの、フランス経済は低迷が続き、失業率も高止まりしたままで、オランド大統領の支持率も低迷しました。
そのなかにあって、「EUからの離脱(フレグジット)や難民、移民の制限」などを掲げる極右政党、国民戦線の党首、マリーヌ・ルペン氏が支持率を拡大しています。
まさにポピュリズム旋風の追い風が吹いているといったところでしょうか。
EUからフランスが離脱する可能性は大きいものではない
フランスの大統領選挙は、4月23日の1回目の投票で過半数を獲得する候補者がいない場合、5月7日に上位2名による決選投票が行われます。
調査会社エラブが発表した(本コラム執筆中の3月時点の)世論調査では、第1回投票で、政治運動「前進!」を率いる中道系独立候補のエマニュエル・マクロン前経済相の得票率が25.5%と、ルペン氏の25%を上回ると見られています。
決選投票では、マクロン氏の得票率が63%、ルペン氏が37%と予想されています。
よって、事前コンセンサスでは、ルペン氏が大統領になる可能性や、EUからフランスが離脱する可能性は大きいものではありません。
いずれにしても目が離せない欧州
しかし、昨年のブリグジッドのようなことも十分ありうることも念頭においておかねばなりません。
もしも、(先述の通り、アメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリスに次ぐ世界第5位の経済大国の)フランスが、EUを離脱などしたら、EUそのものの存続も怪しくなる可能性すらあります。
いずれの結果になっても、当面欧州でポピュリズムの嵐が吹き荒れることは必至であり、その後に控えるドイツの選挙やその他南欧の国々の問題など、引き続き注意深く見守りたいと思います。(執筆者:阿部 重利)