中国からの資金流出が激しさを増している
2016年一年間の中国国内から海外への資金の流出額から流入額を差し引いた金額は3,000億ドル(約35兆円)を超えて前年に比べて6割ほど増加している。
人民元が昨年に続いて対米ドルで下落しているということが大きいという。
資金逃避(キャピタルフライト)という言葉で語られることも多いこの流れからは経済成長の曲がり角に立った中国から富裕層が雪崩を打って逃げ出しているという印象を与えがちである。
中国人が国内のバブル崩壊が近いことに危惧を感じているとか自国の通貨の人民元を信じていないとか、それは確かに間違っていない。
しかしこれは中国人のリスクに対する敏感さと投資嗅覚の鋭さの裏返しでもある。
実際中国本土の人が海外に資金を送って投資をする流れは今に始まっただけではなくここ10数年ずっと続いているのである。
人民元が過大評価されているうちに資産を海外へ分散
香港の不動産価格が2004年頃からこれまでに約3倍の水準に上昇しているがこれには中国本土からの個人投資が大きく影響している。
平たく言えば中国人が香港の不動産を買い漁った結果だ。
これは最近のオーストラリアの不動産価格の高騰にも同じことが言える。
アメリカの某大手保険会社の香港支社を訪れれば土日にも関わらずロビーは本土から訪れる契約者でごった返していた。
基本的に中国本土から海外への送金は5万ドル(USD)相当金額が上限と規定されている。
すなわち中国から海外にお金を出すのは日本からそうするよりずっとハードルは高いのである。
にもかかわらず彼らは国内が実態とかけ離れたバブルに沸いている今のうちに、人民元が過大評価されている今のうちに、と資産を海外へ分散している。
自分と家族の生活を守るために高いハードルを超えて果敢に動いているのである。
これは一党独裁という不透明、不確実な政治基盤の上にある国の国民として極めて経済合理的な行動だ。
日本人にはまだまだ敷居が高い「海外投資」
一方で我々日本人は自国の経済や自国通貨である日本円にはまだ安心感が強いようである。
1ドル=360円で固定されていた日本円は1973年に変動相場制に移行し、対米ドルで上昇を続けていたが1993年3月に1ドル120円台に突入した辺りを転機に1ドル80円から130円のレンジ相場にあると言える。
この286か月間、月平均で130円を下回ったのは10か月、80円を上回ったのは14か月なので実に9割以上の時間を1ドル80円から130円で過ごしてきたことになる。
結果論であるかもしれないが過去23年間80円台から110円ぐらいで自動的に外貨あるいは海外資産に投資していれば利益(※少なくとも為替差益)を手にできているはずである。それを皆さんは実行していただろうか?
日本のグローバル企業になっている会社はきっちりやっていた「投資活動」
実は2017年1月時点で日本の会社が生き残ってグローバル企業になっているのはこれをしっかりやってきたからである。
かつて低コストで良い製品を提供する世界の工場として大きな成長を遂げてきた日本企業は人件費と日本円の高騰で岐路に立たされたが、為替が上昇する度に逆に高くなった日本円を持って人件費の安い海外の国で土地を手に入れて工場を建てたり、現地の会社を買収したりしていたのである。
その地道な投資活動のおかげで今では日本のGDPに対する輸出依存度は高騰した人件費と背景に10数%まで下がっているにもかかわらずトヨタやキャノンやソニーなどは世界的なブランドして生き残っているのである。
「法人」と「個人」やるべきことは同じなのだが
実は規模こそ違え法人でも個人でも日本人が海外投資に関してやるべきことは同じなのである。
中国企業の海外直接投資額は10数年連続で拡大の一途にあり、2015年にはアメリカに次いで世界2位の日本に肩を並べるまでになっている。
中国に企業と個人の海外投資伸びはだいたい同じようなカープを描いている一方で、日本の個人投資家の危機感とリターンに対する鋭敏さが日本企業が持っているそのレベルには足りないと感じるのは私だけであろうか。(執筆者:玉利 将彦)