元気なうちにしかできない「相続対策」があります
「相続についてご相談をお受けします」というお話をすると「うちにはもめるほど資産は無いから」とまるで人ごとのような返事が返ってくることがたびたびあります。
「まだまだ相続なんて考えるのは早い」とお考えの方はおそらく相続のことを私に相談しようとも考えないでしょう。
「相続対策」と「相続税対策」は違います
相続において、最も大切なことは
でしょう。多くの人にとって異論はないと思います。
ところが、いざでは具体的にどうすれば揉めずに相続できるのか、ということを考えるとこれが結構難しい。
平成27年から下がった相続税の基礎控除
相続税の基礎控除が平成27年から下がったことはご存知の方も多いと思います。
増加する相続税の納税義務
全国でおよそ130万人が毎年亡くなられます。
平成26年(基礎控除が下がる前)に亡くなられた方のうち、相続人に相続税の納税義務が発生した件数は約4.4%でしたが、平成27年(基礎控除減額後)に亡くなられた方の中では約8.0%に増えました。(2016年12月国税庁発表)
この数字は全国の数字ですから、東京をはじめ大都市圏に不動産をお持ちの方が亡くなられた場合の相続税を納付する割合は間違いなくこれより多いものと推測されます。
何が相続を難しくするのか
相続を難しくしている原因の一つは「核家族化の進行」だと思います。
以前は親が住んでいた家に子供の家族が同居しているというケースも多々ありました。ところが、現在はお子様が独立して家を出ると帰ってこない、というケースが多くなっています。
同居していればその子が相続するのが自然、という感じになりそうなのは想像に難くありませんが、お子様はみんな別々に暮らしているとなると、誰が相続するのかで揉めそうです。
ひょっとしたら全員が「いらない」ということもあるかもしれません。
また、介護などが必要になり、お子様のうちの一人が特に手厚く介護を行っていたような場合には「寄与分」(=ほかの人より被相続人の資産形成に寄与した割合の多い人)についての争いもあります。
実際に亡くなられた方と一緒に事業をしていた兄弟がいて、
という場合には「寄与分」は認められやすいものの、介護などは資産形成には直接は影響していないことが多く、「寄与分」は評価されにくいといいます。
「平等」の落とし穴
「兄弟で平等に分けてくれ」
という遺言も危険です。相続財産がすべて現金なら単純ですが、実際に相続が発生した時のおよそ半分は不動産(土地と建物)です。
「自宅が資産の大半を占める」という場合には容易に分割できませんし、不動産を共有で相続するというのは後で殆どの場合揉める原因になりますのでお勧めできません。
第1段階 資産の把握から
相続でもめないようにするためにまずすべきこと。それは「自分の資産の全容を把握すること」です。
なかなか本人以外には把握するのが難しく、亡くなられた後に残された人たちがこの調査から始めたら相当な時間と手間を要します。
相続が発生(厳密には被相続人が亡くなったことを知った時)から相続税の申告・納付期限までは10か月あります。
しかし相続放棄や限定承認(相続財産のプラスと借金などのマイナスを相殺してプラス部分だけを相続する)の申告は3か月以内です。
預貯金をはじめとする金融資産、不動産、その他金銭的価値に置き換えられるものは全て相続資産になり得ます。
保険などもそのうちの一つですし借金も含めてです。これらの把握ができなければ「相続放棄すべきなのか、限定承認すべきなのか」の判断もつきません。
第2段階 「相続しやすいように」しておく
資産の全容を把握したら次は「相続しやすくしておくこと」が必要です。いわゆる生前対策のひとつです。
土地を分割しておく
たとえば、不動産を相続するにしても大きな土地ですと分割してそれぞれ別の人たちが相続するほうが活用するにも処分するときも楽です。
ところが、生前に分割しておかないとどこで「分割するか」でも揉めてしまいます。敷地の境界がはっきりしていないとそもそも財産の特定ができないということもあります。
名義の所有権を確認
「亡くなられたご先祖の名義のまま所有権を変更する登記をしていなかった」などとなるとその前の相続にまでさかのぼって相続人と協議し了解をとらなければいけない、などということも起こり得ます。
どこにいるのかわからない、連絡の取れない親戚というのも年を追うごとに増えてしまいますので、自分がわかるうちにできることはしておいて次の世代に面倒は引き継がないための作業が必要になります。
対策は早すぎることはない
これらのことはご自身が元気な時にしかできません。
かなりの労力がかかる場合もありますし、もし認知症にでもなってしまったらそもそも有効な遺言書が書けなくなってしまいます。
相続について考えるとき、「まだ早い」はないと思います。今自分が死んだら誰が相続するのか、どう相続するのかについて考えておくことをお勧めします。試しに「遺言書」書いてみませんか?(執筆者:西山 広高)