新年あけましておめでとうございます。
2016年を振り返ると、多くの人が「波乱」の年と表現しているように、予想を覆す出来事がありました。
「アメリカ次期大統領にトランプ氏が選ばれたこと」
この二つは、世界中に大きな衝撃が走りました。
イギリスにとって得策ではないと思われていた欧州連合(EU)離脱が現実となり、過激発言で大統領の資質が問われているトランプ氏をアメリカ国民は大統領に選びました。大きな時代の変化を感じさせる出来ごとでした。
これらは、今後の世界に何をもたらすのでしょうか…
今年最初のコラムは、2017年はどうなるか、想像される世界を考えていきます。
post-truth(2016年のイギリスの流行語大賞)
世界最大の英語辞典であるオックスフォード英語辞典は、2016年を象徴する「今 年の単語(ワード・オブ・ザ・イヤー)」に、形容詞「post-truth」を選んだと 発表しました。
意味は「世論形成において、客観的事実が、感情や個人的信念に訴えるものより影響力を持たない状況」としています。
この言葉は、イギリスの欧州連合(EU)離脱や米大統領選を報じたり論評したりしたメディアやブログの中で多用されました。
使われた頻度は、昨年の20倍以上で、「ポスト・トゥルースの政治」という組み合わせでよく使われたようです。
国民感情の奥には深い闇がある
オックスフォード英語辞典のキャスパー・グラスウォル代表は、「情報源としてのソーシャルメディアの台頭と、エスタブリッシュメント(既得権層)が示す事実への不信の増大が概念の土台になっている」と分析し、紹介されています。
移民政策への不満
どうしようもない格差…
国民感情の奥には深い闇があるようです。
欧米において、これら諸悪の根源を移民政策に振り向けました。
ひとつのヨーロッパを目指したEU、そのEUに巨額の資金を提供しているイギリスが、 移民受け入れによりイギリス国民自身の首を絞めることになりました。
高まってきた「保護主義」という思想
アメリカ国民は、「移民により職場を奪われたことで貧しくなった、移民が自分たちの生活を奪う…」
そういう構図が出来上がってきたようで、それが保護主義という、自分たちのことだけを考えればよい、人のことなんてかまってられないという思想につながっているようです。
この流れの行き先は、民主主義とは何か、資本主義とは何かの問いにぶつかっているようで、 中国習近平国家主席や露プーチン大統領はこの期に乗じて存在感を増してきているようです。
「post-truth」…感情を優先した結果、世界がどう変わるのかを見定める一年となりそうです。
イタリアの銀行における不良債権問題が深刻なEU
昨年末、イタリア第3位の大手銀行モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナが増資に失敗し、イタリア政府が最大200億ユーロ(約2兆4,500億円)を注入する方針を発表しました。
この決定は、他の銀行もそれに続く可能性が出てきたことを受けてのことだと政府は説明しています。
1930年代以降イタリアで最大規模となるモンテ・パスキの国有化後には、ベネト・バンカとポポラーレ・ディ・ビセンツァなども救済の対象となる恐れがあると報じています。
イタリアの銀行の不良債権処理について
イタリアの銀行は巨額の不良債権処理に苦しんでいます。ヨーロッパ発の金融不安の火種となりそうなぐらいの深刻な話です。
イタリア銀行の不良債権処理において、「ベイル・イン」の方法がとられるかどうかです。
「イル・イン」とは、銀行内部で問題を処理することです。
それは預金者や投資家が責任をかぶること、すなわち、預金を取り上げて銀行を救済するわけですから、預金封鎖という事態が起こります。
これに対して「ベイル・アウト」は、政府等が資金を投入する方法で、これはこれで国民の反感を買うことにもなります。
イタリア一国では処理しきれないでしょうから、当然ECB等の助けを借りることになり、それはドイツが資金援助することに等しく、ドイツ国内では、移民受け入れとともに、かなりの反発があると予想されます。
どっちに転んでも大問題ということです。
この状況下で、イタリアでもEU離脱の動きが見られています。
先ほどの「post-truth」で、イタリアがEU離脱をして生き延びることができないという事実がありながら、感情が先走る行動に出た瞬間に、欧州株式市場大幅下落、ユーロ暴落という、欧州発金融不安が世界を巻き込むことになりそうです。
昨年末の国民投票で負けた現政権が倒れ、新しい政権を選ぶことになりますが、現野党連合は、EU離脱を支持している勢力なのです。
欧州で台頭する極右政権
「移民排斥」、これが極右政権の旗印です。その結果、欧州連合(EU)離脱につながることが考えられます。
昨年オーストリア大統領選挙では、辛くもリベラル派が勝利し、極右政権樹立はなりませんでしたが、今年は多くの選挙が控えています。
イタリア以外にも、オランダ総選挙、フランス大統領選挙、ドイツ連邦議会選挙があります。
フランスでは極右国民戦線のマリーヌ・ル・ペン氏の勢いがあるようで、ドイツでも移民受け入れ反対勢力が結集していて、メルケル首相の立場も微妙になってきています。
そして、いよいよイギリスの欧州連合(EU)離脱手続きが行われます。
リベラル派最後の砦である独メルケル首相が陥落すれば、もうEUそのものの存在も危うくなります。
その移民受入れに積極的なメルケル首相も、昨年末のクリスマス市にトラックが突っ込むテロが起きて、旗色が断然悪くなってきました。
極右勢力がどこまで出てくるのか、2017年は政治リスクが付きまとうマーケットとなりそうです。
2017年の世界の政治イベント
2017年の政治イベントをまとめておきます。
1月20日 米トランプ大統領就任
1月 イタリア解散総選挙
3月15日 米連邦債務法定上限引き上げ期限
3月15日 オランダ総選挙
3月末 イギリスEU離脱交渉開始
4月23日~5月7日 フランス大統領選挙
秋ごろ ドイツ連邦議会選挙
アメリカではトランプ大統領就任
1月20日、いよいよアメリカではドナルド・トランプ氏が大統領に就任します。
100日間はハネムーン期間と呼ばれ、マスコミも、政権に対して厳しいことは書かない時期になります。
この間にトランプ次期大統領が行う政策「100日行動計画」を整理してみましょう。
「100日行動計画」は2つの期間に分かれています。
就任初日に実行する項目
・ NAFTA(北米自由貿易協定)再交渉または脱退
・ 中国を「為替操作国」に認定
・ 犯罪歴のある200万人以上の不法移民を強制退去
・ テロ発生地域からの移民受け入れ停止
・ 連邦議員の任期を制限する憲法改正提案
100日以内に立法する項目
・ 10年で1兆ドルのインフラ投資
・ 4%経済成長率 2500万人の雇用創出
・ 企業の海外移転阻止の関税設定
・ オバマケア(医療保険制度改革)の廃止
・ メキシコに費用を負担させ国境に「壁」建設
ここまでのマーケットで、すでに法人税率引き下げの要素は織り込まれていると思われます。
法人税減税は、企業収益を増やすことになりますから、株価は上昇しますね。
10年で1兆ドルのインフラ投資を行うことで、アメリカはインフレになるとマーケットは見込み、米長期金利を押し上げ、その結果、ドル高を呼び込みました。
「4%経済成長率、2,500万人の雇用創出」に関しては、具体的な政策が待たれます。トランプ氏は雇用を生まないIT企業を嫌っていますが、アメリカの経済を支えていることも間違いありません。
「ラストベルト」と呼ばれる工業地帯の復活は、そう簡単にはできるものではないでしょう。
ドル安政策は不可欠だか…
自国産業復活のためには、ドル安政策は不可欠です。
ここまで強くなり過ぎたドルに対して、どこかで、ドル高けん制発言が飛び出すのではないかと思われます。ドル安誘導です。
トランプ氏の天敵(?)のメキシコでは、大統領選でトランプ氏勝利となった直後にメキシコ・ペソは、対ドルですごく安くなっています。この状態をトランプ氏が放置しておくとは思えないのですがね。
100日実行計画においても、中国を為替操作国に認定すると公言しています。
おそらく日本にも何らかの圧力をかけてくると思われます。トランプノミクスによる円安もここまでではないかと思われます。
「企業の海外移転阻止の関税設定」にも賛否両論があり、NAFTA(北米自由貿易協定)からの脱退も非現実的と言われています。
マーケット高騰のまき戻しも予想されている
トランプ次期大統領の手腕が問われ、その内容いかんで、ここまでのトランプラリーといわれるマーケット高騰のまき戻しも予想されます。
実際にトランプ氏が行動を起こすことで、マーケットはどう判断するのか、そのたびに見定める必要があると思われます。
アメリカの政策を見る上で重要なのは、個人消費に対してどんな政策が出るのかです。個人消費が上がってこない限り、本格的なアメリカ経済の復活はありえません。
トランプ次期大統領が、個人消費を押し上げる政策を打ち出せるかどうかです。
車の販売状況、住宅の売れ行き、中古住宅の価格、住宅ローン申請件数、失業者数、そして雇用統計などは、これら個人消費を裏付ける指標が上がってくることが、とても重要になってきます。
富裕層であるトランプ氏に、個人消費を上げる政策は打ち出せるのか。本当のトランプノミクスが試される2017年になりそうです。
暴言が話題となりましたが…
トランプ氏に関しては暴言が話題となりましたが、おそらくそれは選挙用の顔で、実業家としてのリアリズムの立場を取るとするなら、実際に政権運営においては、暴言を引っ込めるのではとも言われています。
ただ、政権の顔ぶれを見ると、かなり右よりの政権であることは間違いありません。
昨年までは暴言ですみましたが、今度は実際に行動を起こす「暴動」になるのではという心配もあります。
そうなるとマーケットは実際のトランプ氏の行動をどう判断するか、わからなくなってきてしまいます。
政治経験のない実業家がどこまでやるのか、今までの発言どおりに行うのかどうか、まさに手探りで見極めながらのマーケット展開となりそうです。
トランプ・リスクはこれから顕在化されるのではと、個人的には思っています。
中国、ロシアの存在が気になります
アメリカが保護主義に走る、他国のことよりも自国を優先する間に、中国が虎視眈々と世界制覇を狙ってくるのではないか…なんてことが頭をよぎります。
AIIBに、米トランプ氏は実業家としての観点から参加するのではないか。
アメリカはビジネス面で中国とは手を組みたいと思っているから、為替操作国認定しながらも、同時に中国に擦り寄る二枚舌外交になるのではとか、いろいろ考えてしまいます。
太平洋をアメリカと中国で二分するなんて話し合いがふたたび浮上してくるのではとも思いますね。
中国は?
中国は、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を強力に推し進めることも予想されます。TPPに変わる新しい枠組みにRCEPを持ってくるのでしょうか。
東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、東南アジア諸国連合加盟10か国に、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの6か国を含めた計16か国でFTAを進める構想です。
ロシアは?
プーチン大統領は、トランプ次期大統領にはシンパシーを感じえているようで、日本をアメリカとの緩衝材にする予定が、その必要はないと日本との交渉態度を硬化してきたとも取れます。
日本のアジアでの立ち位置が微妙になってきて、正直、安倍総理は思惑違いで、かなりあせっているような気がします。
米中露三国で世界を取り仕切る構図となり、EUはそれどころではなく自分のところで手一杯、日本は完全に蚊帳の外という気がします。
中東でのロシアのポジションを固めようとしています。
アメリカに見限られたサウジアラビアもロシアに接近しています。
中東での地図が塗り替えられようとしています。
2017年の世界は、まさに、中国とロシアの二国の動きに注目です。
わが日本はどうなる
安倍総理の思惑は完全に外れたという印象です。
露プーチン大統領を山口県に迎えた時の表情は硬く、その前の、プーチン大統領訪日を決めたときとは全然違いますね。
おそらく北方領土2島返還は、おおむね決まっていたことだったのかもしれません。アメリカで次期大統領にトランプ氏が決まったところで潮目が変わったような気がします。
アメリカ大統領がクリントン氏だったらロシアは日本というカードを必要としたことでしょうが、トランプ氏になれば、何も日本に気を使う必要はなくなります。
対露強硬派のクリントン氏と親露(?)のトランプ氏では、交渉の仕方が、全然違いますからね。
2島返還に真珠湾訪問で内閣支持率を上げてから1月解散…というシナリオも微妙になってきたようです。これで解散をするならは都議選後、秋になりそうですね。
都議選があります
今年は、公明党にとって国政よりも重要視している都議選がありますからね。
しかし、その公明党等の関係もギクシャクしてきています。
小池旋風に乗ろうと都議会では、公明党は自民党と袂を分かちました。
公明党にとっては都議選が大事です。なんとしてでも都議選は勝たなければならないという表れでしょう。
折り合いをつけていた自民党と公明党ですが
憲法改正を認める代わりに軽減税率を導入することで折り合いをつけていた自民党と公明党ですが、消費増税延期で、結局は憲法改正だけが残ったことになり、カジノ法案にも慎重な公明党としては立場がないわけです。
特に、創価学会婦人部にカジノはかなり評判が悪く、公明党としても、このまま自民党と組んで憲法改正やカジノ法案に積極的な姿勢は見せられないということでしょう。
ただ、完全に自民党の補完勢力となっている日本維新の会が、自民党に急接近していて、公明党を引きずり回している感じがします。
このまま今年は政局になるのでしょうか。そうなるとマーケットも混乱しそうです。
TPPが壊滅状態で、アベノミクス第三の矢である成長戦略にかなりの黄色信号がともりました。
ここまでの株価上昇は、トランプラリーによるもので、円安が作り上げた日本株高です。アベノミクスは金融政策だけで黒田バズーカ以外には何もないというのが、海外投資家の判断のようです。
2017年は「政治」がテーマ
日本では衆議院解散も気になりますが、特に欧州の選挙は重要です。為替市場が荒れる展開が予想されます。
ただ、Brexitで経験しましたので、ポジション取りはかなり慎重になると思われます。
証券会社関係者は、業界都合でかなり強気の予想を出していますが、今年は荒れる相場展開は覚悟かもしれません。円安はここまでかな。
とにかくマーケットとの対話が特に重要になってくる一年かと思います。投資戦略としては、損切りラインを明確にして、とにかく利益確定をこまめにするのが良いでしょうね…。(執筆者: 原 彰宏)