アンバランスな社会保障制度
社会保障負担の増大が進み、今後ますますバランスを欠くことが確実な中、今、社会全体でその「解」を求める活動を進めなければいけない状況に来ています。
12月19日の日経新聞一面に掲載された記事では、1961年時点では65歳以上の高齢者を8.19人の現役世代で支えていたが、現在ですでに1.86人で支える構造、2030年には1.65人まで下がるとしています。
問題となる社会保障費は主に「医療費」と「年金」です。
個人レベルでの対策には限界も
医療保険に関して
われわれFP(ファイナンシャル・プランナー)がクライアントに「医療保険」に関するアドバイスをするとき、必ず「高額療養費制度」について言及します。
保険治療を受ける限り、健康保険加入者はその負担額に上限があります。
上限額を理解し、なお負担となる医療費について医療保険で備えるように付保額をコントロールするようにアドバイスすることになります。
年金に関して
「年金」についてもそうです。
FPは、将来自分や家族が生活するために必要な生活費を算出し、受け取れる年金額を差し引いて不足する部分を老後資金として蓄積する必要があると説明します。
年齢を重ねるごとに健康上のトラブルも増え、収入は減少する可能性が高まります。将来に備える老後資金の確保のための資産形成活動は早く着手すればするほど効果があります。
さらに、ある年齢時(例えば、65歳で会社をリタイアするとき)にいくらの資産があれば、その後の生活で苦労しないで済むか、をシミュレーションし資産形成の目標額を定めます。
個人レベルであれば、このようにして対策をするしかありません。
揺れる社会保障制度
しかし、今その根本を成す社会のシステムが揺れています。
高齢者が増え、医療費は増大。その多くが「高額医療費制度」により賄われていますので、当然、その原資を支出している現役世代の負担は重くなっていきます。
ただでさえ人数が少ないうえに、一人当たりの医療費の額も増大しているので、先述の高齢者を支える現役世代の人数の割合以上に現役世代の負担は増大していくことになります。
年金システムはもともと積み立て方式で設計されましたが、いつしか賦課方式に移行し、現役世代が支払った年金は受給者への支払いの原資となり、今の現役世代が将来年金を受給するための原資は確保されていません。
先日、年金改革法案が可決され、年金の支給額は物価ではなく現役世代の賃金の水準で調整される方向となりました。
年金制度を維持しようとすれば当たり前で、民主党や共産党が「年金カット法案」と揶揄し、反対したもののまともな対案は出せませんでした。
医学の進歩による高齢化進行のジレンマ
医学の進歩とともに高齢者の寿命は伸びています。
今、治療を受けている高齢者の中にはすでに自らの力だけでは命をつなぐことができず医療機器につながれ、多額の医療費を使い、意識もないまま命だけを長らえている人もいらっしゃいます。
「尊厳死」などに対する扱いや、回復の見込みがない患者への「延命治療」については様々な法的解釈などもあり、また人道的な面でも議論があるところではあります。
社会全体を見据えた「マクロ的視点」では、患者を数日、数週間延命することだけを目的に行われる医療行為は見直すべき、行うべきではない、と考える人も多いと思います。
しかし、それがいざ自分の身内のこととなると、たとえ少しでも長く生きていてくれるのであれば延命してほしいと考えてしまいます。
人の命を人の手で奪うことは許されませんが、人為的に「死なせない」ための医療行為を行うことは様々な弊害を産んでいるというのもまた事実でしょう。
社会保障制度の改善は進むか
この社会保障制度を改善していくために、どんな社会保証を優先すべきか、どの世代の負担を増やすべきか、といった検討が様々なところでされています。
状況は待ったなし。このままでは現行制度を維持できないことはもちろん、年を追うごとに状況は悪化していくことは明らかです。
「次の世代に負担を先送りしない」といいつつ、今の制度下では高齢者世代が若い世代から吸い取り続けています。
一方、制度改革は国会を中心に行われます。
日本では議会民主政治で行われ、議員を国民が選挙で選ぶ。高齢化が進んだ今の世の中では、選挙権を持つ(年金を受給している、医療費の補助を受けている)高齢者の意向が色濃く反映されます。
今後打つべき年金制度改革や医療費改革などの制度はどれも高齢者への負担増を伴うものにならざるを得ませんので、総論では「仕方ない」と思いつつ、現実的には「でも自分の生活が大事」となる。
結果、この改革を声高に謳うと次の選挙でその政党や議員の支持率は落ち次の選挙が苦しくなってしまう。
だからこそ、ねじれがなく総理大臣の支持率が比較的高い今の政治状況下で、たとえ強行採決になったとしても力強く改革を進めていかなければならないと思います。しかしそれも限界があるでしょう。
不透明な将来、自分の将来を真剣に考えましょう
年金支給額の減少や支給開始年齢の高齢化、医療保険の今後の動向等に注視しましょう。
個人レベルではギリギリの将来計画ではなく、余裕を持ったライフプランニングをすることで不透明な中でも安心できる将来計画を考えておくことが必要だと思います。
我々の先輩世代では何とかなった老後が、これから老後を迎える世代では何ともならないかもしれません。
準備してますか?(執筆者:西山 広高)