

手術の説明のあとに渡される同意書には、家族の署名欄が並んでいることがあります。ひとり暮らしで頼める家族がいない人は、そこで手が止まるでしょう。ですが厚生労働省が示すガイドラインは、医療について決めるのはまず本人だという考え方に立っています。家族の欄が空いていても、手術に同意するのは説明を受けて判断できる本人です。
ひとり暮らしの60代女性が、同意書の家族欄を前に立ち止まった
「手術の説明はよく分かりました。でも、この家族の欄に書いてもらえる人がいないんです。」ひとり暮らしの60代の女性は、医師から手術を勧められたあと、同意書を見て言葉に詰まりました。本人の署名欄の下に、家族の署名欄が続いていたからです。
頼れる家族は近くにいません。そもそも手術に同意するのは誰なのか。答えは、厚生労働省が医療機関に向けて示した考え方の中にありました。
説明を聞いて決めるのは、判断できる本人自身
厚生労働省は、医療機関や医療関係者が身寄りがない患者にも必要な医療を提供できるよう、ガイドラインと事例集を作成しています。ガイドラインは令和元年6月3日付の通知で医療機関への周知が求められ、家族の支援が得られない人なども対象になりうると想定しています。
その中心にあるのが、本人による意思決定です。厚生労働省のガイドラインが基本に置くのは、医師などから適切な説明を受けた本人が、自分で決めることです。判断能力がどの程度かは問わないとしています。医療行為への同意は本人の一身専属性がきわめて強く、身元保証人ら第三者にその権限はないと考えられる、とも述べています。
令和4年8月に示された事例集は、本人の意思が明確であれば家族の同意はなくてよいと考えられる、という法的な見方を示しています。本人に判断能力があるのに本人へ説明せず、家族の同意だけで行った治療は不法行為が成立すると考えられる、とも指摘しています。
本人の意思が確かめられない場面では、医療・ケアチームが最善を探る
気になるのは、手術の前後に判断が難しくなったときです。このガイドラインは、普段は判断能力が十分な人でも、病気や環境の変化によるストレスなどで一時的に意思決定能力が下がることがあると指摘します。本人の意思がつかめないときは、医療・ケアチームや関係者がともに、慎重に方針を決めるべきだとしています。

話し合った内容はその都度文書にまとめておくものとされ、直ちに救命措置が必要な緊急の場合は柔軟に対応するとされています。本人が書き残した希望を尊重することも考えられる、という記述もあります。
家族のサインより先に、事情と希望を病院へ伝えておく
手術の同意は、説明を受けた本人が自分で決めるのが基本です。家族欄が埋まらないときは、署名の前に病院の相談窓口へ事情を伝えましょう。治療について望むことを書き残し、信頼できる人にも伝えておけば、判断が難しくなったときに本人の意思を推し量る材料になります。
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