以前、筆者が対応した50代夫婦の相談者は、年収1,000万円の収入がありました。
ただ、その夫のお小遣いは「毎月20万円」と聞き、その額に耳を疑いました。
その年収に対する手取り額は、一般的に約720万円とすれば、毎月の家計収入は60万円となります。つまり、毎月のお小遣いは、手取り収入の実に3割を超えています。
また、その相談者の資産状況は、預貯金のみ800万円でした。このままでは、将来、親の遺産や臨時的な特別なお金が入らない限り、老後破綻に陥る可能性が大きいといえます。
これは改善の余地が大いにある極端なケースですが、家計支出の配分を完全に間違えている典型的な事例です。
毎月の収入には限りがあります。後は、どうやって支出を他の項目に配分していくかです。
ここでは、支出項目のいくつかを取り上げ、その削減および配分の可能性を探っていきます。
家計の三大支出である教育費
教育費は、ライフスタイルや家族構成によっても異なりますが、家計を占める資金負担が大きく、それに子育て費用も加わるので子の人数によっても大きな出費となります。
子供一人が幼稚園から大学までかかる※1教育費(塾やお稽古事も含む)は、たとえば、「全てを公立で大学が自宅通学の場合」約1,000万円、「全てを私立で大学が自宅通学の場合」約2,600万円です。
「公立」と「私立」の選択や組み合わせによっては、費用負担額も大きく異なってくるので、家計の状況に応じた進路設定が必要になります。
教育費を削減する方法には、奨学金制度があります。この制度のなかには、世帯収入の基準や学習意欲等の条件付きですが、返済不要の(給付型タイプ)の奨学金もあるので、利用できれば、入学金や授業料などの支出が抑えられます。
また、自宅通学以外の場合は、これもいくつかの条件付きですが、大学の学生寮や県人寮などの施設を利用する方法もあるので、親の仕送りの負担軽減も図られます。
教育に関する支出は、多額なだけに、今から教育にかける費用配分と家計のバランスを見据えたマネープランをしっかり立てておくことが大事です。
マイカーの所有にかんする支出
マイカーの維持費は、家計の大きな支出項目の一つです。
車は、一度購入したらガソリン代や修理費などのほか、仮に全く利用しない場合でも、ローン、税金、保険、駐車代、車検など、数々の付随費用が万単位で継続的に発生してきます。
したがって、「車がないと生活に支障をきたす」という理由で車を所有している場合においても、現在、負担している費用については、「排気量の少ない車へのシフトダウン」や「自動車保険の見直し」など、コスト削減が可能かどうかを一度見直す価値が十分にあります。
また、「利用頻度が低い」「あれば便利」などの理由で車を所有している場合においても「マイカーを持たない」または「近場の移動はタクシーやカーシェアの利用、遠出の移動にはレンタカー等で代用する」などを見直しすることで、かなりのコスト削減は十分に図られます。
マイカーを所有することによって負担する経費はどのくらいか、仮に、普通乗用車タイプで、毎月5万円とした場合は、1年間で60万円の支出が発生する計算です。
この節約する効果を想像してみてください。累計額は、単純計算でも10年600万円、20年1,200万円、30年1,800万円と資産が大きく積み上がります。
通信費にかんする支出
通信費のなかでは、スマホが家計の見直しの定番となっています。
「キャリア系スマホに特にこだわらない」場合は、割安な端末の購入、無料通信アプリの利用、安い料金プランの移行、格安スマホ(格安SIM)に買い替え等の見直しによって、通信費は大幅に節約が図れます。
食費にかかわる支出
総務省の※2家計調査によると、2024年8月、1か月の食費(外食含む)は、2人以上の世帯(平均世帯人数2.9人)で9万6,744円でした。
この支出額は、自分の家計と比べてどうでしょうか。もし、高い場合は、食費の見直しが必要かもしれません。また、低い場合は、節約の効果がでているかもしれません。
また、自分の家庭の生活水準は、どの程度かを見る指標があります。それは、「※3エンゲル係数」です。
この係数は、1か月の消費支出(税金や社会保険料などを除いた生活費)に占める食費の割合のことで、この値が高いほど「生活水準が低い」つまり「貧困化」を表す指標でもあります。
この係数の理想的な値は、20%前後とされています。日本の今年2024年8月のエンゲル係数は約30%でした。この状況は、円安と消費者物価の上昇により更に右肩上がりの傾向が続いており、G7の各国の中で最も高い水準です。
これら2つの調査数値は、食費の見直しを検討する場合において、自分の家計の参考になるでしょう。
ただ、食費は、健康的な生活を送るために必要な一番大切な支出です。
極端な食費の切り詰めは、将来健康を害する要因となるため、仮に、見直しが必要な赤字家計の場合においても、食費は、節約の優先順位を後にすべきです。
以上、上で取り上げた費用項目は、ほんの一部に過ぎません。
この他にも、たとえば、毎日何となく買っているかもしれない缶コーヒー、お茶、タバコなどの嗜好品に使うお金は、1日わずか数百円です。
しかし、それを10年、20年と買い続けた場合、支出するお金の累計は、かなりの額になることが想像できます。したがって、そのお金を使うつもりで節約した場合は、そのお金を他の「費目」や「貯蓄」あるいは「投資資金」に振り分けることが可能となります。
節約したお金は、老後に備えた資産形成作りに優先して使うべきです。
その理由は、介護にかかわる支出が生活費以上に負担となる場合が多く、また、要介護度にもよりますが、公的介護保険では、十分賄いきれないからです。
さらに、自分や配偶者だけでなく、親に金銭的な余裕がない場合は、親の介護費用も負担しなければならないことなどが理由です。
そのためには、「自分たちの老後の”あるべき姿”を想像し、今から節約や支出の配分について、検討および実行していくこと」これにつきます。
※1教育費調査の出所:・令和3年度文部科学省の「子供の学習費調査」
・日本政策金融公庫の「令和3年度教育費負担の実態調査」
※2食費にかかわる支出:総務省の令和6年8月の「家計調査報告」
※3 エンゲル係数の出所: 同上
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