「サラリーマン増税」の言葉がインターネット上で話題になっていますが、増税の矛先の一つとして向けられたのが退職金です。
退職金が増税対象となったのは、給与よりも税制上で優遇されていることが要因とも言われていますので、今回は退職金に対する税金について解説します。
退職金に課される税金
退職金に対して課される税金は、所得税と住民税です。
所得税と住民税はその年に発生した所得に対して課される税金であり、課税対象となる退職金は、下記の計算式によって算出された額です。
<退職所得の原則的な計算方法>
(退職金-退職所得控除額)×1/2=退職所得金額
※勤続年数が5年以下など、一部の退職金には例外的な計算方法が存在します。
退職所得控除額の計算式
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
※勤続年数に1年未満の端数は1年として計算します。
9年7か月勤務した会社を退職した方の場合、退職所得控除額は400万円となりますので、退職金が400万円以下であれば退職金に対して税金は課されません。
退職所得金額に対して適用される税率は給与所得などと同じ税率ですが、退職所得は他の所得と分けて税率計算を行います。
所得税は課税所得金額が多いほど適用税率が高くなり、給与所得などは他の所得の有無によって適用税率が変わってきます。
一方、退職所得は個別で適用する所得税の税率を適用することから、他の所得を有していたとしても、適用税率が変動することはありません。
退職金は原則申告不要
一時所得などが発生した場合には確定申告が必要ですが、退職所得については勤務先が源泉徴収を行っていれば、原則として確定申告は不要です。
源泉徴収された際に源泉徴収票が交付されますので、その源泉徴収票で所得税および復興特別所得税や住民税を確認することができます。
退職金に対して税制上の優遇措置が施されている理由
退職金の税負担が他の所得に比べて軽いのは、退職金が年の勤労に対する報償的給与として一時に支払われるものであることが理由とされています。
勤務年数が長ければ、1,000万円以上の退職金を受け取ったとしても、所得税・住民税の支払いがゼロで済むこともあります。
給与所得は給与所得控除、一時所得には最大50万円の特別控除額が存在しますが、退職所得控除に比べると控除額は少額です。
また、退職所得として課税されるのは退職所得控除額を差し引いた額の半分ですので、受け取ったお金が退職所得に該当するだけで、税制上においては大きな優遇を享受できます。
退職金がサラリーマン増税の対象になった理由
今回インターネット上で「サラリーマン増税」が話題になったのは、令和5年6月16日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2023について」の中で、「退職所得課税制度の見直しを行う」との一文が明記されていたことが理由の一つと考えられます。
退職金は他の所得に比べて優遇されており、勤務年数が長くなるほど節税効果は大きくなります。。
「経済財政運営と改革の基本方針2023について」では、税制上の優遇措置が転職等への妨げになっている可能性を懸念点として掲げており、その対策として退職所得の増税に繋がることがインターネット上で危惧されています。
執筆時点においては、退職所得に関連する法律改正は実施されていませんし、今のところは改正される見通しも立っていません。
ただ働き方を抜本的に見直す時期に差し掛かったときは、退職金に対する実質的な増税が行われる可能性はありますので、政府の動向は定期的にチェックしておいた方がいいでしょう。(執筆者:元税務署職員 平井 拓)
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