佐藤守(仮名)さんは、10年前に父と続けて母を亡くしました。
先に亡くなった父の遺産は両親の住んでいた、居住用不動産と農地のみでした。
相続人である、守さん(弟)と幸子さん(姉)の二人とも結婚し、いずれも県外に居住していたため、誰の名義に変更するか思案中に母も後を追うように亡くなったしましました。
空き家になった実家は、長男が取得することになりました。
農地は、長女が相続することになりました。
相続が発生してから数か月後に税務署から「相続税についてのお尋ね」が届いたときの対処法を解説
長女が農地を相続した経緯
佐藤さんの親世代では、家業でもある農地は、多くは長男が相続していました。
昭和22年5月2日までは、旧民法で長男がすべて相続するという(家督相続)法律でしたが、現在は、親が兼業農家であっても、その子は、農業を選択しないことが多くなってきたようです。
それは親が農地のお守りに苦労していたのを見てきているからです。
守(仮名)さんは、妻から、「農地を相続するなら、離婚する」とまで言われ、姉の幸子(仮名)さんに、お願いをして取得してもらいました。
農地もいろいろ
農地を取得するのは制約があります。農地を農地のまま売買で取得する場合は、農地法3条により農業委員会の許可が必要です。贈与(タダでもらう)の場合も同様です。
所有者の方が亡くなり、相続人が取得する場合は、許可は不要で、相続人であればだれでも取得できます。
相続人でない方が農地を取得しようとする場合は、農地法3条許可が下りなければ取得できません。
農地法3条の許可基準
- 農地のすべてを効率的に利用すること
- 必要な農作業に常時従事する事 農地の取得者が必要な農作業に常時従事(原則、年間150日以上)すること。
- 周辺の農地利用に支障がないこと
参照:農林水産省HP
調整区域の農地とは
農地を農地のまま売買・贈与しようとすると、取得者が実際に農作業を行う条件があります。
現在、農地を購入までして農業をやる人がいるかというと、なかなか難しいのが現状です。
農地を宅地に転用して売買する場合はどうかというと調整区域の場合、建築制限の問題が出てきます。
調整区域の農業振興地域(青地)の場合
農地が農業振興地域(青地)に指定されているとなると、原則、農地を宅地に転用することができません。
佐藤さんの農地は、この調整区域の青地でした。
調整区域で農業振興地域以外(白地)の場合
農地が調整区域で農業振興地域以外(白地)の場合は宅地に転用して売買することができるかというと、調整区域とは、市街化を抑制する区域のため、日常生活のため必要な店舗等とか、もともと居住していた人が分家で家を建てるといった行政の例外規定審査を通らなければ建築はできません。
農地として売買する場合、農地法3条で購入者に制約があります。
宅地に転用して売買(5条)する場合、調整区域は、建築制限があります。
10年後
守さんは定年後、相続した実家に戻り姉が農地を相続したが、農地の管理は実家に戻ってきている守さんが行っていました。
その農地に、巨大物流倉庫が建設されることになりました。
10年前に負の不動産として姉に相続してもらった農地が、大化けしてしまったのです。
青地でも特別に行政の許可がおりたため、通常の宅地価格で売買となりました。
所有者が、姉になっている以上、その売却金は、全て姉のものになります。
売却金を、法定割合で分けたら
農地は,幸子さんが単独所有し相続は、10年前に終わっていますので、幸子さんは、守さんに売却金を渡す理由はないのです。
むしろ、売却金を、二人で分ければ、幸子さんから守さんへの贈与となり、守さんは贈与税を払うことになります。
先のことは分からない
これは、負の財産だった、その農地がたまたままた高い値段で売却できることになり、相続人間に微妙な空気ができてしまいました。
その農地が50年後も売れず、幸子さんの子が管理しなければならない土地となったかもしれません。
大切なのは、親が所有しているその土地が、どんな土地なのかまずは、市役所に行き確認してみましょう。(執筆者:FP1級、相続一筋20年 橋本 玄也)
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