健康保険証としての登録を済ませたマイナンバーカード、いわゆるマイナ保険証に関する誤登録が、大きな話題になっています。
新聞などの報道によると、例えばAさんがマイナポータルにログインして、自分の医療情報(診療を受けた病院名や処方された薬の名前など)を確認しようとしたら、別人のBさんの医療情報が出てきたそうです。
またCさんが病院の窓口に設置されたカードリーダーに、マイナ保険証を置いて暗証番号を入力したら、別人のDさんの名前が出てきたそうです。
前者のように自分の医療情報を他人に見られるのは、とても怖いことだと思います。
これに加えて例えばAさんが確定申告を行って、医療費控除を受けようと思っている場合、別人のBさんの医療情報が出てきたら、手続きができなくなってしまうのです。
一方で後者のように病院の窓口で、Dさんの名前が出てきた場合には、Cさんの体に合わない薬が処方される可能性があります。
こういった被害は出ていないようですが、医療情報を他人に見られてしまったケースは、2021年10月~2022年11月の間に、5件ほどあったようです。
ただマイナ保険証の誤登録は全国で7,300件くらいあったそうなので、実際はもっと多くの方が他人の医療情報を、見られる状態だったと推測されます。
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公的医療保険の保険者は複数に分かれている
日本は1961年4月から、国民皆保険(すべての国民が何らかの公的医療保険に加入している状態)を続けています。
また公的医療保険の保険者(保険料を徴収したり、保険給付を行ったりする団体)は、次のように分かれているのです。
国民健康保険
自営業者、農林漁業者、フリーランス、無職の方などが加入する国民健康保険の保険者は、市区町村と都道府県になります。
ただ同種の事業や業務に従事する方で組織される、国民健康保険組合に加入している場合には、各人が加入する国民健康保険組合が保険者になるのです。
健康保険、船員保険
会社などで働いている方と、その被扶養者(会社などで働く方に扶養されている所定の家族)が加入する健康保険の保険者は、次のような2種類に分かれています。
(1) 協会けんぽ
主に中小企業で働いている方と、その被扶養者が加入している協会けんぽの保険者は、各都道府県に支部がある全国健康保険協会になります。
この全国健康保険協会は船舶所有者に使用される船員と、その被扶養者が加入している船員保険の保険者にもなるのです。
(2) 組合健保
主に大企業で働いている方と、その被扶養者が加入している組合健保の保険者は、事業主が単独または共同で設立した健康保険組合になります。
共済制度
国家公務員、地方公務員、私学の教職員として働いている方と、その被扶養者が加入している共済制度の保険者は、それぞれの共済組合になります。
後期高齢者医療制度
75歳以上の方や、一定の障害がある65歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度の保険者は、都道府県単位で設立されている後期高齢者医療広域連合になります。
マイナ保険証の誤登録の原因はヒューマンエラー
マイナンバーカードをマイナ保険証として使うには、それぞれの保険者で働く担当者が、マイナンバーと資格情報(加入している公的医療保険や自己負担限度額など)を、紐付けする必要があります。
また保険者がマイナンバーを把握していない場合、住民基本台帳に登録された情報と、保険者が把握している氏名や生年月日を照らし合わせ、住民基本台帳からマイナンバーを見つけ出し、それを登録するのです。
この時に保険者で働く担当者が、登録しようと思っている方とは別の人物のマイナンバーを、登録したケースがありました。
冒頭で紹介したようなトラブルが発生したのは、このような登録ミスによる、誤った紐付けが原因だったのです。
登録ミスが起きた理由としては、登録しようと思っている方と別の人物の、氏名と生年月日が同じだったため、見つかったマイナンバーが別の人物のものであることに、気付かなかったからのようです。
また保険者が把握している生年月日が、コンピュータに入力する時のミスなどで間違っていたため、別の人物のマイナンバーを見つけたケースもありました。
つまり正しい名前と誤った生年月日に一致した人物が、住民基本台帳の中に存在したというわけです。
こういった点から考えると、マイナ保険証の誤登録の原因は、ヒューマンエラー(人間が原因になって起きるミスや事故)だったと推測されます。
年金記録問題の多くはヒューマンエラーで起きている
基礎年金番号(どの年金制度でも共通して使用する、1人に1つだけ与えられる番号)の制度が、1997年1月に開始されました。
これを受けて各人の年金記録を、基礎年金番号に統合する作業が進められました。
しかしコンピュータに記録があっても、基礎年金番号に統合されていない年金記録が5,000万件くらい存在することが、2006年の調査で明らかになったのです。
このような年金記録問題が起きた原因の多くは、次のようなヒューマンエラーだったようです。
- 紙の台帳で管理されていた年金記録を、日本年金機構の職員などがコンピュータに入力する時に、氏名や生年月日などを誤って入力したり、入力を忘れたりした
- 国民年金の窓口である市区町村の担当者が、保険料の納付記録などを日本年金機構に対して、きちんと送付していなかった
- 厚生年金保険に加入する時に、会社などが年金事務所に提出する資格取得届の氏名や生年月日などを、社会保険事務の担当者が誤って記入した
以上のようになりますが、基礎年金番号に統合されていない年金記録は、まだ1,700万件くらい残っているので、年金記録問題は未だに解決していないのです。
年金記録や資格情報を調べた方が良いのは転職した時
年金記録に関するヒューマンエラーは、今後も起きる可能性があるため、ねんきん定期便などで年金記録を、定期的に調べた方が良いのです。
転職の前後においては、厚生年金保険の資格取得日(原則として入社日)や、資格喪失日(原則として退職日の翌日)の誤りが生じる可能性があるため、特に注意したいところです。
また月給と標準報酬月額、賞与と標準賞与額に、大きなズレがないのかを調べるのも、ねんきん定期便などを見る時のポイントになります。
マイナ保険証の誤登録に関しては、マイナポータルにログインして、他人の資格情報と紐付けされていないのかを調べれば、誤登録の早期発見や早期解決につながります。
仮に正しく紐付けされていたとしても、転職して保険者が変わった場合には、新たな紐付けが実施されるため、この直後あたりに正しく紐付けされているのかを、改めて調べた方が良いのです。
家族が健康保険などの被扶養者になっている方は、自分だけなく家族の紐付けが正しいのかも、マイナポータルで調べておきたいところです。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)